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爆弾│拒絶と導火線①

 数日後、朝起きた嵐がいつも通りリビングに向かうと、いつものように朝食を作っている凪が見えた。けれど手元がどこか覚束無い。時々キッチンの縁に手をついて、何度か深呼吸をしている。 「おい、どうした」 「なんでもありません」 「ふらふらじゃないか」 「平気です……」  凪はそう言うが、嵐は気が気ではなかった。凪の言う「大丈夫」はいつも信用ならない。嵐はネクタイを結ぶ手を止め、凪をじっと見る。  その時、バランスを崩した凪が倒れる。 「おい!」  頼りない背中に、だから食べろといつも言っているのに、という静かな怒りを抑えながら、嵐は駆け寄る。抱き寄せた凪の顔を見る。顔は青白く、唇は震えていて息切れをしている。どう見ても様子を見るレベルではない。嵐は咄嗟に凪の細い手首を掴んだ。 「……っ、病院に行くぞ」  しかし凪は頑なに首を振って、立ち上がろうともしない。 「大丈夫です……お仕事、遅れます……」 「構うな」  凪はぎゅっと裾を掴んだまま、固く唇を噛み締めていた。なにをそんなに堪えているのかわからなくて、嵐は肩を掴んで問い質したくなる。けれど奥歯を噛み締めて、嵐は凪の肩の下に体を入れる。凪はなおも身動ぎをして抵抗する。嵐から逃げた凪が、床にへたり込む。 「行ってもお金、払えません」  喘鳴の合間に、凪の声がそう小さく聞こえた。その瞬間嵐の中でなにかがぷつんと切れた。 「……っ、うるさい!」  肺の中に貯めた空気に精一杯の声を載せ、嵐は凪に初めてそう怒鳴った。凪の体が、雷にでも打たれたかのように強張る。  金の問題で、お前を見殺しに出来ると思うのか。  そう言えるなら、嵐は凪にそれをぶつけたかった。けれど喉まで出かけた言葉を、最後まで言えなかった。嵐は肩で息をする。怒鳴り慣れていないせいで、嵐の手は震えていた。  凪を無理やり車に乗せ、病院まで走らせる。後部座席に座らせた凪はぐったりしたまま、目を閉じている。シートベルトをしていても、曲がり角の度やブレーキの度に体が傾く。凪は時々なにかを呟いていたが、よく聞こえなかった。  黄色信号が赤に変わる直前で、嵐は強めにアクセルを踏んだ。

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