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爆弾│火花と奉仕
翌朝、起き出した嵐は凪がキッチンに立っているのを見て嵐はぞっとした。
昨日入院していたことを忘れたのか、顔色が悪いままキッチンに立っている。嵐は思わず二度見した。嵐はリビングに出るや否や凪のキッチンに立ち、コンロの火を静かに止める。
「座れ」
声が低いのは寝起きのせいだけではない。
「医者の話を聞いていなかったのか」
凪は反射的に「すみません」と返して唇を噛む。けれど嵐は許さなかった。凪の癖は、もうわかりきっていた。だから嵐は役割を奪う。
「しばらく家事は俺がやると言っただろう」
振り向いて凪にそう言う。凪は相変わらず俯いていた。
「でも……嵐さんの、お弁当……」
か細い声だった。言い訳というより、縋るような響きだった。
「いらん」
嵐は即座に切った。
「俺の食事ぐらい自分でどうにでもなる。お前が気にすることじゃない」
嵐は火を止めたままの鍋に視線を落とす。野菜は中途半端に切られていて、包丁の位置も、まな板の上も、どこか落ち着かない。
……無理をしている。
わかっていたことだ。だから止めた。だがそれでも、凪はやろうとする。
嵐はわざとらしく息を吐き、冷蔵庫を開ける。昨日買ってきた食材を取り出し、淡々と準備を始めた。
ふと、視線を感じた。振り向くと、凪がじっと嵐を見ていた。なにかを探す目をしている。怒りか、失望か、見捨てる兆しか。
違う。
ただ、どうすれば役に立てるかを探している目だった。
嵐は目を逸らした。
「嵐さん、あの」
凪がそう呼びかける。だが嵐は無視すると決めていた。
「おれを、使いますか」
それなのに、突如、そう聞かれて嵐は困惑した。
「……は?」
「避妊、しなくて済みます」
「――お前、」
沈黙。急速に胸の底が冷えていく感覚がして、嵐は一度目を閉じる。頬が引き攣りそうになる。次いでようやく目を開け、凪を見る。凪の目が一瞬揺らぐ。だが彼は引かない。
「……それは、お前が自分をどう扱ってきたかの話であって、俺の話じゃない」
嵐の声が一段と低くなる。
「すみません、でもおれ……」
「まさか、お前は俺をそういう男だと思っているのか。……俺を、侮辱しているのか?」
「い、いえ」
それきり凪は沈黙する。数度、嵐は深呼吸する。
「いいか。ここでは俺が決める。お前は休む。それが今のルールだ」
凪は胸元に手を当て、決まりが悪そうに服の布地を触っていた。唇を噛んでいる凪はわかっているのかどうかわからないが、ひとまず頷いた。
「あと、お前は――」
少しは、甘えろ。
そう言おうとして、結局嵐は最後まで言わなかった。
それからしばらくして、折衷案ができた。
「立ってやる家事は禁止。座ってできるものだけ」
凪は不服そうだったが、それでも役割がゼロになったわけじゃない。凪には、洗濯物を畳む、野菜の皮むきなどの下ごしらえをやらせる、米を研ぐ、裁縫を任せることにした。
完全には奪わない。
凪の尊厳を、残す形にする。
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