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アクアリウム│ふわふわのお土産

 イルカショーのステージを出てからしばらくして、凪が「あ」と小さく声を上げたのが聞こえた。嵐が振り返ると、さっきのペンギンとマグロのオブジェがあるのを見つける。何人かそこに並んでいるのを見て、フォトサービスコーナーだと理解した嵐が足を止める。 「撮るか」  振り向いてそう言うも、凪は俯いて歩き出す。 「いいです」 「待て」  やはり遠慮がちな凪のそれをある程度予想していた嵐は凪を呼び止め、値段表を指さす。 「一人でも二人でも値段は同じだ。なら、二人で映ればお得だ」 「お、お得」  凪が喉を鳴らす。 「じゃあ……」  そう言って、凪は嵐と一緒に列に並んだ。順番が回ってきて、二人でフォトスポットに立つ。 「はい笑ってー」  そうにこやかに言うカメラマンの前でも、嵐は仏頂面のままだった。撮るかと提案したものの、こういうことに慣れていない嵐は拳を握り直立するだけだった。凪はどうしたらいいかわからないのか、嵐の隣でおどおどしていた。  シャッターが切られる。嵐は写真を確認する。マグロとペンギンのオブジェに挟まれる無表情の男と、それを見つめる青年の写真。確認した嵐は、ふと眉をひそめた。 ㅤ――こいつ、俺を見ている。 「えーっと……撮り直します?」 「いや、いい」  嵐はそう言って、写真のデータがダウンロードできるQRコードを受け取る。  凪はカメラマンにぺこりと頭を下げ、嵐のあとをついて歩いた。 「そろそろ帰るか」  お土産コーナーを素通りしようとした時、凪は陳列されているぬいぐるみを一瞬だけ見ていた。すぐに顔を戻した凪は、嵐の声になんでもないように「はい」と返事をする。少しして、嵐は来た道を引き返す。 「……いや。土産を買うのを忘れていた」  そんな理由をつけて、嵐はお土産コーナーへと入った。 「職場への土産を選んでくる。お前も自由に見て回れ」  そう言うと、凪は嵐から少し距離を置いて、それから店内をうろうろし始めた。  箱菓子の山を適当に物色しながら、嵐はその様子を盗み見していた。凪がぬいぐるみの置かれた棚にそろそろと近付く。さっき凪が見ていたペンギンのぬいぐるみが並んでいる。凪はそっと手に取り、お腹や頭の上をふかふかと触っては撫でている。嵐は瞬きする。  ……そういえば、先週末、バス停で傘を持った巨大生物と二人の少女が出てくるアニメ映画を見ていた時のことだった。 「――お腹、寝転がったら、気持ちよさそうですね」  泣きじゃくる少女を巨大生物が見つめるシーンで、凪はそんな感想を零していた。その時は「そうだな」としか返さなかったが、もしかすると凪はふわふわしているものが好きなのかもしれない。  そんなことを思い出していると、ふと凪がぬいぐるみの値札を裏返した。数秒固まったのち、凪はそれをそっと元の棚に戻した。嵐は箱菓子を一つ手に取ったまま、動かなかった。  やがて凪と合流する。クッキーやキャンディが入ったカゴを凪の足元に置いたあと、嵐は一瞬だけ列から外れる。そして凪がさっきまで触っていたペンギンのぬいぐるみを手に取った。 「え?」  戻ってきた嵐が手に持っているそれを見て、凪は虚をつかれたように嵐を見た。嵐は凪をじと、と睨む。 「なんだ、文句でもあるのか。俺が欲しいんだ」 「……いえ」 ㅤ凪は顔を赤くして俯いた。  出口から外へ出る。夕日が眩しくて、嵐は凪の前に立つ。駐車場までの道を並んで歩く。途中、凪と手がぶつかった。 「……っ、すみません」  そう言って凪が慌てて手を引こうとした時、嵐は少しひんやりした凪の手を取った。凪は驚いたように顔を上げ、嵐を見つめる。 「転んだら、危ない」  そう言うと、凪はまた視線を落とした。凪の細い指を、嵐の手が包み込む。凪は握り返さない。それでも、振りほどこうとはしなかった。  車に乗り込み、シートベルトを締める。今度は凪はなにも言わずに助手席に乗った。そして膝の上に、購入したペンギンのぬいぐるみを乗せる。 「お前に預ける。帰るまで大事に持ってろ」 「……はい」  凪がペンギンの頭を撫でている。時折、飾り羽を指先でなぞるような仕草もする。無意識なのかそうでないのか。嵐はただ、それを見ていた。  しばらく走らせているうちに、助手席に座る凪がうつらうつらと船を漕ぎ出す。時折、落ちそうになってはすぐにびくっと体を起こしている。そんな凪に気付いた嵐は、信号待ちのあいだ後部座席に置いたコートを出して凪の体に掛けた。 「寝ていろ」  そう言うと凪はたちまち首を振り、目を擦りながら嵐のコートを押し返そうとしていた。 「だ、大丈夫です。ちゃんと、起きてます」 「いいから寝ていろ。……ついたら起こす」  そう言って嵐はコートをパッと手離す。落とすわけにも行かないと判断したのか、凪はそのまま嵐のコートをぬいぐるみと一緒に抱き締めたまま戸惑っていた。嵐は前を向く。凪はしばらく困ったように嵐を見ていたが、しばらくすると、助手席からはすうすうと寝息が聞こえてきた。  車を停めると、凪がはっと目を覚ました。家の駐車場ではないことに気付いた凪は、きょろきょろと辺りを見渡す。

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