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最終章 嵐と凪と│✦︎ちゃんと、触れて

 書斎へ入ると、嵐が静かにドアを閉めた。部屋の中は薄暗い。窓からは街の灯りが少しだけ差し込んでいる。凪はなんとなく落ち着かなくて、指先を握った。 「……風香、起きませんかね」  凪は寝室の方へと視線を向ける。嵐はスマホでベビーモニターを確認しながら、「問題ない」と口にした。 「泣いたら戻る」  そう言って、嵐は書斎に運んできた布団を一組敷く。なんだかお泊まり会みたいだと思ったのもつかの間、嵐が振り返ってこちらを見る。視線が合った瞬間、胸がどくりと鳴った。けれど、不思議と怖くはない。  凪は布団に座る。嵐も、凪に向かい合うように腰を下ろす。……目のやり場に困る。なんと言えばいいのかわからず嵐の方へ顔を向けたところで、再度、嵐の大きな手が頬へ触れた。 「ん……」  ほんのり熱を持った指先が、凪の輪郭をなぞる。嬉しいのに、その感覚に、凪の身体が自然と強ばる。 「緊張してるのか」  低い声で言われて、凪はうっそりと笑った。 「……はい、少し」  本当は、緊張だけではない。嬉しい。恥ずかしい。でも、触れてほしい。そんな感情が混ざって、うまく息ができない。けれど、嵐は急がなかった。凪が逃げないことを確かめるみたいに、静かに髪へ触れ、耳の後ろをそっと撫でる。びく、と体が小さく震える。  けれど嵐はすぐ手を離したりはしなかった。 ㅤ嵐は「そうか」と小さく頷く。それから、嵐の手が、もう一度凪の頬へ触れる。凪はその手に、そっと自分の手を重ねた。 「……嵐さん」 「ん」  優しい声に呼応するように、気持ちが溢れる。 「俺、もっと、嵐さんの近くにいたいです」  抑えきれない言葉が零れた。言った瞬間、凪は恥ずかしくなって目を逸らしそうになる。  けれどその前に、嵐の指が顎をそっと持ち上げた。  目が合う。  近付いてくる気配に、凪はゆっくり目を閉じた。  次の瞬間、唇に柔らかな熱が触れた。 「ん……」  しばらく、唇を触れ合わせる。柔らかくて、あたたかい。  もっと触れてみたくて、凪は自然と舌を伸ばす。すぐに変だったかと思い直して引っ込めようとする。けれど嵐は受け入れてくれた。  濡れた舌先が、熱く触れ合う。凪は嵐の頬に手を触れる。すぐ耳元で恥ずかしい音がしているのに、やめられなかった。  そうして深い口付けを交わしていくうちに、凪の下腹部が熱くなる。 「あ……」  一瞬、戸惑う。けれど口付けはより深くなる。気持ちいいと思ったのもつかの間、「お前ばかり気持ちよくなるな」という別の声が頭の中で聞こえる。慌てて封じ込める。  しばらくしたのち、唇が離れたあとで見つめ合う。なんだかおかしくて、ちょっとだけ笑った。  それから凪はシャツのボタンに手をかけ、嵐の服を脱がしていく。程よく引き締まった逞しい体は、やっぱり綺麗だ、と思った。  こんな風に触ってもらえるなんて、夢みたいだと思った。  出産前に抱かれた時は、ただ恐怖を和らげて、過去の体感を上書きするための物だった。  でも、今は違う。  裸になった体を、布団の上に横たえる。衣擦れの音がする中、照明のわずかな光の下に体を晒す。  風香が産まれてから、体型はもうほとんど元に戻っていた。それでもずっと前に付けられた傷に恥ずかしさを抱える。嫌な気持ちにさせてしまわないかと、そればかりが不安になる。  それでも見て欲しいと思うのは、わがままなのか。  それとも……  ――淫乱  ――変態だな  頭の中で声が聞こえる。思わず脱いだばかりの服を手繰り寄せたくなる。けれどその時、嵐の手がまた凪の頬に触れた。やがてその手は首筋を辿り、肩に流れ、腹をなぞる。少しくすぐったくて身動ぎすると、嵐の手が驚いたように素早く離れる。  しばらくして、大丈夫だとわかったのか再び腹をなぞる。それから下肢へと続き、やがて昂っているそこへ辿り着く。 「あっ……」  思わず声が出る。嵐の指が、繊細な手つきで凪の中を愛撫する。たちまち自分だけ気持ちよくなるのがなんだか申し訳なくて、なにかしたくて、凪は嵐に向かって手を伸ばす。けれど嵐にあっさりと躱された。 「そういうことは、しなくていい」 「……気持ちよくしたいです。俺も、嵐さんのこと……」  恥を忍んでそう言うと、嵐が数秒固まる。  しばらくすると、複雑そうな顔をしながらも、「嫌ならやめろ」と言って、許してくれた。  恐る恐る、嵐のそこに手を伸ばす。嵐のそれは想像していたよりも大きくて、熱かった。自分を見てそう言う気持ちになってくれたんだと思うと、なんとなく嬉しかった。  早く終わらせるためじゃない。殴られないようにするためじゃない。    ただ、好きだから触れたい。  そんな気持ちで、凪は静かに手を動かす。  お互いの大事なところを触る水音が響く。嵐の口から、時々引っかかるような低い声が漏れる。普段きっちりしている嵐の乱れた姿に、凪は、こういう姿見ているのが自分だけなのかと思うと、無性にドキドキした。  ……もっと、嵐を体の奥で感じたい。  凪は生まれて初めて、誰かに、そう思えた。

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