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二十二、穢れの元凶

 蛭子(ヒルコ)を見つけたあの洞穴のことを水月(みなづき)に報告しに行った、あの日。その足で再びあの蠱毒を見に行くことになった。水月はなぜこんな邪悪なものが今の今まで見つけられなかったのかと疑問に思っていたようだが、洞穴の入り口あたりを調査した結果、ある可能性が浮上する。 「ここの入口は、意図的に封鎖されていたようだね。周辺に岩がたくさん転がっているから違和感ないけど、おそらく岩を積み上げて塞がれていたんだと思う。なにかの拍子に崩れてしまったのかもしれないね、」 「なんで塞ぐ必要が? そもそも、ここはどういう場所? 」  蛭子のことは当然話してはいない。水月が見たのは深い穴の中で蠢く、蛭のバケモノ。祟神と化している悍ましいあの存在だけだった。黒鴉(くろあ)はなんにも知らないふりをして、訊ねる。  実のところ黒鴉自身、ここがなんのための場所かはわかっていなかった。それでも訊ねたのは、それがわかれば蛭子が生まれた理由もわかるかもしれないと思ったからだ。 「わからない? ここに留まっている何十人もの赤子や幼い子どもの霊魂の残骸。なぜ残骸になっているのかはもっとちゃんと調べてみないとわからないけれど……。ここは間引きした子どもを捨てる場所だったようだね」  間引き即ち子殺しの風習。今の時代はほとんどないが、かつてこのあたりでも行われていたらしい。この洞穴は、生きたままもしくは殺した子どもを捨てる場所だったのだろう、と水月は推測した。  貧困が原因で起こる口減し。  弱い者から先に命を奪われるのが常。  自分たちが生き残るための防衛手段とも呼べるそれは、一見残酷で冷淡にも思えるが、それくらい危機迫っていたということでもある。穢れが生まれる前、つまり五百年以上も前の話だ。やがて飢饉も落ち着き、この場所は人々の中で『目を背けたい忌むべき場所』として封じられたのだろう。 「……神と名の付く者はなんでもできるわけじゃない。この地を守るのが役目だけど、こういう時になにもできないのは、もどかしいよね」  洞穴の場所からして、山の反対側にある町や村の人間たちがやって来て口減しを行なっていた可能性が高い。そしてその反対側に住んでいた者たちがこちら側へ移住してきて、いくつかの村ができた。その後、水月がこの地の土地神となったが、その時にはすでに穢れが存在していた。 「私がやったことといえば、山神とその番の関係を作り、この地の穢れを浄化するためにひとの子を贄として捧げさせたようなものさ。やっていることはほとんど変わらない。本当に酷い神だよね、私は」 「まあ、それはそうだけど。水月様はわかっててやってるからなぁ」  でなければ、神が自身のことを酷いだなんて言わないだろう。そういうところが黒鴉としては水月を信頼し慕う部分でもあった。 「穢れの元凶。ここを再び閉じたところで、あまり意味はないだろうね」 「なんで? 元凶を封じれば解決、じゃないの?」 「穢れは穢れを呼び寄せ、留まり続ける。結局、すべてを浄化するしかないんだよ。今は小さくて気付かないような穢れが、いつしか大きな穢れとなって毒となる。ここから生まれた穢れがいったいどれだけあるのかもわからない」  せっかく見つけたのに意味ないじゃん、と黒鴉は肩を竦めた。 「あの悪神、祟神と化している蛭は、時間をかけて浄化するしかない。見たところ、かなり年季の入った凶悪な蠱毒のようだからね。しかしこんなにも醜悪な場所なのに、今までこの程度で済んでいたのが不思議でならないよ」  感心するように水月は洞穴の前で大きく嘆息する。木々に囲まれた山の奥。そこにひっそりと存在する洞穴。雪に埋もれているがあたりには岩がごろごろと転がっている、そんな物騒な場所。しかも今の状況は、洞穴内の異様に濃い瘴気が外に漏れ出している始末。 (気のせいか? 前に来た時よりも濃くなってる気がする……穢れも出ていく頻度は比較的少ないが、なんだかデカくなってないか?)  黒鴉は今更だがその変化に違和感を覚えた。蛭子が贄としてあのバケモノたちに延々と喰われ続けることで、穢れが生まれていたのではなかったのだろうか? 「まあ、いずれにせよ、結界を施してこれ以上穢れが広がらないようにしないといけないね」 「でもそれじゃ、さっきの話からして根本的な部分は解決しないんだよね?」  そうだね、と水月は息を吐き出すように呟く。 「なにもしないよりはマシってことだよ。根気強く見守るしかないね。その点、私たちには時間ならいくらでもあるから、どうにでもなるってこと。すでにここから放たれてしまっている穢れは、山神と番の花嫁に任せるしかないかな」  まだ始まったばかりのあのふたりには重すぎる任かもしれない。水月は右手をかざして洞穴の入り口に結界を施す。それから誰も入れないようにするため、転がっていた岩たちを次々に浮かせて穴自体を塞いでいく。 「銀花には俺から話をしに行く。実はまだあいつの大事な花嫁に挨拶してないんだよね〜」 「あの子たちはうまくやっていると思うよ? けれどもまだ真の番にはなっていないんだ。くれぐれもふたりの邪魔だけはしないようにね?」  はいはい、と黒鴉は曖昧な返事をしつつ、あの日一度だけ遠目で見た、どこまでも平凡な番の花嫁の姿を思い出していた。

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