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【 山神様の番 】〜生贄として捧げられた花嫁は、山神様に溺愛され本当の愛を知る〜 三十五、これからのこと | 柚月なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
【 山神様の番 】〜生贄と...
三十五、これからのこと
作者:
柚月なぎ
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三十五、これからのこと
黒鴉
(
くろあ
)
の横には
蛭子
(
ヒルコ
)
が、
銀花
(
ぎんか
)
の横には
楪
(
ゆずりは
)
が立ち、そんな二組を前に
水月
(
みなづき
)
が「提案があるんだけど」と少し言いにくそうに話し始めた。 「あの蠱毒の穴をどうするか。この数日考えたんだけどね。ただ塞ぐだけではやはり解決にはならない。そこで、なんだけど……蛭子くんにお願いしたいことがあるんだ」 「本来の役目を果たせ、ということでしょ?」 すでに察していたのだろう。蛭子は表情を変えることなく水月に問う。それがなにを意味しているのかを楪は知らない。銀花や黒鴉は薄々わかっていたらしく、戸惑いや疑問といったものは浮かんでいなさそうだった。 「……それをすることで、蛭子様が危険なことにはなりませんか?」 「ユズちゃん、それは私にもわからないんだ。でもそうならないように黒鴉を傍につける。蛭子くんのチカラは穢れを喰らい、無にするということがわかっているからね。あの大量の穢れをどうにかするには、山神と花嫁だけではどうにもならない」 楪がまだ真の
番
(
つがい
)
になれていない状態で、銀花の身体に穢れを背負わせるのは危険と水月は考えた。すでに外に出てしまっている穢れは銀花に、あの穴に留まり生まれ続けている穢れは蛭子に。そうすることで、最終的にこの地の穢れをなくすというのが目的だ。 「穢れがこの地からすべてなくなれば、山神と番の花嫁も必要なくなる。番として選ばれた子に辛い思いをさせなくて済む。君たちも自由にどこへでも行ける。私はね、君たちに本当の意味で幸せになってもらいたいんだよ」 優しげに細められた翡翠色の瞳に、楪は言葉を呑み込んだ。本当の幸せ。自分にとっての幸せとはなんだろう。穢れがなくなれば、もう花嫁は必要ない。それはつまり、銀花とはお別れするということなのだろうか。 「……穢れ、がなくなってこの地が安定したら、もう番の花嫁は必要なくなって……この先、私は銀花様と一緒にいられなくなるということ、ですか?」 「それは違う。次の花嫁が必要なくなるということだよ。楪が望むなら、俺はこの先もずっと一緒にいると誓おう」 そ、と銀花に肩を抱かれ、そのぬくもりに不安な気持ちが少しだけ解消される。けれども、自分がそれを望まなければ、銀花は一緒にはいてくれないということ? 楪はますます不安を覚えたが、望めば叶うのなら、と思い切って訊ねてみる。 「私は、銀花様の花嫁のままで、いいのですか?」 「俺がそうあって欲しいと願っているくらいだ」 見上げればいつもの穏やかな笑みが浮かんでいて、一緒にいてくれるという言葉をもらったことでようやく落ち着くことができた。しかし、蛭子が危険なことをすることに変わりはなく、複雑な気持ちが胸の内をぐちゃぐちゃにした。 「蛭子のことは俺に任せて。食べる量を間違えなければいいだけ。時間はかかるかもだけど、いつかの平穏のために今やらないとね」 黒鴉が自信満々にそう言うので、そうなのだろうと信じるしかない。蛭子はまったく表情を変えないので、本当にやりたいのか否かが読めなかった。 「あの蠱毒の蓋の役割をしていた贄。あの穴で亡くなった子どもたちの魂。身体。それらを繋ぎ合わせてひとつにした存在。あの場を利用して作られた贄。誰かはわからないけれど、当時の祈祷師かそれとも私より前にいた神の類か。蛭子くんはなにか憶えていない?」 首を横に振って、蛭子は無言で答える。 「ボクの記憶は当てにならない。別の子が何人も頭の中にいる。その子たちもなにも知らない。誰がボクたちを作ったか、なんて。どうでもいい。ボクに名をつけた奴がボクたちを作ったんだろう。思い出したところでなんの意味もない。たとえそれが親だとしても、今のボクには関係ないことだ」 そんなことを考えなくても済むくらい、今が大事だと。蛭子は楪を見つめて想う。楪の傍にいると、自分でも不思議なくらい気持ちが穏やかになる。黒鴉の傍にいると余計なことを考えなくてもよくなる。蛭子にとって、あの穴にいた時には考えられないような心の変化が生まれていた。 認めたくはないが、それもこれも、あの穴から連れ出してくれた黒鴉のおかげ……だろう。 「水月様、俺も一度その穢れの元凶を見ておきたいのですが」 「わかった。後日、日を改めて案内しよう」 銀花の要望に水月は了承する。銀花としては場所を把握しておく必要があった。知らずに楪が近づいたら危ないし、山に棲む者たちにも近づかないようにと伝えた方が良いだろう。その辺りは水月が上手くやってくれるはずだ。 長年この山に棲んでいるが、人間が立ち入ったという話を耳にすることはなかった。あるとしたら、山神に捧げられる花嫁を運ぶために籠を担ぐ者たちが数人、頂を目指す時くらいだろうか。その際ですら、花嫁と言葉を交わしてはならないなど、様々な掟がある。 「じゃあ私は、これでお暇するね。話したいことも話せたし。また遊びに来るよ」 「はい……、水月様、今度少しだけふたりでお話できますか?」 「今からでも構わないよ? 次にここに来るのはちょっと先だから」 「では、お願いできますか?」 銀花をちらりと見上げれば、行っておいでと肩に置いていた手を離し、背中をそっと押してくれた。なんの話なのかを訊ねることもなく、水月の許に行くことを許してくれた銀花に頭を下げ、楪は社とは反対方向に駆けていく。 黒鴉と蛭子も帰ることにしたようで、銀花はふたりを見送った後、自室で待つことにした。本当は水月になどではなく、自分に話して欲しかった。けれどもそれをしなかったということは、銀花には聞かれたくないことなのかもしれない。 (なにかひとりで抱え込んでしまっているのだろうか。さっきも、) 花嫁でなくなる、ということに不安を覚えていたようだった。 「……ぐっ……また、か……っ」 心臓のあたりをぎゅっと握りしめ、銀花はその場に膝をついた。冷たい汗が頬を伝う。息苦しさと身体の内部から訴えてくる激しい苦痛に、蹲るしかない。あの時の穢れが、思いの外悪影響を及ぼしているようだ。時間がないのかもしれない。 宿し続けた穢れが限界に近づいている。このまま蓄積し続ければ、穢れに呑まれてしまう可能性もあるだろう。しかし、どうしてもこちらから無理矢理という気にはなれなかった。 楪の笑顔が消えるようなことはしたくない。ただでさえ、最近なんだか思い詰めている気がする。楪が思い描いているだろう自分の理想像を、壊してしまうかもしれない。 それだけは、絶対に嫌だった。
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柚月なぎ
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