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四十三、重なり合う鼓動 ※
湯殿で身体を清め、楪 は伽 の支度を整える。銀花 がその身に宿した穢れを己が身に移し、浄化するのが山神の花嫁の役目。それ以上に、銀花と交わる行為そのものが楪にとっていつまでも慣れないものだった。身体を重ねるのが嫌という意味ではなく、目合 いの時の銀花の声や触れ合い方がいつもと全然違うためである。
その優しい声で囁かれると、ぞくりと身体がふるえた。指先がそっと肌をつたうだけで、心臓がばくばくと大きな音を立てる。
楪は毎回恥ずかしくて顔を隠してしまうけれど、銀花は咎めたりはしない。寧ろ、穏やかな眼差しでこちらを見つめては、よしよしと頭を撫でてくれるのだ。
単衣だけの装いで銀花の待つ部屋へと向かう。氷雨の部屋は少し離れた場所にあるので、ふたりの情事を聞かれることはない。いつもの賑やかさも好きだが、この時だけはふたりきり。また違う雰囲気が訪れる。はじめて銀花と触れ合った時のことを思い出す。初夜の儀式で項を噛まれたあの時が、楪にとってのはじめてだった。
それから色々あった。気持ちが定まらず揺れ動いたり、忘れていた悲しいや苦しいを乗り越えて、愛おしいという気持ちを知った。
愛おしい。好きとも大好きとも違う、尊い感情。銀花の姿を目に映すたび、その感情は深く大きくなっていく。それは時が経った今も変わらず、楪の中で無限に育ち続けていた。
「銀花様、お待たせしました……、」
扉の前に立ち、声をかける。足音が向こう側から近づいてきて、やがて扉が開かれた。部屋の中へと迎え入れられ、銀花の少し後ろをついて行く。その足が止まり、こちらを振り向いた銀花の胸の中に楪の身体がゆっくりと収まった。
銀花から香るのは白檀の香り。その香りに抱かれると、なんだか心が落ち着くのだ。
「久々にお前を独り占めできる」
「ふふ。私も銀花様をひとりじめ、嬉しいです」
たどたどしく可愛らしいことを言う唇に、銀花はそっと口付けを落とす。楪の顔は銀花より低い位置にあるため、横から覗き込むような格好でその柔らかい唇を喰む。最初はくすぐったそうにしていた楪の表情が、だんだんと蕩けるような甘さを醸し出してくる。次第に深く激しくなっていく口付けにお互いの息が混じり合って……。
名残惜しそうに離れていった唇。身体を蝕む熱でぼんやりとしていた楪は、ひりひりとする自身の唇に手を当てる暇もなく、軽い身体を抱き上げられる。金色の瞳に映る姿に、恥ずかしさを覚えた。物欲しそうな顔がそこにはあって、楪は顔を覆いたくなったが、代わりに銀花の肩に額を押し付けた。
「銀花様……、あんまり見ないでください」
「なぜ? 俺の可愛い花嫁の表情を、いついかなる時でも見逃せるわけがないだろう?」
顔を隠して恥じらっている姿でさえ、銀花は満足げだ。
「今宵は俺だけの楪でいて欲しい。愛する花嫁のために、尽くすと誓おう」
「そ、それは私の役目です! 銀花様が溜めた穢れ を私の中で綺麗にします!」
おそらく、自分がすごいことを言っているという意識はないのだろう。銀花はそんな一生懸命な楪の言葉に愛おしさが増した。穢れの浄化という目的がなくとも行為自体は自然な流れで今までもしているのだが、そこに花嫁としての役目というものが加わると、楪は生き生きとしていた。それが銀花としては悩ましいところで。
「俺はできることなら、あまり楪に負担はかけたくないのだが……、」
「私にできる、数少ないお役目なので」
言って、瞳をキラキラとさせている楪に、これ以上なにを求めることがあろうか。
「そうか。なら、よろしく頼む」
寝床に楪を座らせ、銀花は床に膝をついてその手を両手で包み込むように触れた。不思議そうに見下ろしてくる楪は新鮮で、視線は重ねたまま触れた手の人差し指と中指の付け根あたりに口付けをした。その瞬間、楪の顔が耳まで真っ赤になって、色素の薄い大きな瞳が動揺の色を浮かべ始める。
「ぎ、銀花様……っ」
右手を銀花が奪っているせいで顔を隠せず、口元しか覆えていない。恥じらう楪の姿をもっと見たいと、銀花はそのまますべての指の付け根に順番に唇を落としていく。そのたびにびくびくとふるえる敏感な身体に、もっと感じさせてやりたいと思ってしまう。
「ゆび……や、です……っ、へん、になる……」
いつもの敬語もいいが、油断した時のそれもたまらなく可愛らしいのだ。
「指で感じてくれるなら、いくらでも」
執拗に口付けた後、銀花は指にゆっくりと舌を這わせていく。
「……や、め……も、やだ……」
「そんなに気持ちいいかい? 指だけでこんな状態じゃ、ここに触れたらどうなってしまうのかな?」
「……んっ……あ……っ」
薄い単衣の下の部分がすでにしっとりと濡れていて。座っているせいでちょうど良いところにあった。楪の右手を解放することなく、そのまま一緒に単衣の上から触れる。
まるで自淫行為を目の前でさせられるような。自分の手を包み込むように銀花の大きな手が自身に触れているようで、なんとも言えない感覚が押し寄せてくる。
「な、んで……? わた、し、……私が、します、から」
「ひとりでできる? 俺がしてあげられない時は、ひとりでしてるのかい?」
「ちが……っ、私が、ぎん、かさまの、します、」
なにを言いたいのかをわかっていながらあえて意地悪をしてみたのだが、ぎゅっと目を瞑って苦しげに訴えてくる楪の姿に罪悪感を覚える。が、今宵は久方ぶりの交わり。まだまだ夜は長いのだ。
「だめだ。まずはお前をよくしてやらないと。穢れがその身に入ってくる悍ましさを一瞬でも感じられなくなるくらい、俺で満たしてやりたいのだ」
「で、でも……っ、これ、や、です……私の手、銀花様の、……ああ……っ」
じわり、と先ほどよりも濡れ広がっていく染み。楪は涙目で銀花を見つめてきた。どうやらちゃんとはててくれたようだ。ぐっちゃりと汚れた単衣。乱れた表情に吸い込まれそうになるのを堪えつつも、銀花は重ねていた手をようやく放してやる。
単衣の帯を解き、閉じられていた前の方がはらりと横に広がって、傷ひとつない生白くなめらかな肌が露わになった。そっと上からなぞるように触れ、ゆっくりと目的の場所へと手を這わせていく。
「え……? も、もう、いい、です……やっ……まだ、さわら……ああっ」
はてたばかりでまだ熱を帯びたままの自身に触れられ、強く、時にもどかしいほど優しく上下される。楪の意思とは関係なく、再びゆるゆると立ち上がっていく自身に銀花の指先が絡み合っている姿を目にしてしまい、我慢できずにすぐに二度目の射精に至った。
「楪、身体を倒すよ?」
もうなにも言葉が出ず、銀花に押し倒されてもなお余韻に浸っていた。首筋を甘噛みされてやっと意識が戻ってくる。しかし敏感になりすぎた身体はなにをされてもびくびくと反応し、触れ合う熱に溺れてしまう。強く吸われた鎖骨に痕が残される。ぎりぎり着物に隠れる場所だったが、今の楪にはどこに付けられているのかさえ判断できなかった。
「もうすでにだいぶ柔らかくなっている……もしかして、自分でほぐしたのかい?」
纏っていた単衣の隙間から後ろの方に手を伸ばされ、確かめるようにその蕾を指で弄られる。自分よりも太い銀花の指は、楪の蕾をかき混ぜるように広げ始める。銀花を早く受け入れるため、湯船の中で時間をかけてほぐしたのがバレてしまったようだ。
こくり、と小さく頷くだけの返事をした楪に対して、銀花は胸が熱くなる。
「……銀花、さま····が、欲しいです」
「俺も楪が欲しい」
寝床の横に備え付けた棚の上に用意していた小瓶を手に取り、ぬるぬるとした液体を指に塗りつけ、それから再び楪の蕾をかき混ぜる。今度は二本、三本と指を増やし、液体を塗りつけてくちゅくちゅと動かしゆっくり慎重に広げていく。銀花のそれを受け入れてもらうため、楪の痛みを少しでも和らげるためでもある。
もう、いいだろう、と楪の身体を起こし、後ろから抱きしめるような格好にする。されるがままだった楪だったが、ゆっくりと身体の中に入ってくる銀花に身を捩る。しかし強く抱きしめられたままの身体は、戻ることも進むことも許されなかった。やがて銀花のすべてで満たされた蕾に反応して、じんわりと前から白濁がこぼれた。
「苦しくないか? まだ動かない方がいい?」
甘い声が吐息と共に耳元をくすぐった。締め付けられた蕾の奥で苦しそうなのは、寧ろ銀花の方で。自分の熱ではないものが身体の中に在るという幸福感に目がまわりそうだった。肩からずれて乱れた衣を気にする余裕などすでになく、楪は頷くのもままならなかった。
とんとんと奥まで激しく突き上げられ、座っているせいでより深い場所に銀花が迫ってくるのを感じながら、意識が飛びそうになるのを必死に堪える。穢れが入ってきていることなどわからないくらい、銀花に抱かれているという幸福感の方が強かった。
体位を変えて楪を仰向けに寝かせて、今度は視線を重ねながら細い腰に手を伸ばす。すでに銀花の形を覚えた蕾は、すんなりと受け入れてくれた。瞼が半分閉じかけていた楪だったが、一気に奥に入ってくる感覚に思わず瞳を開いた。
「あ····ああっ······んんっ」
漏れる声は銀花によって塞がれ、激しく奥を突かれては何度もはてた。はしたないという気持ちよりも、もっと欲しいという気持ちの方が強くなって、銀花の首に縋り付く。密着したお互いの身体に響く鼓動が重なって。全身があつくなった。
穢れがすべて浄化された後も、ふたりは体位を変えながら何度も身体を重ねてお互いの想いを受け入れ合った。楪の喘ぎ声がだんだんと大きくなって、やがて最後に同時にはてる。
半分開いた楪の唇を塞ぐように、深い口付けを交わして。もれた吐息の音だけが静謐の中に響いた。
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