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第2話 雪椿
「Aランクの奴、女子だって!」
ざわめきの中で聞こえてきた言葉に反応する。
女子。それはこの学校では滅多にいない存在だ。
なぜならこの学校は、冒頭でも述べた通り、適合者が国に徴兵されて集まっているのだ。
日本では現在徴兵対象は男性のみであり、女子は志願した者のみがこの学校に入学する。
たとえ遠隔操作ロボだとしても、戦争ごとに自分から関与したいだとか、軍人として生きたい国民というのは日本では少ない。
徴兵対象ではない女子は必然的にこの学校でも数えるほどしかいないだろう。
女子もいないことはないが、殆ど男子校である。それがこのスぺクタル搭乗者育成機関養成学校だ。
そんな中で女子である上にAランクなんて高適合者が現れたら、そりゃ噂にもなるだろう。
男たちはAランクの女子を見て色めき立つ。
その女子は、伊集院と同じくパイロットとしての自信に満ち溢れているのだろう。毅然とした態度で高スペックな機体を選んだ。
Aランクのパイロットたちも無事に高性能な機体を手に入れ、次はBランクの番になった。
Bランクから下は、とにかく人数が多い。良い機体が手に入るかどうかは、早い者勝ち。つまり競争だ。
「えーと……端の方の機体は、あんまり高性能じゃないのかな」
俺は倉庫の端の方まで足を伸ばそうかとも考えたが、なんせスぺクタルの倉庫は広い。出撃するときも、遠隔操作だから指定のシャッターだけ開いて出撃するのだ。人間が歩き回って見回れる程度の広さを越えている。
「おう、兄ちゃん。この機体はちょうど修理が終わるから、良かったら見て行くかい」
「えっ……修理?」
そうこうしていると、機体の整備士のおっちゃんに声をかけられた。
「修理って……」
「この機体、前のパイロットが敵にやられて廃棄寸前まで行ってたんだ。でも俺ら整備士が何とか持ち直して、元通りになるまで毎日手を尽くしてきたんだよ。政府にとっちゃどれも使い捨てのロボかもしれんが、俺達機械いじりにとっちゃ可愛い機体たちだ。このまま捨てられるなんて納得いかねえ。よう、兄ちゃん、今なら元通りに直すどころかちょっとばかし色付けてあるぜ。君の適合率は知らんが、高ランクと渡り合える可能性だって秘めてる。それがこの新生『雪椿』だ!!」
「へ、へぇー……」
おっちゃんは熱く語ってくれたが、俺は引いていた。
修理どころか廃棄寸前まで行っていたということは、装備的にも性能の低い機体なのだろう。
しかも、スぺクタルが廃棄寸前まで行ったということは搭乗していたパイロットはほぼ確実に、精神を破壊され廃人になっている。
搭乗者依存のロボであるスぺクタルだからこそ、そんなことまで透けて見えてしまう。
さっきおっちゃんは色付けてくれている……とは言ったが、とはいえ高ランクの奴らと渡り合えるほどの性能にまで持っていったというのは、機体可愛さ余って大げさにそう見えているだけだろう。
実際の所は、出撃後廃棄寸前に追い込まれるほどのショボい機体ということだ。
「え、えーと……一度他のを見てきてからでも、良いですか?」
それとなくおっちゃんから離れようとしたその時、「おーい!!そろそろ次のクラスの見学時間だ!さっさと機体決めて集合だ!!」岩谷がメガホンを使って招集をかけた。
「も、もう?!Bランクの見学が始まってからまだそんなに……」
「兄ちゃん、これが『雪椿』の搭乗証だ。大事に持っときな」
おっちゃんが首に通すストラップが付属したカードを投げて寄越す。
「え、ええっ……」
「おーい!早く集まれ!!時間だ、BランクCランクども!!」
「兄ちゃん、『雪椿』の凄さ、オメェが知らしめてやれ!」
「そっそんな~!!」
俺は『雪椿』の搭乗証を手に、渋々駆け足で集合場所まで走っていく。
入学早々、こんな外れくじを引かされるなんて思ってもみなかった。
もし先代と同じく敵にやられそうになったら、俺は搭乗をその時点で辞めて自分の身を守らねばならない。
くっそ~、機体と共に死なばもろともなんて、冗談じゃねえぞ。
俺は『雪椿』の搭乗証をぎゅっと握り締めた。
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