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第28話 契約成立
「あの、俺……なんでもするんで。戦術も今、授業で習っている最中だし……あと、耳には自信があるんです」
目の前の彼、佐倉が緊張気味に口を開いた。
「耳?」
「……はい。飛行型のスぺクタルのジェット気流の風向き音とか……飛行型じゃない機体の近付いてくる音とか。そういうのが、他の人よりちょっとよく聞こえる体質っていうか……。だから、オペレーターとしてもちょっとは役に立てると思います」
俺はもう一度、脳内で考えを巡らせる。
彼がオペレーターとして戦闘に参加するとして……。
……そうか。戦闘後の俺の回復を、佐倉にやってもらうという手も、あるかもしれない。
俺は突然のひらめきに、佐倉に向かって首を縦に振った。
「じゃあ、よろしく。俺は、倉海美駒。同じ一年だし、敬語は無しでいいよ」
「えっ、いいんですか!」
「ああ」
「おっ、決まったみたいだな」
安心したように、岩谷が笑う。
「よ、よろしく!俺のことは、亜純って呼んでくれ」
「じゃ、俺のことは美駒で」
「おう!」
「それじゃ、契約成立だな。申請所まで一緒に行ってこい」
俺たち二人の背中を押す岩谷に俺は礼を言う。
「ありがと、岩谷」
「先生を付けろ」
そうして保健室を後にした俺達は、申請所へと向かう。
「あー……そういえば、保健室に一人、男子がいただろ?」
別れ際に岩谷が俺達に零す。
「あっ……そういえば」
それに反応する亜純。
「俺、一応挨拶はしましたよ」
俺は端正な顔立ちの男子生徒を思い返しながら、岩谷に言う。
すると岩谷は意外そうな顔で俺を見た。
「あいつさ……、ホロスクラスの生徒なんだけど、入学初日からずっとクラスに登校できてないんだ。一応呼べば学校には来るから、不登校ってわけじゃないんだが……。今の所は、保健室登校って感じ。もしお前らが保健室使うことがあれば、あいつは大抵保健室にいるだろうから、同じ学年として時々気にかけてやってくれよ」
「……この学校って軍の育成機関なのに、不登校とか、アリなんですね」
思ったことを口にすると、岩谷はがしがしと後頭部をかきながら答えた。
「世間じゃこの学校は軍の予備軍なんて言われちゃいるが、お前らもあいつも、まだ高校生だろ。そういう奴がいたって、何も不思議なことじゃねーさ。色んな奴がいて、色んな事情があって……まあ、そういうことだからさ、あいつも友達の一人もいないまま時が過ぎていくのを待って、最終的には軍に徴兵されるなんて虚しいだけだ。時々相手してやってくれよ」
「まあ……保健室にそんなに頻繁に行くかはわかりませんけど、わかりました」
「わかってねえのかわかったのかどっちだよ。ま、話は変わるが二人とも、上手くやれよ。じゃな」
「はい」
「ありがとうございました」
亜純が岩谷に礼を言うのを聞き届けて、岩谷は去って行く。
「……そういえば、美駒の隊には3人も隊員がいるのか?」
申請所に向かいながら、道中、質問してきた亜純に俺は指折りながら答える。
「あー……Sランクの一年が一人と、Aランクの三年の先輩が一人、Bランクの一年が一人。って感じ」
「え、Sランク!?Aランクもいるのか?!」
「まあ……」
Aランクの先輩に限っては最近は力を受け取っていないのでオペレーターとしてだが、十分驚かれるようなメンツではある、だろうか。
「そんなに強力な艦隊なのに……Cランクの俺なんか拾って、大丈夫なのか?」
「まあ、亜純には亜純にできることがあると思うし」
「そ、そうなのかな……例えば?」
「例えば……って言われても、オペレーターとして戦闘に参加してくれるんだろ?」
「お……おう!任せてくれ!」
「あとは……あっ」
「え?何か、ある?」
「言い忘れてた」
俺は、俺の脳内だけで完結させてしまっていたことを申し訳なく思いながら、亜純に切り出した。
「多分俺、お前のこと抱き潰す」
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