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第5話
トイレから出てみると目の前に彼がいた…ズボンをはいてチャックも閉めて
申し訳なさそうにうつ向きながら
「申し訳ありません…主が部屋を出られた後私は色々と考えました、きっとあのお方を忘れられないのだと…主に面影を重ねていたのだと…主は健全でピュアで確かにあのとき私の下半身にジャンパーを被せてくださった…そんなかたに私を犯すなど出来るはずも…」
僕は彼を通りすぎて手を洗いに行くと…彼はついてきた…でもおねだりはしてこない
鏡に写る悲しげな目だけが僕を見つめている
言いたいことがたくさんありそうに口が動く
しかし口からは出てこない…
僕は彼を押し退けてベッドに急ぐ
扉までつくと彼は入っては来なかった
「おやすみなさい…主…」
彼の言葉が扉が閉まる音と重なった
ベッドに飛び込むと…いろんなモヤモヤからかなかなか眠れなかった
僕は彼が入れてくれたであろうコーヒーに手を伸ばす
暖かくて…それでいて冷たかった
湯気が立っていたのに…なぜか冷たい…手を洗ったのに冷たく感じる
僕は気にはなったがすぐに飲み干した…苦い…
きっとこれは彼が飲むはずだったんだ…
なんだろう…コーヒーのせいかもしれないが……なんだか眠くなってきた……
僕は横向きですぐに夢の中へ…
母に優しく抱かれる夢…大好きだった母に「大好きよ」とささやかれながら…僕は母のような女性と…いつかは……
でも…なんだろう…あの人の声が聞こえる
僕を求める声…寂しそうな声…あの人が頭から離れない
これは夢なのに…僕の願望……?
だって僕は…そんな気なんてない…違う……違う!
違う…違うのは僕の心のほう…そう…僕はあの人に…………
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