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元恋人を騙る男についていったら×××されました

 その国に行こうと思ったのは、いつもの気まぐれだった。  船に乗って三日。港に到着してからは真面目に薬を売って歩いた。船に乗るために有り金を全部使ったおかげで、宿に泊まる金すら残らなかったからだ。 「嵐の後に到着したのがラッキーだったな」  頭のまわりを旋回する精霊二匹に話しかけた。持ってきた薬は完売。長く続いたスコールのせいで物資が不足していた港町では、風邪薬や傷薬があると触れ回ると、人々が群がってきて飛ぶように売れた。  ふんふんふーんと鼻歌を歌いながら今夜の宿を探す。港に近いだけあって、船夫のための安宿が多い。だが、おれのお目当てはもちろんそこじゃない。  分かるだろ? 海の男たちの、あの立派な体躯。男らしく盛り上がった筋肉を前に、おれは船に乗ってる間はちゃあんと我慢した。何でか分かる? あんな狭い空間で修羅場になって、おれを取り合った益荒男どもが喧嘩し始めたら、オタサーの崩壊の如く悲惨な状況になるのは目に見えてる。だから我慢したわけ。平和な船の旅をお楽しみくださいとばかりに垂涎ものの筋肉を前に、このおれが我慢をした。えらいっ。  正直に言えば、船には健全な親子連れとか老夫婦とかが多くて、さすがのおれもチキっちゃった。家族旅行中に野郎たちの乱交なんて目撃した日には性癖変わっちゃうからね。  というわけで三日の禁欲生活を経て、おれは決心した。  陸に降りたら、絶対イイ男を捕まえてグッチャングッチャンのドエロいセックスをする。  そのためにぶらぶらと街を歩きながら今夜の宿に連れ帰るお相手を物色してる最中というわけだった。  ところが、船乗りたちはもっぱら女にばかり興味があるらしい。キュートなおれが視界にも入らないようで、完全にスルーして娼館に向かってしまう。  時刻はもう夕方。薬を売り捌くのには時間がかからなかったけど、男漁りには難儀した。誰か一人くらいいるだろって思ってたのに大誤算だ。  陽が落ち始めると気分まで落ちていく。あーあ、今日はもうダメかも。どこもかしこも娼館ばっかり、女ばっかり。くっそー。おれが女の人も好きになれる男だったら良かったのになぁ。  歩き疲れて街道の隅の石畳に座り込んだ。太腿に肘をつき、手のひらに顎を乗せて、帰路につく人々を眺める。  そもそもおれも最初は女の子が好きだったはずなんだよな。生まれてすぐの可愛いベイビーちゃんだったときはママと姉ちゃんが好きだったし、身の回りの世話をしてくれるメイドちゃんたちのことも好きだった。幼少期には淡い恋心を抱くくらいには異性が好きだったはずだ。いつからどうしてこんな立派なちんぽ狂いになったのか。 「はぁーあ。好きなものが多ければ多いほどお得なのになぁ。何でおれ、男にばっかり惹かれるんだろ」 「ルイが女好きだったことなんてあるか?」と、頭の上に乗った悪魔が心底不思議そうに言った。 「この子、あの人と出会った五歳の頃にはもう男の人が好きだったわよ。都合良く忘れちゃってるのよ。だって……バカだから」 「あー。確かになぁ」  確かになぁじゃねぇんだよ。今のやり取りで納得できる要素一つでもあった? 口を開けば人のことをバカだのアホだのって本当かわいくない。  珍しくおセンチな気持ちになってるっていうのに台無しだった。そのまま憂いを帯びた感を演出して、街ゆく男たちの視線を釘付けにしようと思ってたのに。  プンプンしながら二匹と喧嘩をしてると、急に目の前で馬車が止まった。  側面の紋章がどこの家のものか分からないけど、見るからに相当立派で大きい馬車だ。馬の数をチラリと見れば六頭も繋がれている。貴族の中でも、それなりの家格じゃないと、こんな馬車には乗れない。  ただ見た目の趣味が最悪だった。  金ピカのギラッギラ。これを引っ張る馬は大変だろうなってくらい無駄に豪奢で重そうな印象を受けた。  何でおれ馬視点で考えてるのか分かんないけど。一種の現実逃避だ。  だってこの馬車、狙いを定めたようにおれのところまで一直線に走ってきたんだもん。  あー。どうしよ。  もしかして知り合いかも。  うげー、と声を出して空を仰いだ。うっすらと見える月が綺麗だった。こんな月が綺麗な夜は男漁りなんてしないで大人しく宿にこもっておけばよかった。  よしっ、今日は諦めて、夜風を感じながらのソロプレイと洒落込みますか。  頭の中で自分用に残しておいた媚薬の数を数えつつ立ち上がる。下手に外にいると、こんなふうに昔の知り合いとか、ワンナイトした男に偶然再開する羽目になっちゃうからね。危ない危ない。今後は気をつけようね。  厄介ごとは嫌いだった。無責任上等。我が身かわいいかわいいでいかせてもらってるんでね。目に見える地雷には足を踏み入れない主義。そう思って、馬車の持ち主が出てこないうちに、そそくさと立ち去ろうとした。 「ルイ様ぁ! ルイ様ではございませんかッ! いやぁ、お久しゅう!」  バァン!と有り得ない爆音を響かせて馬車のドアが開いた。視界に入れるまでもなく踵を返す。最悪だ。こっちの名前を知ってるってことは間違いなく知人だ。貴族の知人なんて厄介ごとの塊みたいなものだ。もはや天災だ。 「どうして無視するのですか、ルイ様っ!」  ルイ様って誰だよ。様つけんな。  背後から、いかにも頼りなさそうな声で追い立てられて神経が逆立つ。この男の醸し出す不快感で、大体どういう関係性だったのか推測できるというものだ。  早歩きで路地を無作為に進んでいく。目的地は決まってないけど貴族に関わるくらいなら迷子になるほうが百万倍もマシ。後ろからバタバタと追いかけてくる足音がする。無視するつもりだったけど、「あいたぁっ」という声と共にドタッと転んだ物音がした。あーもう。  仕方なく振り返ってやる。すると、見知らぬ長身の男が額から血を流して座り込む姿があった。 「げぇっ。アルスタッド卿。オレあいつ嫌い」  悪魔は男の正体に心当たりがあったらしい。言うなり、すぐさまボフンと姿を消してしまった。残ってくれたのは天使だけ。ねええええ。おれ一人であれの相手すんのやだよぉ。なんか面倒くさそうな雰囲気がビンビンに伝わってくるんだもん。  天使にひそひそと「知ってる?」と聞くと「最低最悪のドヘンタイよ。まだ生きてたのね。見なさいよ、あのセンスのない服。気色悪いったらない。私もあいつ嫌いなのよね」とこちらもセルフプチしてしまった。  もー! なんだよ、あいつら。最低最悪のドヘンタイとやらと二人きりにするなよぉ。変態プレイに巻き込まれたらどうすんだよ。  ジメジメとした薄暗い路地裏で対峙した男は、おれの顔を見てヘラリと笑った。  うわん。鳥肌が立った。おれもあいつ苦手かも。  見捨てられた悲しみでメソメソしたけど、追いつかれてしまったものは仕方がない。逃げるのは一旦やめて、改めて相手を観察した。  アルスタッド卿なんて名前、聞いたこともない。卿と付くからには貴族で間違いないんだろう。……お貴族様ねぇ。  頭のてっぺんから爪先までを矯めつ眇めつ見つめてから首を捻った。記憶にない。好みの外見でもない。こりゃあ知り合いは知り合いでもセックスしてないほうの知り合いだな。それならちょっと安心。好きじゃない相手との変態セックスとか最悪だかんね。  そう結論づけて、アルスタッド卿とやらが立ち上がるために手を差し出してやった。 「ぐふ。相変わらずルイ様はお優しいですねぇ。わたくしのようなゴミカスにも手を差し伸べてくださるとは、まるで天使のようです」 「うん……おれが天使くらい優しいのは否定しないけどね」  ゴミカスの部分はどうだろ。ああ見えて清浄なものを愛する精霊たちにあれほど嫌われてるってことは結構ダメなタイプのクズの可能性が高かった。おれも大概だけど、見た瞬間にプチするくらいだから正味きったねぇ性根してんだろうなぁ、こいつ。 「以前からルイ様はお美しかったですが、今はまた更に色気が増していて最高ですな。最後にお会いしたのは三年前でしょうか。あのときは大変でしたね。まさかお兄様があのようなことをなさるとは……いやはや嘆かわしいことです」 「お兄さまぁ?」  おれにそんなのいたっけ。全然覚えてないけど、この男が嘘をついているとも言い切れない。おれって忘れっぽいからね。大切なこと以外は覚えてられないんだよね。例えば自分の性癖とか好きな男の好みとかプレイとか、そういう大事なこと以外忘れちゃう。  そーいや、最近触手プレイしてねぇな。海にはイカの魔物がいるって聞いてたから、出会えたら触手プレイ〜海の生き物バージョン〜ができるかもしれないって期待してたのに。毎日甲板で海を眺めてたけど現れやしねぇ。快適な航海とは裏腹に、おれのフラストレーションは溜まりに溜まってる。  そこにきて、この意味が分からない昔の知り合いだ。どうせなら既セクと再会させてほしかった。こんなイカの一夜干しみたいなペラッペラの体したナヨナヨとワンナイトなんか考えらんねぇよ。騎乗位なんてしたら潰れちゃいそう。精液薄そう。ちんちん、ちっちゃそう。  見れば見るほど好みじゃない。だけど、相手はおれを引き止めたいみたいで繋いだ手を一向に離す気配がなかった。 「ルイ様ッ、ルイ様ッ。ハッ、ハッ、ハッ。相変わらず良い匂いがしますねぇ。この甘ったるくて男を誘う毒花のような魅力がたまらんッ」  こわいって。なんなの、この人。勝手におれの手の匂いを嗅いで大興奮してるんですけど。  そんな良い匂いする?と思って反対の手を嗅いでみたけど無臭だった。香水で鼻バカになってんじゃねぇの。  そろそろ加齢臭が出てきそうな年齢に見えた。体臭を誤魔化すためなのか香水くさい。近付くと特有のツンとした匂いが鼻をつく。 「旅行先でルイ様と再びお会いできるなんて、こんなに幸せなことはありません。不承ダルティア・アルスタッド。是非我が別荘にてルイ様を歓待したい所存でありますッ」 「いや、いいよ。おれ宿は取ってあるし、あんたのこと覚えてないから、そこまでしてもらう理由ない」 「ヘァ!? お、お、覚えてらっしゃらない!? このダルティアのことを……わたくしとの関係を!?」  うるせぇなぁ。喋るたびに大声出すのやめてほしい。  うんざりしながら「知らねー」と答えると、ダルティアは「フゥゥゥム」とやけに長ったらしい相槌を打った。 「なーるほどでございますねぇ……さすれば、わたくし恥を忍んで申し上げますッ。わたくしとルイ様はですねぇ、それはそれはもう濃厚な蜜月の日々を過ごしたのであります。ええ、それはもうトロットロの」 「トロットロって、どんくらい?」 「え、ええっと……そう、そうですっ! 足腰が立たないくらいのアレでございます! もうルイ様はわたくしと夜を共にしたあとは離れたくないと大泣きして縋りついてこられていたというのに、お忘れとは信じ難いことです」 「おれ泣いたの? すげーな」  信じ難いはこっちの台詞なんだけど。嘘くせー。泣くほど気持ち良かったなら確実に覚えてると思うよ。ダウト。  全方向、どの要素から見てもダルティアと寝るっていう選択肢はなかった。つまんねぇ嘘ついてんなよ。  鼻白みながら半ば無理矢理、手を引き抜いて立ち去ろうとする。掴まれてたところが手汗で濡れてて気持ち悪い。やだぁ。おれ清潔感には拘りたいタイプ。  ダルティアの宝石が散りばめられた実用性ゼロの服に手をこすりつける。あらかた拭き終わったところで「じゃ、ばいばーい」と手を振った。  今から酒場に行けば、もしかしたら良いかんじの筋肉マッチョがいるかもしれない。一縷を望みをかけて一歩を踏み出したわけだが、再び手のひらにネッチョリと絡みつくものがある。 「……ダルティアさん? あのね、昔の男に執着するのはカッコ悪いよ? 一回寝たからって自分のものになったと勘違いするのはナンセンス。それは分かるよね。お互いを知って、何回も体を重ねて愛を伝え合って、そこでようやく両想いだから。相手の性癖の全てを網羅しておくくらいの根性見せなきゃ」 「触手、出せますよ」 「え?」  今なんて言った? 「しょ、く、しゅ。出せますよ、わたくし。ちょうど知り合いの魔法使いに出くわしましてね。彼に頼めば触手の一本や二本、お茶の子さいさいですよ。いかがなさいますか? あの吸盤の吸いつき、てろてろとした先端で撫でられる快感。お好きでしょう、ルイ様」 「行こう。はやくドエロい触手プレイしようね、マイスウィート」 「もちろんですともッ!」  ったく、触手が出てくるとなれば話は変わってくるっつーの。おおかた、ダルティアとは触手目的でヤッたことがあるんだろうな。いやぁ、納得納得。  気持ち悪いスキップをしながら馬車へと戻るダルティアについていく。天使と悪魔がポカポカと殴って止めようとしてきたけど構うものか。  おれはね、触手プレイがこの世で最も大好きなんだよ。  別荘というには大き過ぎる屋敷に連れてこられた。馬車の中ではダルティアが隣に座ろうとしてきたりキスを迫ったりしてくるから気持ち悪かった。それを適当にいなしているうちに馬車は止まった。すんげえ疲れた。ダルティアがしつこくて外の景色を見る余裕もないほどだった。  触手には興味あるけどダルティアには少しも興味ない。というか、できれば距離を取ってほしかった。  嫌々ながらに手を繋いで案内されたのは屋敷の一室。  ちなみに天使と悪魔は到着する直前に「ああー。またなのね……」「さすがにまずいな」と意味深な目配せをし合った後で姿を消した。  室内の中央に置かれたソファーには男が一人、座っていた。ダルティアは必要もないのに声を張り上げる。 「シモン様、ただいま戻りましたッ! 少しは休めましたかな?」  男はこちらを見て、驚いたように目を見張った。おれの顔を見たあと、繋いだ手を見てムッと不機嫌になったように見えた。  随分とガタイが良い。騎士かと思ったけど、事前に聞いていた限りでは魔法使いらしい。見えねぇなと思いつつ愛想笑いを浮かべる。こいつが触手出してくれるんだから、せいぜい良い触手を出してくれるように媚び売っておかないとね。 「こんなところで何を……」 「ん?」 「ルイ様、こちらが稀代の大魔法使いシモン様ですよ! シモン様、ルイ様をお連れしました。お懐かしいでしょう? 街の片隅で捨てられた子猫のように震えていたところを保護してきたのですッ」  あそこが街の片隅だったのかは分かんないし、案内板には中央広場って書いてあったからど真ん中だったんだろうけど、おれは余計なことは言わなかった。貴重な触手プレイにありつけるチャンスだ。四の五の言って心象を悪くするわけにはいかない。  にこにこと愛想笑いを続けているとシモンとかいう魔法使いは深い深い溜め息をついた。 「想像はつくけど、何で来たの?」 「え? だって触手プレイさせてくれるって言うから。あんた本当に召喚できんの?」 「できるよ。……ルイが望むならね」  そしておれをじーっと見つめてくる。なに? こいつもおれの貞操を狙ってんの? まぁ男ぶりが良いことは否定しないけどね。  シモンはおれの顔を凝視する。それからダルティアと繋いだままだった手に視線を落とした。 「ルイは本当にバカだね。――アルスタッド卿。お邪魔したら悪いので俺はもう帰ります。良い夜を」 「ハイッ! 最高の夜とさせていただきますよッ」  小さな蛸壺をダルティアに渡して、シモンは出ていこうとした。すれ違うときに「気が変わったら呼んで」と耳元で囁かれる。  気が変わるときなんてあるか? せっかくの触手、お供がダルティアってことだけが不満だけどヤらない選択肢はない。  耳にかかったシモンの吐息で背筋がゾワゾワした。やっぱアレだな。良い男ってのは声も良い。ダルティアの濁声とは大違いだ。 「さっ、ルイ様! 寝室に参りましょう! ルイ様のお眼鏡にかなうように、わたくし修行を詰んでまいりましたのでね。必ずや満足させて差し上げます!」 「イェーイ、ヤッター」  気分は上がらないけど背に腹はかえられない。  どうせヤるなら、さっきの男のほうが良かったなと思いつつ、フンスフンスと鼻息が荒いダルティアの後に続いた。  シモンから渡された蛸壺の中に触手が格納されていた。  どぅるん、という効果音がつきそうな勢いで真っ赤な触手が飛び出してきたときが、おれのテンションの天井だった。  ねぇ、想像できる? ダルティアって緊縛とSMが趣味なんだって。  それに触手が追加されちゃったら性癖が渋滞しちゃうってば。ダーメだって、それはさぁ。何に集中したら良いのか分からなくておれの心も体も大混乱なんですけど。  大人しく縛られて天井に吊された。それはいいよ。まだヘキふたつだからね。そこに鞭と蝋燭と、女王様スタイルに扮したダルティアが加わったら現場はもう大混乱ですよ。 「ハァァァァァ……」  溜息が止まんない。天井から吊るされて身動きできない状態でバチンバチンと鞭打たれる。おれの白磁のようなカワイイお肌が鞭打ちで真っ赤に引きつれていく。  ダルティアは嬉しそうだったけど、おれは一切楽しくなかった。痛いの嫌い。縛られるのも嫌い。触手も手のひらサイズのチンケなもので、それが床に置かれてるものだからおれの膝を撫でるくらいしかできてない。  なにこれ修行なの? しんどいよぉ。おまけに天使と悪魔がそんな情けない姿を見て腹を抱えて笑ってるのが視界に入る。おい、覚えとけよ。自由の身になったら真っ先にデコピンしてやるからな。  苦行みたいな時間だったけど耐えた。百聞は一見にしかず。もしかしたら続けていくうちに痛いのが気持ち良くなってくるかもしれないってちょっぴり期待してた。  でも性の開拓に積極的なおれでもこれはもうムリってかんじだった。だってつまんないんだもん。ダルティアのちんちん、ちっちゃいし。  帰ろ。そうと決めたら腕の力だけでブチブチと麻縄を引き千切った。あー、痛かった。いっぱい赤くなっちゃった。  腕をさすりながら服を着る。ダルティアは下着だけ身につけるのが好きだったみたいで、そこの趣味だけは一致してた。 「る、ルイ様ッ! いかがなさいましたか!?」 「やーめた。おれ帰るね」  荷物をまとめて背負う。必死に足に引っ付くダルティアを蹴り飛ばしながら出口を目指した。マッジで時間無駄にした。ちんちん見せる機会があったら見せたいくらい萎え萎えだった。見せないけど。  ダルティアはおれが本気で帰るつもりって分かったみたいで顔を真っ赤にしてた。プライド高そうだもんなぁ。ちんちんブチ込めずに中断なんて許せないんだろう。おれねぇ、そういう余裕がないところも嫌いなの。 「ひ、ひどいッ! やっと、やっとルイ様とベッドインできたと言うのに! こんな仕打ち、たえられませんっ」  耐えてください。叫びながらタックルしてきたからヒラリと避ける。やだやだ、すぐ暴力に訴えるんだから。  ダルティアにはセックスのセンスも運動神経もなかったみたいで、おれに殴りかかろうとして転んでた。もう手は貸さないし振り返らない。屋敷の外に出て、気持ちの良い夜風を浴びる。  こんなことなら宿でオナニーしてたほうが百万倍マシ。  最低最悪な再会だったなぁ。道理で覚えてないはずだ。おれ、好きな人のことしか記憶に残しておきたくないんだよね。  屋敷からダルティアの絶叫が追いかけてくる。こわいね、はやく逃げよう。  ふと視線を右に逸らすと、一台の馬車が止まってた。ダルティアのクソ趣味が悪い馬車じゃなくて、どこか気品が漂う一級品。ふらふらとその方向に足を向ける。何でだろう。分からないけど、おれの望むものがそこにあるって確信してた。  近付くと扉が内側から開く。 「気が変わった?」  優しく微笑む男は、その表情とは裏腹に力強くおれの腕を引っ張った。 「だから言ったのに。バカだな、ルイは」  馬車が動き出すと、おれは息を吐きながらシートに背中を預けた。  ダルティアとの変態行為は思っていたよりストレスが溜まるものだった。触手と聞いて誰彼かまわずついて行ったらいけないね。次から気をつけよう。 「いやー、助かった。徒歩だったら、あのヘンタイに追いつかれて捕まってたかも。おにーさんは命の恩人だ。えーと、名前なんだっけ」 「シモン」 「あ、そうそう。シモンさぁ、あの触手わざと? あんな小さいのを召喚するほうが難しくない?」  笑いながら問いかけると、シモンは悪戯っ子のように目を細めた。ほらぁ。だと思ったよ。おかしいんだって、あのサイズは。触手っていうのは、親触手から生まれた時点で五メートル近くある。だからあのミニチュアは突然変異か、魔法で縮めてるか、どっちかだってすぐに分かった。伊達に触手ソムリエを名乗ってるわけじゃない。嫌がらせサイズの触手で決定的にヤる気が失せたわけだけど、たぶんシモンもダルティアのことが好きじゃないんだろう。  シモンの隣に座る。太腿に手を置いて見上げると、「ん?」と、とぼけていた。 「そこまでして妨害したかったの? おれ、最初からシモンのほうが好みだなって思ってたよ」 「それで?」  先を促されて気分が良くなってくる。そういう駆け引き大好き。 「だから待っててくれて嬉しかった」 「ルイのこと待ってたわけじゃないかもしれないだろ。単に出発準備に手間取ってたとか」 「嘘つき。おれが乗ってすぐに動いたじゃん。それにこの馬車、魔法で動くんだろ。準備もクソもない」  身を寄せて、さりげなく手を繋ぐ。シモンはおかしそうに笑い声を上げて肩を震わせた。 「ご明察のとおり。俺はルイが出てくるのを待ってた。アルスタッド卿なんかにルイを満足させるようなプレイができるとは思えなかったからね。すぐ逃げてくると思ったよ」 「まんまと捕まえたわけだ。ワルだねぇ」  シモンの顔が近付いてきて、鼻先がこめかみに触れる。額に音を立ててキスをされてムズムズした。  どうしよ。溜まってるから今すぐにでもヤりたい。でも今みたいに甘やかされるのも好き。 「どっか宿とってんの?」 「近くに俺も別荘があるんだよ。そこに行こう。今は気分が良いから、ルイがしたいこと何でもしてあげる」 「んじゃ、着く前にちょっとだけシよ。我慢できない」  目を閉じてキスをねだる。触れた唇が熱くて、軽く開くと舌が入り込んできた。奥まで引きずり込んで、先端をちゅうちゅうと吸う。するとお返しとばかりに舌を引っ張り出されて優しく歯を立ててきた。  ガタン、と馬車が揺れる。  キスだけで頭の中がシモンのことでいっぱいになる。膝上に乗り上げて首に腕を回した。大きな手のひらが裾から入ってきて背中を撫で回す。  これこれ。これだよ。痛いのより気持ち良いのが好き。  ダルティアに鞭で打たれたところを指先でなぞられるとピリピリと痛んだ。 「おれ、痛いの大っきらい」  ぽつりと呟くと「だろうね」と返事がある。慰めるように頬に口付けられて、少しだけ機嫌を持ち直す。 「シモンは優しくしてね。おれって意外と繊細だから酷くされたら逃げちゃうかも」 「分かってるよ。ルイが好きなことだけしよう」  脇腹を掴まれて、息を詰める。それだけで逃がしてくれる気がないことが分かった。  シモンは目で感情を伝えてくる。おれのことを今すぐにでも犯したいって書いてある。 「ちんちん触らせて」 「いいよ」  許可を得て早速シモンの前をくつろげる。半勃ちになった性器に唾液を垂らす。  その時点で、ダルティアとは比べものにならないくらい大きかった。まだそこまで硬くなってない。これからもっと大きくなるって思ったら期待で胸がドキドキした。  亀頭に唾液を塗り込んだ。ぬらぬらと濡れていて、すっごくエッチだった。シモンは手持ち無沙汰なのか、おれの服をめくって胸を揉み始めた。腰が引けてしまうけど、あまり後ろに下がると膝から落ちてしまうから震えながら気持ち良さに耐える。  ちんちんをしごきながらシモンの表情を窺う。気持ち良いみたいで頬に赤みが差していた。  それが可愛くて、もっと乱したいと思う。 「ちゅーしよ」  舌を出して誘う。キスをしながら乳首をいじられると快感で下半身が痺れるような感覚が走った。  あー最高。しっくりくるわ。あのスルメヘンタイ野郎と一時でもセックスしようと腹を決めたことは人生の汚点と言ってもいい。  お互いに股間を押しつけ合いながら昂っていく。胸の先端を摘まれて甘い悲鳴を上げた。 「やんっ! 乳首だめっ」 「すぐ赤くなって可愛い」 「こすこすもだめぇ……っ」  シモンにしがみつきながら、その腹に股間を押しつけた。血管が浮いたちんちんを同じように押し当てられて、それが中に入ることを想像しながら達した。  びくびくと震えながら精子を垂れ流す。 「もう挿れてよぉ。ガンガン突かれたい。シモンもおれの奥いっぱい犯したいでしょ? 今ちんちん欲しくて中がぎゅうぎゅうしてる。触ってってば」 「本当だ。俺が欲しいからこうなってるの?」 「うん。シモンのこと好き好きってしてんの」  ゆっくりと長い指が中に入ってくる。膝立ちになって尻を突き出した。ぐー……と押し込まれて、指の関節が引っかかるのが気持ち良い。ぐりぐりと中の具合を確かめてくる。  人差し指、中指、薬指と増えていく。 「ルイ。犬みたいにハアハアしてる。指だけでまたイキそうだね」  スッゲー気持ち良い。下半身からぬちぬちと犯されてる音が聞こえてきて、ぎゅっぎゅっと締めつけてしまう。 「いく、いくっ、ねぇ、キスしたいっ!」  半開きになった口を塞がれる。指の根元まで突き入れられてるのが分かる。イクときに舌を痛いくらいに吸われた。  一度潮を吹くと止まらなかった。シモンのシャツがあっという間に色を変えていく。 「ごめん。服濡らしちゃった」 「いいよ。これからもっとすごいことするから」  そういうことを平然と言われると、頭の中はそればかりになってとろけていく。 「そっちの座席に手をついて、おしり突き出して」  何をされるか分かる。シモンのちんこが有り得ないくらいに大きくなってて、それでえぐられたら多分おかしくなっちゃう。でも拒否するなんて選択肢はない。  腰を掴まれる。ちんこの先端が入り口を探して彷徨う。挿れやすいように位置を調整してる間も脳の血管ブチ切れそうなくらい興奮してた。押し広げてくるちんちんがでっかくて、下半身が引ける。それを引き戻して押さえつけて、徐々に犯されていく。 「おく、奥までして……あッ、そこ、イイッ」  馬車ごと揺れてるみたいな錯覚を受ける。突き上げがエグイ。ダルティアの粗末なちんぽじゃ絶対に届かないようなところまできてる。  シモンが身を屈めて、おれを全身で押さえつける。そういう強引なのも好き。痛いのは嫌だけど、苦しいのは割といける。その違いが分かってる時点で今回のおちんちんMVPは確実にシモンだった。 「きもちいいっ、すきっ、好きだよお、だいすきぃ……」 「ルイは俺のちんちんしか好きって言ってくれないね」 「ん、んっ、だってぇ」  自分のちんちんに嫉妬してどうすんだっての。仕方がないから甘やかしてやることにした。顔を後ろに向けてキスをする。 「シモンも、シモンのおちんちんも、だぁいすき」  息継ぎの合間に囁いたら口元が緩んでた。なるほどね、そういうのが好きなんだ。 「すき、すき。ぜーんぶ好きだよ?」  蜂蜜みたいに甘い言葉を流し込んでやった。案の定、あっけなく中で達したみたいでトロリと足の間を垂れるものがある。凶悪なちんちんに反して甘々がお好みだとは思わなかった。たまにはそういうのも良いよね。もしこれが毎日だったらおれの中の羞恥心が疼いて叫び出すと思うけど。  キスをしながら押し倒してくる男を受け入れた。あれだけ拘っていた触手がどうでも良くなるくらい、シモンとのノーマルセックスは最高だった。  このあと別荘に行ってからもヤリまくりのイキまくりってのは確定してる。さっきから、その場を盛り上げるために何度も囁いた「好き」に対して「愛してる」が返ってきてるような気がしたけど聞こえてないフリをした。  自由な巨根探しの旅に恋人なんてついてきたら台無しになっちゃうからね。特定の相手に縛られるくらいなら繋がれた縄を引きちぎってでも逃げ出したい。そういうお年頃なの、おれは。  とはいえ今更ここでやめるっていう考えはなかった。だって今ようやく面白くなってきたところじゃん。楽しまなくちゃ。  面倒ごとは一旦隅に追いやって、ひとまず目の前の快感だけを追いかけることにした。  シモンの別荘は、ダルティアのそれよりも大きい屋敷だった。  へぇー、金持ちぃ。魔法使いって儲かるんだ。  通路に点在してる壺だの絵画だのを悠長に眺めている暇は与えられなかった。馬車を降りた途端にシモンにお姫様抱っこされた。  おれも成人してるし、見た目は細く見えるらしいけど、それなりに筋肉ならある。麻縄を腕力で切れるくらい鍛えてる。なぜなら昔々スパルタ気質のパパ上にしごかれたから。おれのパパ上様は、まぁー怖くてね。ガチムチの頂点みたいな体でドSだったから逆らえなかったわけ。幼少期についた基礎体力と惰性で続けた筋トレのおかげで程良く抱き心地の良いボディーが保たれてるんだけど、だからといって抱っこはないでしょ。  おれ恥ずかしかったよ? シモンの家の使用人さんたちに生温かい目で見られながら寝室に連れてかれるの。  まぁまぁご主人様ったら、どこの馬の骨を連れ帰ってファックしようとしてるのかしらウフフフって顔されたことある? おれは今されたよ。今まさに、これから抱かれるんだなアイツって目で見られた。  おれも大概、それなりにお気楽に生きてきたけど、心がないわけじゃないから。常識を持ち合わせてるタイプの淫乱なの。TPOに合わせられる稀有なおちんぽ狂いなの。  そこを履き違えてもらっちゃ困る。  何が言いたいかっていうと、人前でイチャイチャするの恥ずかしかったってことなんだけどシモンが理解できたかは怪しい。だって今、一切悪びれる様子もなく、おれの足の爪先をしゃぶってるからね。  それ美味しい? 出汁とか出てる? 何で人の足にむしゃぶりついてんの?  こいつはこいつで相当なヘンタイみたいだった。ダルティアの性癖大渋滞に比べれば充分許容範囲だけど。 「足の裏くすぐったい」 「くすぐったいは気持ち良いだよ」  それは分かんない。でも足で踏みつけにすると喜んでたから好きにさせることにした。  爪先から足裏へ、そして踵まで舌が這う。仰向けで天井を眺める。時折唾液まみれの足で髪の毛を掻き回す。乱れた前髪が目元に落ちて、邪魔そうに掻き上げる姿は悪くなかった。  ふくらはぎを撫でながら太腿を噛まれた。足の内側に重点的に歯型と吸いついた痕が残る。  緊縛の痕を残されるより、よっぽど良かった。「痛かった?」と訊かれて「んふふ」と笑う。 「ぜーんぜん。もっとしていいよ。シモンのものって分かるようにして」  自分でも理由は分からないけど楽しくて仕方がない。シモンにされると大抵のことは嬉しくて顔がにやけてしまう。 「シモン。ちんちんも触ってほしい」  大の字になって我儘を言った。駄目なんて言わないだろう。そんな確信があった。  根元を掴まれる。そこまでは良かったけど、問題はそのままフェラを始めたことだった。  いきなりちんちんを食べられたと思ってビックリした。腰が浮いたところに手を入れられてヤダヤダって暴れたのに許してくれなかった。  じゅぼじゅぼとシモンの頭が上下する。太腿で挟んで押さえつけたけど意味はなかった。後ろの穴にも指が入ってくる。爪先が白くなるくらい力が入る。シーツを握りしめて快感に耐えたのにシモンは許してくれなくてイッてしまった。  尿道に残った精子を親指で押し出されて、さすがに涙がこぼれた。フェラをする側になったことはあるけど、されたことはない。  知らないことばかりで、おれのミニマムキュートな脳味噌は暴発寸前だった。  混乱してる間に指が引き抜かれた。もう馬車の中で充分に慣らしてあるから準備は万端。シモンのちんぽも臨戦体勢に入ってる。 「まって、おれイッたばっかりだからぁっ、あっやだぁ」  待ってって言ったのにブチ込まれて視界がグラグラする。目を瞬かせても何も変わらなくて、でもいっぱい突き上げられてるから、全身でシモンを感じてるってことだけは鮮明だった。 「う、うぁ、あっ」 「アルスタッド卿にはここまで許した?」 「え……な、に? ゆるす……?」  何を言われてるのか分からなくてボロボロと涙がこめかみを流れていった。おなかの中がシモンを受け入れてキュンキュンしてる。 「触手は断念したんでしょ。じゃあ、代わりに普通のセックスはした? 俺以外の奴に抱かれたのかって聞いてるの」  できるわけねーじゃん。そんなことするほど出てくるまでに時間かからなかったでしょ。  いや、待って。縛られ待ちする時間がそれなりにあったわ。なるほどね、それで気になってんだ。触手プレイは阻止したけどヤってない確証はないからね。  それを今訊くのはズルイ。  油断させてから本当のことを聞き出すっていうのは理に適ってるけど、なんとなくムカッとした。 「どっちだと思う?」 「……してない」 「せーいかい。分かってんじゃん」  くっだらねぇ質問だったけど、不貞腐れたような返事は悪くなかった。背中に腕を回して抱き寄せる。足を左右に大きく開かれながら、がぶがぶと耳を噛まれた。 「こんなとこまで許したの、シモンが初めて」 「俺だけ」 「そう。あんただけ」  ぐううっと最奥に突っ込まれて息もできなくなる。激しい水音がシモンの欲と歓喜を現してて最高だった。 「しもんっ、おく、ぜったい奥に出してっ」  おれのことお前のものにして。  言わなかったけど伝わったみたいだった。余裕なく腰を叩きつけてくる。獣じみた激しさを感じて、ぎゅっと足を閉じそうになったけど強引に開かれる。ぐ、ぐーっと押しつけられながら精子を流し込まれた。  中出し、きもちいー。癖になりそう。  満たされた気分で腹をさするとシモンは何かを堪えるような表情になった。 「ルイ。お願いがあるんだ」 「なぁに」  シモンに抱きつきながら顔中にキスをする。気持ち良くて満ち足りた気分だった。あと三回はヤりたい。触手プレイに対するモチベはだいぶ下がったけど、せっかくだからやっときたいっていうのが本音のところだった。  勢いをなくしたちんちんを弄びながらシモンのお願いとやらを聞いてやることにする。 「明日になっても俺のこと、覚えておいて」 “忘却しろ!”  ボフンという音と共に視界が揺れる。  ベッドに倒れ込んだあと、目を開けると太陽が高い位置まで登っていた。  目をこすりながら起き上がって伸びをする。  指の骨を鳴らしながら昨日のことを思い出そうとした。  えっと。昨日は港に着いて、すぐに薬を売って回った。順調に売り捌いて、売上金もちゃんと残ってる。痛い目を見たからギャンブルにはもう行かないって決めた。  うん。  それからワンナイトの相手を探しに街に出た。散々歩き回って収穫はゼロ。困ってたら親切な人に夕食に誘われて美味しいご飯をご馳走になった。  あれ、うまかったな。エビを揚げたやつ。豆のスープも。  それから親切な人に家に泊めてもらって……あ、そっか。疲れてたからベッドですぐに寝たのか。  全部思い出したらスッキリした。  ふんふーんと鼻歌を歌い、なぜか床に散らばった服をかき集める。おれって寝相悪いからね。  着替えを終えると、妙に大きな――大の大人の男が二人寝転んでも余りあるほどの大きさのベッドの上で、いつものように天使と悪魔を呼び出した。

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