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バカな年下幼馴染をいっぱい×××した
初めて出会ったとき、ルイに対する印象は「ぼんやりしてそうなガキ」だった。
よく屋敷の隅のジメジメした場所の雑草を抜いて遊んでいた。見かけるたびにおもしろいのか?と疑問だったが、後々訊いたところによると当然「つまらなかった」と。「でも、兄ちゃんたちがおれにそうしろって言ったから」と続けて答え、小さい手を握りしめて下を向いていたのを覚えている。
当時、俺は魔法を学ぶために師事していた師匠のお使いで、度々エールアルト男爵家を訪れていた。
男爵家には男児が三人、女児が一人。
長男は寄宿舎で暮らしており、ほとんど姿を見ることはなかった。次男は俺より一歳年上で、末弟のルイとは正反対の性格をしていた。
気弱で、いつもモジモジしていて、声も小さいルイとは対照的に、次男のライルは声も態度もデカかった。
俺はこの兄弟が苦手だった。しかし同年代の友人が少ないことを師匠に心配され、余計なお世話だと思ったが渋々と一緒に遊ばざるを得なかった。
ルイはいつも兄であるライルから邪険に扱われていた。兄が他の友人たちと走っていってしまうのを後ろから一生懸命に追いかけていた。ライルは弟が転んでも気付かなかった。俺はあいつらの野蛮な遊びが嫌いだったから、転んで泥だらけになったルイを見守る役割に徹した。立ち上がるときに手は貸さなかった。変なふうに懐かれたら嫌だったから。
だが、ルイは近くに突っ立っている俺を見つけると、必ずヘラリとした情けない笑みを向けてきた。
兄に粗末に扱われているところを見られたことも、転んでも振り向いてすらもらえなかったことも、きっと悲しかっただろう。それに対してルイは不服を訴えていいはずなのに、曖昧に笑って誤魔化そうとする。俺はこいつのこういうところを苦手に感じていた。
ある日、ルイがまた一人で雑草を引き抜いているところに出会した。そのときは時間に余裕があって、師匠からお小遣いをもらった後だったから機嫌も良かった。
小柄な身体が、しゃがみ込んでいるせいで更に小さく見えた。
「ルイ。またライルにやれって言われたのか?」
「うん……おまえは草むしりでもしろって」
裕福な男爵家では、下働きが何人もいる。彼らに任せればいいような雑用をあえて弟に押しつける意味が分からなかった。溜息をついて隣に座った。するとルイが緩んだ顔を向けてくるから尚更腹が立った。
抱えていた本をルイの胸に押しつける。俺が手を離そうとすると、慌てて服で手についた泥を落として本を受け取った。
「なにこれ」
「薬草について書かれてる。ただ草むしりするだけなんて時間の無駄だ。せめて身になることをしろ」
その言葉は師匠の受け売りだった。ルイはパチパチと目を瞬かせた後で、俺を見つめ、そうしてとびきりの笑顔を見せた。
愛想笑いではない、ルイの本心からの笑顔は俺の胸を少しだけ温かくした。
それからも定期的にルイに差し入れをした。本や、薬草の調合に必要な器具、それから知っておくと便利な簡単な魔法も教えた。判別が難しい薬草を調べる魔法が特に気に入ったらしい。これまでとは打って変わって生気に満ちた顔付きで知識を吸収する様子は見ていて不快ではなかった。
それからはライルとは遊ばず、ルイと一緒にいることが増えた。
ルイは素直だった。教えたことは全て記憶していた。地頭が良いんだろう。集中力もある。特に記憶力が抜群に良くて、応用も効いた。
俺はこの年下の幼馴染に夢中になっていった。
知っていることは全て教えたし、ルイが知りたいと言ったことや欲しがったものは何でも与えた。
弟を可愛がるような感覚だった。ルイは心を開いた相手にはよく喋った。頬を上気させて矢継ぎ早に話す姿は庇護欲を刺激した。くるくると変わる表情をいつまでも見ていたいと思った。
その関係が変化したのは、俺が十七歳、ルイが十二歳になった頃だった。
ルイが自室にいなかった。
どこにいるのだろうと屋敷の中を探し回った。男爵家の中は、以前から交流があるおかげで自由に歩き回ることを許可されていた。
初めは、おやつをねだりに厨房に行ったのかと思った。図書室で本を読んでいるのかもしれない。庭で育てている薬草を採りに行ったのか、今日は屋敷にはいないのか。
途中で掃除中の使用人を捕まえて行方を訊いた。どこにいるのかは知らないが、外出はしていないはずだという答えが返ってきた。
まさかあそこにはいないだろう。そう思いつつも、足を向けたのは物置部屋の方向だった。
以前、ライルに物置部屋に近付くなと言われているとルイは不満を漏らしていた。あの素行の悪い男が、その部屋で何をしているのかを知っていたから、そのときは適当に流した。
物置に近付くにつれて、徐々に息苦しくなっていった。心臓が痛いくらいに跳ねていた。
早足が駆け足に変わり、全速力で目的の場所へと向かった。
物置部屋の前まで来て、俺は大きく息を吐いた。
ルイがいた。ドアノブを握ったまま、ぎこちなくこちらを向いたから、中を見たことは分かった。
ライルが連れ込んだ女の喘ぎ声が聞こえる。叩きつけるような音が断続的に響いて、見開いたルイの両目が潤んでいく。
俺はドアを強く閉めた。覗いていたことがバレてもいい。あのクソカスが。心の中で毒づいて、根が生えたようにその場から動けなくなったルイの手を引いた。
「……シモン……あれ……」
何も答えなかった。繋いだ手に力がこもる。もう一度、泣きそうな声で名前を呼ばれて、我慢の限界だった。
「兄ちゃんが女の人と……」
「忘れろ。おまえにはまだ早い」
しくしくと泣き始めるからうんざりした。振り返ると、まだ幼子の名残がある丸い頬を涙が伝っていた。ふと視線を下に向けて、股間の膨らみを認めて、俺は呻き声を上げた。
「何だよ。泣くなって」
わざと雑に顔全体を拭ってやった。それでもルイが泣き止まないから、どうしたらいいのか分からなくなる。
見上げてくる視線を避けるように目を逸らした。
「シモンはあれ、知ってるの?」
「知らない」
「何で嘘つくのぉ……」
「……興味ない」
再び手を取ってルイの部屋に戻ろうとした。それなのに後ろに引っ張られてつんのめる。もう頭の中がいっぱいいっぱいで、思わず叱りつけようとして振り返った。
「教えてよ、シモン」
まるで弟のように思っていたのに、ルイが頬を赤く上気させて、そんなことを言うものだから頭がクラクラした。
薬草や魔法について教えてほしいと強請ってくるときと同じ口調だった。赤く色付いた唇から紡がれた誘惑が俺を捕らえて離さない。
「ねぇ、おねがい」
そのあと俺が何て答えたかなんて、言うまでもない。
ルイが成人するまでは手を出さなかった。当然だ。清く正しく、時にラインスレスレのところを俺はなけなしの理性で耐えた。
だから、初めてルイと寝た日のことは今でもよく覚えている。
その頃にはもう俺は王宮付きの魔法使いとして働いていて、ルイは薬師として名が知られていた。
俺たちはよく時間を見つけては色んなところを旅行した。
アデラス国内はもちろん、隣国のミーシャにも足を伸ばした。港町に立ち寄って食べ歩きをしたり、カジノに赴いて大勝ちしたり、ルイが珍しいキノコを採取したいと言うから洞窟に連れて行かれたこともある。その帰りに立ち寄った宿屋でスコールに見舞われて二週間も足止めされた。
あの時期が一番楽しくて、満ち足りていた。
体の関係がなくたって俺はルイを愛していた。でも成人を迎えた日の夜。お祝いのために花束とプレゼントを持って男爵家を訪れた俺を、恋人は寝室へと引き込んだ。
「おれのこと、好き?」
甘えるように首元に腕を回して問われた。そういうとき、俺は必ずその唇から目が離せなくなる。鼻先がくっつくくらい顔を近付けて密やかに笑い合った。
「好きだよ。愛してる」
「じゃあ、おれのこと抱けるよな。おれ、ずっと今日がくるのを待ってた」
「俺に抱かれたくて?」
頬を擦り寄せ、耳朶を食む。
「そう。シモンがチキンなせいで手を出してくれないから待ち遠しかった」
「大切にしたかったんだよ」
腰を抱いて深く口付ける。もう中途半端なところで止める理由はない。首筋の産毛が興奮で逆立っている。吸いついて痕を残した。
「あのぉ……なんか今の痛かったんだけど」
これからしようとしていることは気持ち良いことだけではないのかと不安そうに問われて笑う。
「俺のものだって分かるようにしたんだよ。嫌だった?」
「嫌じゃないけど……おれもつけていいってこと? シモンはおれのもんだから」
声が萎んでいき、恥ずかしそうにぎゅううっと腹に抱きついてくる。かわいくてたまらない。横抱きにしてベッドまで連れていった。優しく下ろしたつもりだったけど、スプリングは大きく軋んだ。
シャツのボタンを外す間、ルイはずっと手を上げて万歳をしていた。誘ってきたくせに初心な反応をされると抑えが効かなくなってしまう。脇腹を撫で、薄い胸板まで辿り着く。半端に脱がしたおかげで逆に扇情的な姿になっていることを本人は知らない。
胸の突起を擦ると「ムズムズする」と呟いていた。硬くなってきたところで口に含む。唇で挟みながら先端を何度も舌先で刺激した。
「シモン、赤ちゃんみたい」
よしよしと頭を撫でられてムッとしながら歯を立てた。
「噛んじゃダメ」
「でも硬くなってる。ルイ、ここいじってた?」
「……触ってない」
「本当のこと言ってくれたら、もっと気持ち良くできるかもよ?」
ルイは「あー」とか「んー?」と首を捻り、そして観念したように小さく頷いた。
「触ってたんだ」
「ちょっとだけ。一人でするときに、たまに先っちょを擦ってたくらい」
「ここで気持ち良くなるのは俺が教えたかったな。普段オナニーするとき、どうやってやってるのか見せて」
「やだ。ぜーったいやだ。見られたくない。ていうか、今セックスしようとしてるのにオナニーしなきゃいけない理由がないから」
「やってみせて。俺も見せるから」
「やぁだ!」
散々抵抗してたけど、俺が譲らないと分かると大抵折れてくれるのはルイのほうだった。おずおずとスラックスと下着まで脱ぎ、半勃ちになった性器を握る。俺はもうその光景に釘付けで、あのルイが俺の前でそういうことをしてるってだけで興奮していた。
片方の手で性器を握り、もう片方の手では自分で乳首を弄り始める。最初のうちは下を向いていたけれど、俺が服を脱ぎ始めるとチラチラと見てくる。
「ちんちん一緒に擦りたい。おればっかりヤダ」
「いいよ。膝の上に乗って」
正面から抱き合うような体勢でお互いの勃起したものをつき合わせて上下に擦る。キスをしながらすると腰が抜けそうなくらい気持ちが良かった。ルイの鼻息が荒くて、それがすごくかわいくて、わざと苦しくなるように舌を絡めた。
舌先を吸うとルイの腰が浮いた。必死でしがみついてくるから求められているのが分かって嬉しかった。
唾液を流し込むと素直に受け入れて溢れる前に呑み込んでいた。バカだな、そんなことしなくていいのに。そんなことを思いながら押し倒した。ルイの身体が一瞬強張った後で脱力する。手の中の性器がどくどくと精子を吐き出していた。
「イッちゃった……」
「気持ち良かった? 俺も出すから飲んでくれる?」
意味を理解していないくせにルイは頷いた。射精の直前に顔の前に性器を差し出すと戸惑っていた。構わず口を開かせて中に白濁を流し込む。ルイは口を閉じようとしたけど指を突っ込むと諦めたように目を閉じて受け入れた。口の中が俺の精子でいっぱいになって、一種の征服感で満たされた。
「のんで」
「んん……」
「ルイ。ごっくんだよ。できるだろ」
俺に命令されるとルイは逆らえない。飲み込んだ後で微妙な顔をしていた。頭をわしわしと撫でてやると睨まれた。
「いじわる! こんなの普通のセックスじゃない!」
「へぇ。普通のセックスがどんなのか知ってるの?」
「し、知ってる! おれ、だって前にシモンに教えてもらったもん」
「コウノトリが赤ちゃん運んでくるってやつ? あれ信じてたの?」
枕を投げつけられて笑う。「ごめん。揶揄い過ぎたね。次は俺がルイのを飲むから許して」
「おまえ、おれのを飲みたいだけじゃん」
ヘンタイと詰られても一度上昇した気分が下がることはない。不貞腐れたフリをする恋人を甘やかすように抱きしめて、真っ赤になった耳元で「続きしよ」と囁いた。
渋々と了承してくれた恋人を抱きしめる。かわいい。何をしててもかわいい。たまらなくなって唇を合わせるとすんなりと受け入れられる。
キスは気持ち良いものと認識したようだ。乳首を触られるのも気持ち良い、一緒にオナニーするのも気持ち良い。じゃあ、その次は?
俺の舌をちゅうちゅうと吸いながら、ルイは薄目を開けた。今以上の快感を求めていることは明白だった。
背中を撫でていた手を徐々に下へと降ろしていく。尻を鷲掴みにして揉むと、ふざけていると思ったのか、笑い声を上げて身を捩っていた。
油断している隙に、これから挿れようとしているところを指でつついた。はじめのうちは何をしようとしているのか分からなかったようだが、執拗に続けていると違和感があったらしい。
そして聡い恋人はすぐに俺たちがこんな関係になった出来事を思い出した。
「ここに入れんの?」
「そうだよ」
用意しておいたローションを手に広げる。指に纏わせて、まずは人差し指を押し込んだ。
ルイは呻き声を上げたけれど抵抗はしてこなかった。震えながら抜き差しに耐え、指を増やしても一生懸命になって首元に抱きついていた。
痛いことは嫌いだけど、苦しいのは割と耐えてくれる。それを知っていたから俺はゆっくりとだが存分にルイの中を犯した。
中を解すためには、それなりに時間をかけた。
「腹ん中をグニグニされてるの分かる。シモンのちんちん入るかな」
「最後まで出来なくてもいいよ。ルイがしてもいいって思ったら言って」
「その言い方なんかズルくね?」
ズルいよ。当然。
俺はおまえから許可を得たっていう言質が欲しいだけなんだから。
「しょーがねぇなぁ。シモンが捻くれてるのなんて今に始まった話じゃねーし、許してやる。ちんちん入れてもいいよ」
その言葉をもらって、すぐに指を引き抜く。逸る気持ちを抑えつつルイの膝裏を掴んで広げた。
怖いくらいに鼓動がはやくて、ごうごうと血流が流れていく音に呑まれそうになる。
先端を入れるのが一番時間がかかった。カリ首まで沈めた後からは楽に挿入できた。
ルイは両手で顔を隠して耐えていた。途中で「痛い?」と聞いたけれど勢い良く首を左右に振っていた。その様子が健気で可愛くて、ますます全てを暴いてやりたくなる。
「途中までしか入らないね。でも狭くて気持ち良い」
何度か揺さぶると、ルイのこめかみに涙の粒がいくつも流れていった。顔が見たくて、手首を掴む。
「ルイ。本当に痛かったら言って」
「ん……だいじょぶ、いたくない」
「でも泣いてる。ちょっと休憩する?」
「しない」
「でも……」
腕を伸ばしてくるから、首を差し出す。ぎゅっと抱きついてきた恋人は俺の髪を優しく混ぜっ返してから、
「気持ち良くて涙出ちゃうの」
と言って見つめてきた。
「……そんなこと言われたら、止まれなくなる」
「いいよぉ。シモンのこと大好きだから何されても嬉しい」
手加減していたというのにルイは俺の気持ちなんかお構いなしに煽ってくる。ゆっくりと、だが容赦なく腰を進める。奥まで入りきる頃にはお互い汗だくだった。
手元が滑るから何度も太腿を掴んで抱え直した。甘く喘ぎながら、快感から逃げようとするから腕の中に閉じ込めて揺さぶった。
受け入れてもらえたことが嬉しかった。ようやく俺のものになったと舞い上がった。
しかし、幸せな日々は続かなかった。
ルイの兄、ライルは騎士の道へと進んだ。
もちろん本人の意志ではなく、父親から半ば強引に騎士団への入団を進められたらしい。
あの男が騎士道をまっとうできるとは到底思えなかった。そして予想通り、不満が溜まったライルは事件を起こす。
上官である公爵の娘を強姦した咎で投獄されたのだ。
それだけでも重罪だというのに、最悪なことにあのカスは事件を起こす前日にルイの薬の一部を盗み出していた。尋問の際には弟の薬棚から媚薬を盗み、犯行時に使ったと供述した。
ルイにも共犯の疑いがかけられたが、ライルが「盗んだ」と証言したことと、現に棚の鍵が壊されていたことで数日のうちに釈放された。
男爵家に戻ってきたルイの憔悴ぶりは見ていられなかった。あんなのでもルイにとっては憧れの兄だったのだ。昔から横柄で素行は悪かったが、おれにないものを持ってるんだよねと語られては悪口の一つも言えなかった。
ルイは部屋に引きこもるようになった。兄のこともそうだが、何より自分の調合した薬で被害に遭った相手がいるという事実に心を病んだ。
おまえは何も悪くないのに。責任を感じる必要なんてない。
そう言い聞かせても、夜中に何度も悪夢を見ては悲鳴を上げる。毛布を被って泣きながら謝る姿が痛々しい。俺はライルが憎くて仕方がなかった。のちに裁判で「冤罪だ!」「オレはハメられた!」と見苦しく喚いていた。それをおまえは自身の弟の前で言えるのか。あんなに可愛らしくて、何をするにも一生懸命で、生き生きと日々を暮らしていた俺の恋人の笑顔を、おまえは奪った。
そのうち、ルイは「死にたい」と漏らすようになった。
俺は仕事を休んで日々の大半をルイと共に過ごした。少し良くなったと思えば、また沈んでしまう。心が不安定で、俺がどれだけ言葉を尽くしても届かない。
俺では駄目なんだと思った。
何をしたらルイは救われるんだろう。そればかりを考えていた。
答えはすぐに見つかった。簡単なことだ。
何もかもを忘れてしまえばいい。
兄のことも、事件のことも、なかったことにしてしまえばいいんだ。
ルイの記憶を魔法で消すことにした。
一度目は失敗した。俺に関する記憶まで残していると、芋蔓式に思い出してしまう。
二度目は上手くいった。多少の記憶捏造があったが、ルイは綺麗さっぱり事件のことを忘れた。
自分のことを淫乱だと思い込んでいたのは笑ったな。俺以外に抱かれたことなんてないくせに。
精霊たちを守護につけた。最も強力な癒しの力を持つスーとルーは俺が魔法使いになって最初に契約した二匹だった。
忘却魔法が期待通りに作用しているかを確かめるために、アデラスとミーシャの間にある宿屋に泊まったところを狙って話しかけた。
ライルの所業をまるで自分がしたことのように話すのは吐き気がした。ルイはドン引きしていたが、記憶が戻ることはなかった。
嬉しかった。やっと楽になれたんだと分かった。
あれほど苦しそうな顔をして毎日泣いていたのに、全部忘れて楽しそうに日々を過ごす姿を見て、これで良いんだと思った。
それなのに欲が出た。
ルイのそばにいたい。その笑顔を一番近くで見ていたい。他の男になんか触らせたくない。
何度も手放そうとした。でも、できなかった。
隙を見て事あるごとに接触した。辛いことは思い出してほしくない。だけど、俺を忘れないで。昔みたいに名前を呼んで。好きだと言って。
そんなことを思っていたからバチが当たった。
夜を共にした後は必ず忘却魔法をかけていた。そのまま覚えていると記憶が戻ってきてしまうから。
ルイがオークションにかけられた日。精霊たちに呼ばれて慌てて競売に参加した。本人は百ペイで落札されたことに怒ってたけど、ルイの価値を知ってるのは俺だけでいい。久々に元気に声を張り上げる姿を見れて満足だった。
その後で竜人たちを転移させるために高等魔法を使い、能天気なルイにベッドに誘われて断れなかった。
油断していた。
これまで大きな問題もなく事が進んでいたから、うっかり寝落ちしてしまった。
朝起きたときには隣にルイの姿はなくて、枕元の硬貨を見て思わず己の失態に舌打ちした。
はやく見つけないと。記憶を消さないと――もし思い出したときにまた死にたいなんて言われたら、俺はもう耐えられない。
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