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第2話

「はじめまして!」 いつも通りクラブでぼんやりとしていると突然クラブには似つかわしくない純朴そうな少年、と言ってもいいような男に声をかけられた。霧矢が訝しげに少年を見ていると慌て始めた。 「急に声かけてごめんね!えと、いつも見かけるたびにクラブに来てるとは思えないようなことしかしてないから、気になって」 お酒だって飲まないでしょう?とそいつは続けた。 「一人になりたくないからここにいるだけだよ」 そう答えると少年はただ一言ふぅん、とだけ返した。 普段の霧矢だったらそんなこと答えずに無視するところなのに、自然とそう答えていた。彼の醸し出す雰囲気によるものだろうか、霧矢にとって初めての不思議な感覚だった。 「俺はね、丸目塔矢(まるめ とうや)。みんなからはマルって呼ばれてるよ、君は?」 「……阿形霧矢(あがた きりや」 「名前もかっこいいんだね、君は!」 普段だったら絶対に無視しているだろうに、不思議と答えていた。こいつは一体なんなんだ、この感情がわからず霧矢はもやもやとした。俺は何にこんなにイライラしてるのだろうか、わからない、と。初めての感情で霧矢自身戸惑っていた。 「俺ね、君と仲良くなりたいな!」 マルは霧矢の苛立ちなど臆せずそんなこと言ってくる。 (本当になんなのだ、意味がわからない。多分こいつの真意がわからなくて怖いのかもしれない) 霧矢は漠然とそう思った。 「あっそ、勝手にすれば」 「じゃあ勝手にするー!」 そう言うと塔矢は人懐こい笑顔で色々なことを聞いてきた。普段近寄ってくる女たちは聞いてこないようなくだらないことばかりだった、好きな食べ物や血液型、足のサイズ。 でもなぜかその時間を心地よいとさえ思ってしまった。 23時を過ぎた頃、そろそろ帰るかと思い霧矢は席を立った。 「もう帰るの?」 「あぁ」 「そっか、またね!」 引き止めるかと思ったが、塔矢はあっさりと霧矢に手を振った。そんなものか、と思いつつ心の隅で寂しく思う霧矢は自分自身に驚いた。 「ああ、またな」 そう返す自分にさえ驚きつつ、自然とそう返していた。霧矢のこの返答に驚いた塔矢は零れ落ちそうな黒の瞳を真ん丸に見開いた後、笑った。 何故かその笑顔に心臓がドキリとはねか、霧矢は気がつくと塔矢に口付けていた。 慌てて塔矢から離れ、クラブをあとにする。霧矢は去り際に塔矢の表情は見れなかった。そして逃げるように寮へ戻りベッドに倒れ込む。 何もかも忘れて眠ろう、そう思ったのに塔矢の顔が脳にこびりついてその日はそのまま眠ることができなかった。

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