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第5話

目が覚めた時霧矢は驚いた、なぜならもう夕暮れだったからだ。時計を見ると16時を超えており、授業はおろかHRすら終了している時間だった。 (午後の授業は行くつもりだったのにな、) なんて思いながら起き上がる。変な時間に寝てしまったため、今夜もまた眠れないかもしれないと思いながら着替え始める。 どうせ眠れないなら、と思いながら霧矢はクラブへと向かった。ほとんど無意識だった。クラブへ着くと大きな音にギラついたネオン、落ち着いたと思っていた頭痛がぶり返してきた。ズキズキと痛み始めた頭を抑えながら、 (今日は来ない方がよかったか?) なんて思ったりとしたが帰ってもすることもないので、いつものように飲み物を頼みソファーに座る。ギラついたネオンは今の霧矢には眩しく、思わず目を閉じた。 「具合が悪いのに来たのかい?」 今朝聞いたばかりのこの場には似つかわしくない優しい声に話しかけられ、目を見開く。忘れていた、俺はこいつとここで出会ったので、こいつが来ないとも限らないのである。迂闊だった、と霧矢は後悔した。 「迂闊だったって顔してるね、俺に会いたくなかったんでしょう?」 「うるさい」 「今朝はごめんね、俺って結構学園では愛されてるからさ」 「は?」 生徒会長なんだ、そう彼は続けた。 「総会とか行事とかでも何度も挨拶してるし、知ってるかと思ったんだけど?」 一応中学の時も生徒会長してたんだけどなぁ、などと言っているが霧矢は知るわけがなかった。 霧矢は総会に出たことなどなかったのだ。授業にはたまに出るし、試験も受ける。でも自分が学園で浮いた存在な自覚があったためそういったものには出席していなかった。総会だけではない、学園祭や体育祭、合唱コンクールにだって出席したことがなかった。出たところで霧矢の父は観に来ないのだから、それなら頑張る意味もない。中学1年生のまだやさぐれる前の霧矢は一度だけ参加したが、それきりだった。 学園の中でのことなんて霧矢にとってどうでもいいことだったし、霧矢にとっての世界はどちらかというとクラブの中での出来事だった。学園で誰が有名だろうが霧矢には心底どうでもよかった。 「知るかよ、俺が学園でのこと知ってるわけないだろ」 「そっか、学園一の嫌われ者だしね」 ヒュッと喉が鳴った。浮いてる自覚はあったが、嫌われていたのか。別に好意的な視線を感じたこともなかったし、どうでもよかったがいささかショックではあった。霧矢はいつだって愛に飢えている存在であったから余計に。 「こんな嫌われ者と関わってても良いことないだろ、どっか行けよ。それとも誰かに言われて来てんのか?こんなとこに来るのをやめろって言うようにさ」 「そんなこと、言われてないよ」 俺がしたくてしてるだけ、と塔矢は笑顔で言う。心底意味がわからなかった。 「こんな馬鹿みたいな空間でさ、君はいつも寂しそうにどこかを眺めてて、俺はその寂しさを埋めてあげたくなったんだよ」 「寂しい?俺が?」 「寂しがってるでしょ、いつだって誰かに愛されたくて、待ってる。たまに言い寄ってくる女を抱いてるのは誰かの体温を感じたいから、違う?」 違わなかった、塔矢の言ってることは何一つ間違ってなくて、何も言い返せなくなっていた。霧矢は黙って飲み物の入ったグラスを強く握る。多分、何を言ってもこいつは俺のことを見透かすのだろう。初めて会ったときの恐怖は正しかった、このすべてを見透かすような大きな瞳が俺は怖かったのだ。 霧矢はそう思いながら、 「だったら、なんだって言うんだよ。お前には関係ないことだろ」 吐き捨てるように霧矢がそう言うと、塔矢は大きな目をさらに見開いて、ぱちぱちと数度瞬きをした。 「言ったでしょ、君の寂しさを埋めてあげたいんだって」 「は?」 「俺と付き合ってよ」 「なんで、」 「君を幸せにしてあげたいなって思ったんだよ」 本当に意味がわからなかった。俺を幸せにってなんだ、まるで俺が不幸みたいじゃないか。俺は不幸でも可哀想でもない。霧矢はそう言いたかったが言い返せなかった、霧矢自身には何も、何もないのだから。 「どうやって、幸せにすんだよ」 やっと思いで口にした言葉は、掠れていた。 「それはこれからのお楽しみだよ、君が俺を選んでくれたら証明してあげる」 どうする?そう言いながら塔矢は霧矢に手を差し伸べてきた。今まで何をしても誰からも手を差し伸べられなかった霧矢は、何も言わずに塔矢の手を取っていた。 「嬉しいな、これからよろしくね、霧矢」 塔矢の言葉になんと返したらいいのかわからず、霧矢はただ頷いたのであった。

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