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第12話
「昔、母親が生きてた頃言われたんだ。"本当の運命の人に出会ったら、人は変わるものよ"って。俺がその意味をわかる前に母親は死んじまって、父親は仕事に没頭して。俺はずっと一人だった。でけぇ家にずっと一人で、父親は俺が怪我しても病気しても、学園の行事にだって来てくれたことはなかった」
ゆっくりと話す霧矢の声を聞きながら、塔矢はずっと険しく悲しい表情をしていた。自分のために悲しんだりしてくれる塔矢の存在が、霧矢にとって嬉しかった。
俺のために表情を変えてくれる人がいるんだ、と霧矢は噛み締めていた。
「だから学園の行事にも出なくなった。悪い連中とつるめば外聞を気にして叱ってくれるかなとか思ったけど、何もなかった。面倒ごとに巻き込まれた時だけ、自分のためにその事件をもみ消すくらいだった」
言葉にすると自分がいかに愛されていなかったかがわかって、霧矢自身も苦しくなった。
無意識のうちにマグカップを握りしめていた手を、塔矢がそっと握ってきた。その瞬間ふっと心がほどけていくような感覚がした。なんとなく、もう大丈夫な気がして話を続けた。
「クラブに通ってたのは単純に一人でいたくなかったから。寮の部屋は一人で、俺にはすごく寂しく感じた。だからなるべく部屋にいないようにクラブに通って、一晩限りの温もりを求めてた。でもそれもどこか虚しくて、寂しかったんだと思う。……軽蔑したか?」
少し不安に思い、隣に座る塔矢の目をそっと見つめながら問う。
「軽蔑なんて、するはずがないよ。俺は今無性に悲しいくらいだ」
「悲しい……?」
「幼い頃の霧矢が可哀想で、抱きしめてあげたいなって思ってさ」
「今の俺じゃ、ダメか?」
そう言うと塔矢は驚いた顔をした後に、そんなことないよ、と囁いて霧矢を抱きしめ、そして頭を撫でた。
「もう寂しがらなくていいよ、俺がいるから」
その瞬間、ずっと心にあったしこりが解けていくような気がした。きっと俺の心を埋めてくれるのはこいつで、俺はこいつに出会うのを待っていたのだ。
「母さんの言ってた意味が、わかった気がする」
「え?」
「俺、お前に出会えて良かったって思ってる。実はお前に出会った時は、お前の目が怖かった。何もかも見透かして、俺を変えてしまうような目が。でもなんか、そうじゃなかったんだよなって思った。お前に出会えて、変われてよかったなって思えてるから。今の俺が間違いじゃないんだなって思えたから……」
そう言うと塔矢は霧矢より力強く抱きしめた。
「え、わ、何?」
「霧矢はいらない子なんかじゃないよ!」
「っ!」
それは霧矢が長年ずっと求めていた言葉だった。誰かに俺は必要?そう聞きたかったが、聞けなかった、いらないと言われるのが怖かったのだ。
父親に、自分の存在は必要なのかと聞いてみたかった、でもお前はいらない子だと言われるのをずっと恐れて胸に秘めていた言葉だった。
「俺は、いらなくないのか……?」
ポロと霧矢の瞳から涙が溢れる。
「必要だよ。人はさ、誰かに愛されるために生まれてくるんだ。きっとそれは両親かもしれないし、身近にいる誰かかもしれないし。でも、霧矢の場合それに気付けなくて、出会うのがほんのちょっと遅かっただけなんだよ」
塔矢は微笑みながら言うが、霧矢にはその意味がわからなかった。
「霧矢は愛されてるよ。亡くなったお母さんも霧矢を愛してたし、お父さんも霧矢のことを愛してるよ」
「そんなわけない」
「ううん、だって霧矢のことを放っておきすぎるのはどうかと思うけど、学費を払ったり、霧矢を守ろうとしてくれたわけでしょう。君の父親は不器用なだけで、ちゃんと愛を持っているよ」
「そう、なのかな……」
霧矢にはあまりピンときていなかった。愛されたことも愛したこともなかったし、愛に形があることすら霧矢は知らなかったのだ。
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