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第3話 いつもの薬屋で
「店長、今日の納品は潤滑液だけね……めちゃくちゃ重かった…」
「おう、すまんがこちらは助かった。お前さんの作る製品は人気でなぁ」
コトンと湯気の立つマグカップを目の前に置かれて、つい癖で匂いから薬湯の中身を言い当てると「流石だな」とローブで覆われた頭をガシガシ撫でられた。
「いい薬草の選択してるね。疲労回復、精神安定…あとひとつは味の調整かな」
「驚いたな。催淫剤以外も詳しいのか」
「俺、薬師なんだけど…」
金が稼げるからエッチな薬ばっか作ってるだけだ。ちゃんと薬師として勉強してきたさ。
「すまんすまん」と笑いながら潤滑液を店の奥に運ぶ店長に悪意は感じないから俺も気にしないけどさ…
「…うん、調合も上手いな。美味しく出来てる」
卸して売る専門だとは聞いているけど、腕は良さそうだ。少なくともこの薬湯は売り物に出来るレベルだろう。
疲れたから少し休ませてもらうかと店内に置いてある椅子に腰掛けると、カランカランと音を立てて扉が開いた。
「───…居た」
「いらっしゃいませー店長は奥に行ってるから待っててください」
俺は店員じゃないし客でもないけど。マスクをキュッと整えて薬湯は諦めた。醜い傷痕を見せつける気はない。
「…覚えていないのか」
「?」
なんだと思って相手を見る。身長でけぇなおい、俺が座ってるから尚更迫力がある。
服装からしてお貴族様か…いや、それだと薬屋に直接来る筈がないからお貴族様に仕えている人か。顔は整っているし茶色の髪も艶があって綺麗なもんだ。オマケに青色の瞳ときたもんだから、ここまで完成されてるとひと目見ただけで印象に残ってそうなもんだが…
「どちら様ですかね。俺、そんなに知り合い居ないし見たら忘れなさそうだけど」
「……」
相手は黙ってしまった。やはり人違いか。俺のこの傷痕はなかなかのインパクトだからどっかですれ違った時にでも覚えたんだろ。
しかし肌艶もいいな、貴族様に仕えるくらいだから手入れもちゃんとしてるのだろう。
(女が存在する世界なら化粧品とかでひと儲けも出来たんだろうけど、男じゃな…)
確実に稼げる所で稼がないと。売れるかも分からない物を作っても仕方ない。
「まずはお互いに自己紹介をしないか、貴方と知り合いになりたいんだ。」
「………なんで?俺は誰とも関わる気がないし、薬を求めてるなら店長を…」
「薬は買わないから、友人にならないか」
───正直、動揺した。
この男とは初対面のはずだが、何故か俺と友人関係を築こうとしている。
この世界の在り方を把握して、すっかり諦めていた友人という関係性に希望を見出して…冷静になった。
「俺を都合良く利用したいならお断りだ。他を当たってくれ。薬が欲しいならこの店を通して」
「違う、薬が欲しいんじゃ…」
「俺の醜い顔を暴いて笑い者にでもしたいか?とにかくお断りだ。──店長!俺、帰るから!」
「おー、すまんすまん!量が多いから仕舞うのに時間かかっちまった!」
声を張って、普段使わない喉がヒリッと僅かに痛んだ。そういや薬湯を貰ったんだったと一気に飲み干そうとして、マスクをしていた事も忘れてマグカップを思い切り傾けてしまった。
「あ───ッつい!!」
「大丈夫か!?すぐにマスクを!」
「や、やめろ!!外すな!」
マスクからローブの首元に薬湯をかけてしまった俺はパニックになりながらも外すのは拒否した。拒否をしたが、目の前のガタイの良い男には俺の力なぞ相手にならなかったようで、あっさりとローブとマスクが剥ぎ取られる。
「やめ、俺、顔……!」
顎を掴まれ、目から口へと刻まれた醜い傷痕が目の前の男に曝された。
ローブで隠して誰にも見られてこなかった俺の真っ黒な髪も、目も、貧相な身体も、全てが白日の下に晒された。
「赤くなっている…すぐに冷やした方がいい。──店主!何か冷やす物はないか!」
「離して、見るなよ」
「大丈夫だから…落ち着いて、他に湯が当たった所はないか?」
「……顔と、その下」
「あぁ…少し待ってくれ」
男が着ていたジャケットを脱いで、俺の頭に掛ける。店主から氷嚢を受け取って俺の顔に押し当てた。
「おいおい大丈夫か?珍しいな、ノアがヘマするなんて」
「ノア?」
「あ?そこの薬師だよ。知り合いじゃないのか?」
「……個人情報の流失だぞ、店長」
「そりゃ悪い!まぁ許してくれ!ほら、奥の部屋で休んでいいから」
顔が冷たい。俺はどうして他人のジャケットを頭から被っているのか。
「……世話かけた。ありがとう」
「いいや…奥の部屋に行こう。ローブが乾くまでは帰れないだろう?」
「別に、濡れたの着て帰ったって…うわぁ!」
簡単に抱き上げられて、店長に促された男は店の奥へと俺を運ぶ。
「俺はリオネルだ。…よろしく、ノア」
「…よろしくしないって」
───なんなんだ。今日は災難だ。
俺は諦めて氷嚢で冷やされながら得体の知れない男に運ばれるのだった。
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