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第10話 リオネルという男

髪は茶色、瞳は青、身体つきはガッシリした筋肉に覆われていて大きく、身長も高い。 俺を軽々と運ぶくらいだ、力も強いのは証明されているが不思議と力による威圧感というか、恐怖心はない。 しかも俺が顔を見せる事を嫌がることを知っているからか、俺の世話をリオネルが率先して行っている。でもどう見ても使用人という立場を生きた人間じゃない。 ちゃんと観察してみると、立ち居振る舞いが高位貴族のソレなんだ。隙がない。 「これじゃ薬屋に納品出来ないな…」 「期限が近い薬があるのか?」 「いや、需要とバランス見て俺が作った物を持ち込む形だから期限とかはないけど…そろそろ潤滑液は在庫が枯渇してるだろうなって」 「……あの花の臭いのやつか」 匂いがあった方が売れるんだよ、うるせーな。 そういや潤滑液を作っているところを訪ねてきて臭いと言われたから閉め出したのもリオネルだったのか。 「どこかに委託して作ってもらうのは…」 「企業秘密でーす。俺は誰も信用しないから委託もしませーん」 「…」 絶対安静にしろと言われて部屋から出れないし監視されてるから製薬のひとつも出来やしない。こんなん詐欺じゃないのか。 「山に帰りたいな…」 「……この部屋で作れそうな物なら道具を持ってくるから」 「え、ほんと?んじゃ乳鉢とー…」 必要な道具と揃えて欲しい材料を書き出してリオネルに渡すと小さく溜め息をつかれた。別に腰痛なんかで責任は問わないのに律儀な性格だな…難儀なことで。 そもそも俺が悪いし。 「薬屋の店長にも、もう二日は顔見せてないから行きたいんだけど…」 「俺から状況を伝えるから、ノアはまだ安静にしてろ」 「もうほとんど腰痛くないってば…」 ベッドの上だから液薬は避けた方がいいだろう。設備が不十分だし、いちいち高そうなシーツやらカーペットやら汚して買い替えにでもなったら金銭的に詰む。 「道具を揃えに行くから、これ」 「ん。ありがと」 ローブを手渡されて俺は何を製薬するか思考する作業に戻った。何かあればメイドを呼べって事ね。何かある前にリオネルが頻繁に様子見に来るから一度も呼んだことないしメイドの姿すら見た事ないけど。 この世界は、魔法とか存在しない割にしっかりファンタジーで薬の効果により色が変化する。毒とか分かりやすくて助かるけど、なんつーか… (エロい薬に特化しすぎて普通の薬があまり発展してないんだよな…) ならもういっそ回復魔法とか使えろよとは思う。どんな世界観だったらこんな事になるんだよ。 そんな世界で足掻きつつ、エロい薬で金を儲けてるのが俺である。 「まぁ、これはこれで楽しいけどな。不可能を可能にする…みたいで」 組み合わせ次第ではちゃんとした薬も作れる。絶望するだけではこの世界を生き抜けない。 …いずれは、普通の薬で薬師として生計を立てられるようになりたい。誰にも恨まれず、誰かを助ける薬師としての生涯を… 「ノア、背中が丸まってる。腰に響くんじゃないのか」 「んー」 「ノア。…その集中力は褒めたいところだが」 リオネルの声が耳に届いたが、薬の構成の方に脳を使っていて聞き取ることは出来なかった。 「苦味の強い素材ばかりだな…飲みやすさを考えると何か甘いやつ…でもコイツが反応して今度はエグ味が出るから…」 「……」 飲み薬を作る上で、飲みやすさというのは無視出来ない。 甘すぎてもいけないし、苦すぎても飲めない。大多数の味覚に無難に合わせるのが大事だ。 紙いっぱいに思いついた事を細かく書き込んで、整理出来てきたところでより詳細な配分を書き出す。1g…それよりも少ない単位で調合する。ほんの微量で味も効果も変化する薬という世界は、俺の前世で培われた価値観からの苦しみを覆い隠して「生きていいよ」と肯定してくれる。 「──できた。あとはリオネルが帰ってくるのを待つだけ……帰って来てたっけか」 「どこまでやったら反応するかと試していたら全く気にされなくて逆に心配になった。」 ムスッとした顔をしたリオネルは、いつの間にか俺の背もたれになっていた。そういえば背中が温かい気がしてた。身体が大きいと安定感があるな。 「道具、揃った?」 「隣の部屋にある。持ち上げるぞ」 「別に歩けるって…」 コイツが結婚して、子供なんて出来たら物凄く過保護な父親になりそうだ。もう大して痛くもない腰をいつまでも労られて居心地が悪いったらない。 隣の部屋と言われて、近くに放っていたローブを掴んでいる間に俺の身体は横抱きで持ち上がった。 「メイドも今は控えてないから、隠さなくて大丈夫だ」 「あ、そうなんだ。まぁでも一応」 モゾモゾとローブを被ったらまるでオバケみたいだ。この世界のオバケはどんな姿なんだろうか 「リオネル」 「…うん?」 「俺がオバケになったら、傷は残ったままの姿なんかな。それとも希望の年齢の姿とかになれるんだろうか」 「……俺はノアの傷痕を醜いと思った事は一度もない」 リオネルの腕に力が入って、少し痛かった。

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