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第11話 調薬と、食事と
「この道具、初めて見たけどめちゃくちゃ使いやすいじゃん…薬学の世界も進化してたんだ…」
「気に入ったようだな」
製薬道具がまとめられたテーブルは、正にこの世の楽園のようだ。
俺が使い慣れた道具は全て山の上だ。そこまで取りに行くよりは街で買い揃えた方が早いだろう。
お金が勿体ないうんぬんは置いといて、薬が作りたい俺はそれを使用するわけだ。
使われる道具が小さな進化を遂げているのを知って、俺は地味に嬉しい。
とりあえず、乾燥した薬草のみ取り寄せたけどちゃんと揃っている。ミスも無く素晴らしい手腕だ。
「リオネル、お前って凄いな!薬草なんて知らないと買い揃えるのも大変だったろうに、こんな短時間で…」
「…ノアが喜ぶならなんでもする」
「ははっ!変なやつー」
秤を使って重さを量る、乳鉢で薬草をすり潰す、そんな地味な作業をしていくうちに俺はまたも集中して近くに居たリオネルの存在が気にならなくなった。というか、忘れていた。
慣れた薬を作るのは作業なので他へ気を配る余裕もあるが、試薬段階だと考える事も多い。
次にリオネルが俺の手を掴むまで、その作業は続いた。
「───なに?リオネル」
「今日は終わりだ。食事もとらずに夢中になって…もう深夜だぞ。」
「……そう。俺、普段からあまり寝ないから気にしなくていいよ」
「ノア」
咎める様に名前を呼ばれ、まぁ場所を借りてる身だからなと渋々道具を机に置いた。
「昨日もあまり寝なかったろ。目の下が黒い理由がよくわかった」
「だから、普段から寝ないんだって…」
よくないな。リオネルに抱き上げられる事が日常になってしまう。
横抱きで強制的に部屋を退場させられた俺は、怒った顔まで綺麗なのかよとこの世の理不尽さをリオネルに感じていた。
「軽食を用意したから、まずは食事だ」
「へいへい」
言われてみれば、腹が減ってきた。寝食ってもんは多少削ったところで生活に影響が起きにくいからサボりがちなんだよな。一人暮らしあるあるっていうか。
リオネルに管理されるとそのサボってる部分を見逃されないから健康になりそうだ。
「…軽食って言ったじゃん」
「軽食だが?」
料理の並べられたテーブルに着いて、サンドイッチとかそういうのを期待した俺は対面でナイフとフォークを握るリオネルをジト目で見つめた。これフルコースと変わらないラインナップしてるぞ。やっぱり高位貴族じゃん。
(比較的、重くないメニューだったら軽食扱いか…?脂身がなかろうと赤身だろうとステーキはステーキだが?)
屋敷に到着した昨日も、豪華すぎる食事に粗食を極めた生活をしていた俺の胃が耐えられず酷い目を見た。
栄養価の高い薬草とか食ってれば死なないよなってある意味薬師らしい飯で命を繋いできたんだ、動物性タンパク質なんて普段とらない。街で食糧を買って運ぶの面倒だし。
「ノアは、肉は嫌いか?」
「嫌いじゃないけど…山に暮らし始めてからは食ってなかったんだよ」
「そこら中に獣はいただろ」
「捌けないし。罠にかかったやつは街の人に引き取ってもらってたし…胃がもたれる」
ちまちまと添えられた野菜を食べる俺に、「どうやって生きてきたんだ」とまたリオネルから溜め息が出た。
「あのさ…やっぱり俺、山に戻るよ。腰ももう大丈夫だし」
「……駄目だ」
「生きてる環境が違いすぎるじゃん。薬はちゃんと作るからさ」
無難に生きられれば、俺はそれでいいんだ。
怖いし、不便だし、家は古いから雨漏りだってするし……でも、誰も俺を悪役にしないんだ。
店長が盾になってくれるから客と関わる事もないし。
「ノアは、俺の恋人だ」
「違うだろ。腰はもう治ってるし、一夜の誤ち止まりだ。山に戻って、リオネルの求める薬さえ完成したらまた、他人…」
ガタンッと大きな音が立って俺の肩は跳ねた。
対面のリオネルは立ち上がって、重そうな椅子が後ろに倒れている。
「ならもう一度抱く。毎日抱いて、抱き潰して、腰を砕いて……ノアを俺の恋人にする」
「え……怖すぎるんだけど」
言ってる事にドン引きしかないんだけど。なんで?薬はちゃんと作るって言ってるのに
「ノア、俺は性欲が人一番強い。そして今はノアに発情している」
「怖すぎるって!!俺もうあの薬は飲まないよ!?」
「薬なんか関係ない」
真剣な顔のリオネルがテーブルを回り込んでこっちに迫ってくる。俺の貞操が危機すぎる。
逃げようとする前に肩を掴まれ、俺の喉からヒュッとか細い音が出た。
「あんな薬なくても快楽を得られるように仕込めばいい」
「……なんで、俺なんかに手を出す必要が」
本当に理解出来ない。怖いことを言ってるのに、肩をガッシリ掴んできてるのに、リオネルの右手は顔の傷痕を愛おしいもののように撫でている。
こんな、醜い傷痕を気持ち悪いと言わない。言って、突き放してくれない。
「ノアの分まで俺が愛すから、頼むからここに居て欲しい」
「……理解出来ない」
この時に確信した。
リオネルはきっと、俺を知っている人なんだって。
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