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第12話 胃は重く、本は魅力的で
新しい薬よりも優先して作るべきもの、それは胃薬だったと俺は今強く実感している。
「苦しい…胃が重い…こんなんで横になったら逆流するってぇ」
「無理して食べなくて良かったのに…」
「食べなきゃ俺が食べられそうな勢いだったじゃん!嫌だよ俺、ちゃんと好きな人としか肉体関係持ちたくない。……手遅れだけど」
「…ほら、俺に凭れとけ。胃が落ち着くまで本でも読んでるといい」
夜中まで製薬してた俺も悪いけどさ。食べて即寝るとか、どう考えてもバランス悪いってか、とりあえず寝て起きてから朝食食べるくらいが正解だったんじゃ?
あの場を誤魔化すように食事に戻ってガツガツと肉を食い切った俺は今、猛烈に後悔したいがあれ以外の場の切り抜け方も思い付かない。
「リオネルが俺に付き合う必要はないんだけど……なに、この本」
「ノアが好きそうだと思って買ってきた」
「え?薬草の本、新しいの出てたんだ…学校には古い文献しかなかったのに…!」
ベッドでリオネルを背凭れにして本を読む。ずっと一人で暮らしていた反動なのかリオネルの胸板は異様に落ち着くというか、俺が思考を重ねてる間に気付いたら背凭れになってる。
変な世界ではあるけれど、ちゃんと存在する世界で、色んな国が存在して。
気候や地質で育つ植物も違うのは前世の世界もこの世界も変わらない。俺は生まれた国から出た事がないし、他国から仕入れた薬草は中々手に入らないけど…いつか全ての薬草を研究したい。
「やっぱり薬草の段階で効果に即した色がついてたりするんだな…東か…」
「他国の薬草が欲しいのか?」
「そりゃ、俺が一番好きなのは研究だし」
胃がもたれている事はすぐに忘れた。横から…じゃなくて後ろからリオネルが色々と話しかけてはいたが、俺は完全に意識を本に持っていかれて話半分だった気がする。
(この薬草はメモっときたいな。市場で見つけた時に買っておきたい……ペン…)
いつの間にか握っていたペンを紙に走らせる。身近で手に入る薬草ばかり調薬してる間に知らない薬草が増えていた。
金を稼いで、一人で研究しながら悠々と生きていける額に届くまでエッチな薬を作るのは止められない。今は我慢の時だとは理解してるけど
(やっぱり、研究したいな…次は国を出て行くのもありかもしれない)
「候補として最有力は東か?」
「ん…この国にはない薬草が多すぎるから…言語の問題がどうだったか調べないと」
薬草の名前が独特だから、その国特有の言語がありそうだ。
俺の言葉が通じれば助かるが…
「俺が話せるから、教えようか」
「ほんとに?凄いなリオネル……俺、ずっと会話してた?」
「独り言が止まらなかったな」
「恥ずかしい限りで…」
心の中で呟いてるつもりだったのに。そしていつの間にか背凭れだったリオネルに包み込まれている。顔が近い。
「胃が落ち着いていたら寝ようか」
「……リオネルも、一緒に寝るの?」
「手は出さないから安心しろ。ノアに惚れてもらう為ならなんでもする」
「既に手を出されてるも同然な気がするけど…」
この世界では、男しか居ない。どれくらいの距離感までは普通の範囲内なのか俺にはわからない。
リオネルに促されて身体を倒した。俺に付き合って夜更かしまでして、本当になんで構うんだろう。放っておかないんだろう。
「…いつもあまり、寝ないんだけど」
「眠そうに見えるが。…ここには怖いものはない、俺が守るから…目を閉じて」
一昨日は、薬の効果でよくわからなかった。
昨日は、リオネルに構われてるうちに寝落ちた。
(不思議と、悪夢を見てない)
夢で、悪意に殴られるから。
夢で、何度でも断罪されるから。
夢で、大きな爪が俺を襲うから。
「……真っ赤な世界に、なにか…」
目元を撫でられて、瞼を閉じた。俺、そういえばなんで熊に襲われて生き延びたんだっけ。
目が覚めた時に傷口が痛くて、生き延びた安堵以上に貼られたレッテルが重くて、学校そのものが敵だったと思って、逃げて
俺がこの世界の悪役だったなんて、両親に合わせる顔もなくて。
「おやすみ、ノア」
「……ん」
温かい大きな手は、俺を肯定する。
この世界で生きていいって、悪役なんかじゃないって、悪夢なんか見なくていいって
「おやすみ…なさい」
薬が完成して、リオネルに渡したら消えるはずなのに。
居なくなろうって決めたのに、何者かもわからないのに。
俺が寝たと思って抱き寄せられたの、わかってる。俺は恋人じゃないし、知り合いも拒否したのに…温かいんだ。
だから、俺からは抱きつかないけど服をほんの少しだけ握って。
悪夢より、リオネルの夢なら見てみたいかもしれないと、俺は意識を手放した。
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