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第13話 誘惑がすごい
俺を懐柔しようたって、そうはいかない…いかないんだ……
「これっ、この薬草…っ!」
「気になっていたようだから取り寄せた。欲しいか?」
「めっっっちゃくちゃ欲しい。けど…いくら?」
これ、国内では手に入らない薬草じゃ…?本を読んでから三日しか経ってないが?
高位貴族なことは間違いないけど、リオネルにどこまでコネクションがあるのか底知れない。
「金よりも、頬に一回。」
「……ほんと、変な奴」
左頬を差し出せば、すかさず唇が押し付けられた。
唇にキスこそされないが、事ある毎にこうして接触される。
俺としては財布が痛まないのは有難いけど…頬っぺたくらいなら別に減るもんでもないし
ただ、絶対に対価としては釣り合ってないと思う。金持ちの道楽にしたってもう少し考えて浪費して欲しい。…薬草は嬉しいけど
「今日はこのまま研究するか?」
「あ。いや…今日は外出するから」
部屋から出る度に使うから一々仕舞うのも面倒で、近くの椅子に掛けているローブを取りに行こうとすると腕を掴まれて引き戻された。
「どこに」
「えぇ?薬屋と、銀行と、市場だけど」
「俺も行く」
「別に良いけどさ、リオネルって仕事とかないの?俺に構ってばかりで大丈夫?」
この通り、リオネルは俺に執着して離れようとしないんだ。
ついて来ても楽しくはないぞと掴んできた手をぺしりと叩いて離させる。マスクを着けてローブを頭からしっかり被るスタイルは久しぶりだ。
「相変わらず厳重だな…」
「リオネルは平気かもしれないけど、やっぱり見た目は悪いからな」
どうせほとんど見えないし、左目には眼帯を付ける選択肢もあったが…いよいよ不審者じみてて犯罪者扱いされそうだとやめた。
目元と足下だけが見えるローブ姿で、付き添いにしてはやたら目立つ男を連れて俺は久しぶりに外に出るのだった。
「無事だったかノア!心配したんだぞ」
「納品出来なくてごめんな店長、新薬の研究で忙しいのと大量生産する設備がなくてさー」
いつもの調子で店長にガシガシと頭を撫でられて、後ろに立っていたはずのリオネルに抱き寄せられた。お前は俺の恋人かってーの
…リオネルの主張では恋人らしいけど。俺は認めてない。
「坊主、ノアは本当に望んでお前んとこに世話になってんだろうな」
「そんな話になってんの?俺は、むぐぐ」
「ノア。実は他にも取り寄せた薬草があるんだ」
マスク越しに口を押さえられて文句を言いたかったけど取り寄せた薬草が気になる。何を取り寄せたんだ…俺が反応してたやつだよな…
「………気になるが、ノアの顔色も良くなってるじゃねーか」
「ぷはっ。店長ー、食事と睡眠を削ったら怖いんだよ、コイツ」
「ガキが命削ってんじゃねーよ。納品はいいからこの機会に健康になれよ」
「味方がいない…」
リオネルを疑った目で睨んでたはずなのに、もう警戒解いてる。店長は人懐っこいんだ。
まぁ、その人懐っこさで俺は助けられた訳だけど…
「店長、せっかく山を買ったのにまだ帰れそうになくてさ」
「元々誰も住んでない状態が長かったんだ、気にするな。猟師の奴らが山の手入れもするから安心して休んでな」
「うん……それでさ、潤滑液だけはレシピ渡しとこうと思って」
ローブの内側にはポケットがあって、俺はそこから紙を出して店長に差し出した。
戸惑うような顔付きで折り畳まれた紙を受け取った店長は、それを開く事なく俺の唯一露出した目元を真っ直ぐに見てくる。
「他の業者に依頼して、これで作ってもらったらいいなって」
「ノアの薬は高性能だから助かるが…買い取るぞ」
「ううん。店長にはたくさんお世話になってるし、もっと性能良いやつ作れそうだからいいんだ」
「抜け目ねーな!勿論、新薬は俺に卸すんだろ?」
「俺の薬、店長くらいしか信用されてないから他に卸せないっての」
薬自体は人気でも、俺はこの街で浮いた存在だからな。
もう一度頭を撫でようとした店長の手は宙を浮いたまま俺に届かなかった。
「………嫉妬は醜いぞ、クソガキ。」
「俺もノアを信用してる。販売ルートが欲しいなら俺が…」
「そういう話じゃないだろ!!店長、次は一人で来るから、また!」
「忙しねぇな…たまに顔出せよーノア」
めんどくさいリオネルの腕を引っ張って薬屋を後にした。こいつ、本当になんで俺にそんな執着してるんだ。
見た目と言動からして爽やかな好青年かと思いきや、急にドロドロした陰気な男になる。高位貴族わからん。
「次はお金下ろして、んで市場に行くぞ」
「欲しい物があるなら俺が…」
「他人からの施しは受けないから。俺だってキチンと稼いできてんだ」
いつまでも引っ張る必要なかったかと腕から手を離したら、即手を繋がれた。身長差があるから高さが合わないのに。
ジロッと睨んでも無視されるし、男しかいない世界だから恋愛対象だって男が当たり前の世界だ。周りから変な目で見られる事もないからかえって憎らしい。
「…めんどくせー男」
変な優越感を感じ始めてる俺も、めんどくさいな。
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