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第14話 潤沢な資金
「……ノア?どうした、何かあったか…?」
銀行に着いて、ATMなんて物はないから窓口で手続きをして資産状況を調べないといけないんだけど
現実と思えない現実に、俺は足を動かすだけで精一杯だ。
「思ってた数十倍……入ってた…」
───心の奥で誰も信じ切れないからって、店長まで疑っていた自分を恥じた。
どうしよう。今すぐに他国に高飛びとか出来るくらいの財産持ってた。
(でもリオネルの薬は完成させたいし、潤滑液だけじゃなくて他のレシピも渡して…)
「ノアは、どうやって薬屋の店長と知り合ったんだ?」
浮き足立って上の空な俺を連れ出したリオネルが、隣に座って飲み物を差し出してきた。
今日は祭りでもやっているのか、地方の街にしては人が多い。
ベンチに座らされた俺は素直にその飲み物を受け取った。
「……果物は共通なんだよな」
「共通?」
「こっちの話。オレンジジュースありがと」
ここがゲームの世界と仮定すると、果物や野菜は前世と同じものが設定されている。薬は都合良くなる為におかしな物が多いが、特に作り込まれなかった部分は世界が独自に進化を遂げてきたものだ。
エロい薬だけで止まっていないのは、この世界に薬は必要だから。
木で作られたカップに口を付けると目が覚めるような酸味が口の中に広がった。
「これは…酸っぱいな」
「でも美味しいよ。俺、これくらいの酸味は平気」
どうやらリオネルの口には合わなかったようで、ちびちび飲む姿に少し笑ってしまった。可愛いところもあるじゃん。
「店長ね、……俺がこの街に辿り着いて、結構すぐに出会ったよ」
俺は、学校で稼いだ金を消費してひたすら逃げ回っていた。
追いかける人間なんて居なくても、偶然でも二度と会うかと思っていた。
適当な田舎で薬師として働いて生きていければいい。薬なんてもう二度と売らない方がいいとは思ったけど、俺にはそれしかないし、体力も大したことない。
結局、薬師だったから断罪されたのに薬師以外の生き方を知らなかったんだ。
──でも、急に現れた得体の知れない薬師から薬を買う人なんて居なかった。
街も、村も、顔に大きな傷を残した怪しい薬師なんか受け入れてはくれなかった。
俺はどんどん疲弊して、断罪された悪役に生きる道なんか無かったのだと思い始めていた。
諦め半ば、どうせ駄目だろうと思いつつ扉を叩いたのが、あの店長の居る薬屋だった。
「俺の話を真剣に聞いて、薬を見せてみろって言ってくれたんだ。俺がどう見ても訳アリの子供だったから放っておけなかったとか後から聞いたけど」
学校は中退したけど、これでも店長に会った時には18歳にはなってたんだけどな。
「お人好しの店長が俺の薬に感激して、住処を探すのも手伝ってくれた。最初のうちは店長の家に居候してたけどな」
「……あの店長に惚れたか」
「はぁ?今や俺の親代わりだ。失礼な事言うなよ」
「……悪い。俺は余裕がないんだ」
グイッと木のカップを煽り、オレンジジュースを一気に喉へと流し込んだリオネルはやっぱり酸っぱかったのか微妙な顔付きで固まっている。今日はなんていうか、リオネルの情けない姿をやたら見る日だ。
でも、それがなんだか楽しくて。俺もジュースを一気飲みして、喉を刺す酸味に少しの間悶えたら「大丈夫か」と左頬に手が添えられる。ジュースを飲む為に下げられたマスクを上げる前にリオネルの傷痕を愛でる時間が始まってしまったようだ。
自然と上がってしまう俺の口角が、この行為を案外悪くないと主張している。
「…俺はひとつ話したんだから、リオネルも話せよ。俺のこと、知ってるんだろ?」
「……」
「俺は入学するまであまり人と交流してこなかったし、学校だよな。───俺の悪評、知ってるんだろ」
悪役と知っていて、逃げたと知っていて、こんな遠く離れた街で俺達が出会った理由が知りたい。
リオネルが俺に執着する理由が知りたい。
青色の薬は自白剤。どんなストーリーだったらそんな物が必要になるのか。
同じ色のリオネルの瞳は、戸惑って揺れていた。
「話してよ。リオネルくらい顔が良いなら、きっと…」
「きっと?……ノア、俺はノアが好きで」
「話して。」
───きっと、皆に守られていた主人公に近い存在だ。
(断罪の時に知ったけど、ハーレムものだよなぁ)
その執着は、監視か、愛か。
この世界が俺を悪役としてまだ必要としているのか
簡単には疑わないけど、簡単には信じない。
リオネルの、俺の傷痕を撫でる右手は本心だから、俺はちゃんと知りたい。お前は主人公につくのか、悪役につくのか。
逃亡資金を心配しなくて良くなった俺は、少し出来た心のゆとりで目の前の執着男を試す事にした。
ローブに覆われた手を伸ばして、リオネルの揺れる瞳を包む目元に触れる
「俺を地獄に落とすのも、一緒に堕ちるのも、リオネルだと思うから」
「……愛して、いるんだ。本当に」
震える手が俺の指を掴んで、口付けを落とす。
それは祈りのようで、懇願するようなキスだった。
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