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第15話 物語の中で
「俺は、ノアを追い詰めた奴らと元々よく絡んでいた間柄だ。」
まず一人が「どんな薬も作れる男がいる」と薬の購入を自慢したことから始まった。
良くも悪くも、リオネルやその周囲の男達は校内で目立つ存在だった。それぞれ家柄が高位貴族だったり貴族じゃなくても資産家だったり、入学する前から社交でやりとりのある関係だった。
目立つ男が発信源だったこともあり薬の噂は瞬く間に広がり、凄い人間が居るもんだとリオネルも感心していたが、欲しい薬というのも特に無いので俺との関わりはなかったと。
「俺に来た依頼は性生活に関する薬しかなかったけどな。どんな薬でもって噂なら、もっと他の求めろよ…」
「それは…そうだが、俺が関わる話はそこじゃないんだ」
「ふーん」
市場に行くのをやめて、屋敷に向かってゆっくりと歩く。
収穫祭か何かなのだろう。街の人々が笑顔で歩き回る様子は俺とは遠い出来事のように、ただ視界に入るだけで次の瞬間には忘れている。
足下へと目線を移すと、リオネルは一歩がとても大きいのに常に俺の隣に立っているから、俺の歩幅に合わせて歩いていてんだと気付いた。
「……偶然、ノアが研究室の外に出ている時に遭遇したんだ。食堂でランチをとろうとしていた」
「そんなことあったっけ…エロい薬ばかりで飽き飽きしてた時かな、気分転換に少し出歩くようになってたから」
「大きな白衣を身に付けたノアが、食事を乗せたお盆を零さないようにそっと歩く姿がとにかく可愛かった」
「小柄な人間を無条件に可愛いと思うタイプか?」
俺の皮肉に苦笑いで返すリオネルは、主人公を取り巻く男として納得の美形だ。
俺は、傷なんかなくても主人公達に見向きもされないモブだったはずなのにな…
「でも、ノアは走ってきた別の生徒にぶつかって倒れたんだ」
「あー…それは覚えてるかも」
「ノアは弾き飛ばされて、盛大に倒れていたな」
そこまで熱いものがなくて良かったと安堵したのを覚えてる。
ぶつかった生徒は勿論謝っていたが、倒れた俺とめちゃくちゃになった料理は放置してその場を立ち去ってしまった。
まぁ、台無しになった料理は食べられないから申し訳ないなとは思っただろう。
「あの時、少しだけ話をしたんだ。大丈夫か、熱くはないかって」
「……憶えてないな」
「そうか」
確かに誰かが手伝ってくれたけど、俺は周囲に興味がなかったから。俺の薬に興味があって、俺には興味がないように、俺の世界では薬が全てで、あとはそれ以外でしかない。
だから、主人公を貶めようなんて僅かにも思っていなかった。
「平気だし、手を汚してごめんなって俺にハンカチを差し出して、さっさと研究室に戻ってしまった。……その時に、恋に落ちた」
「…」
俺はなんでもないと思って忘れていた記憶を、リオネルは宝物のように大事にしていた。
俺が立ち止まればリオネルはこちらに身体を向けて直立している。
「恋に落ちた自覚はなかったが…ずっと、ノアを目で追っていた。ハンカチを返さねばならないと」
「それで、今になって恋人宣言?」
「それもある」
極端な奴だ。こんな、断罪された悪役を探していたという事だろうか
真っ直ぐに俺を見るリオネルに不快感はない。むしろ世話を焼かれると落ち着くし、少なからず好意的に思っている。
諦めた人間関係に、ほんの少しだけ希望を取り戻しつつある。
「……俺を探した?」
「ずっと探していた。目撃情報を募り、依頼して探させようとしたが俺の足で探したいと思って国中の薬屋をしらみ潰しに探し回った」
「すごい執念…ただのハンカチに」
「ノアは俺に自我を与えてくれたんだ」
見上げていた目線が下へと向かう。リオネルは跪いても様になる。
でもハーレムものだとしたら、リオネルは主人公に惚れていなかったのだろうか?
断罪の時にしか見ていないけど、一人の男を守るように囲っていた男達。リオネルのように顔の整った人がハーレムものの攻略キャラじゃないなんて事があるだろうか?
(この世界は作られた物語だとしても、それぞれ生きて動いている。でも、リオネルはどう見ても物語に書かれている、物語通りに動く人物じゃ?)
「……自我って、深掘りしていい話?」
「…俺は、性欲を消す薬が欲しいと言っていただろ。今はそこまでじゃないが…学校に居る間は特に、一人の男に欲情していた。それがどうにも、受け入れられなかった」
「その男って…」
───あぁ、やっぱりリオネルは主人公に攻略される人物だと確信したら、なんだか聞きたくないと思ってしまった。
「……ノアにその傷を負わせる原因となった男達の中に居る、全ての愛を一身に受け止めていた男だ」
ハーレムの中に居るはずの一人であるリオネルが、俺に惚れて今も目の前に居る。
その欲情が物語における強制力だとしたら。
ローブに包まれた全身に鳥肌が立つ。
冷たい汗が、背中を流れた。
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