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第19話 物語との対峙

俺は、物語に組み込まれた人間だった。 でも根幹に関わるキャラクターではなくて、モブに近い、システムのひとつ。 きっと、俺に前世の記憶があったせいだ。意志を持って動いていくうちに少しずつズレたのだろう。 麻袋の外から掴まれて、身体を固くしていたら一気に浮遊感と落下の感覚が俺に襲いかかってきた。 「ッ───!!」 「どうするんだルリ、コイツ殺したって何も得ないだろ」 「ふふ、そう。ただ殺すのじゃ駄目なんだよ。ちゃんと断罪しないといけないの」 馬車の荷台からぶん投げる奴があるか。こっちは手足縛られて受け身もとれないってのに。 硬い地面とぶつかった衝撃は一瞬で痛みになった。歯を食いしばって耐えていると、再び担がれる。 「悪役令息が断罪されて、真実の愛に目覚めたリオネルと僕は結ばれるの。……おうちに帰らないで一体今まで何してたのかな?キミのご両親にいっぱい叱られたせいで、僕のハーレムは崩壊だよ?」 「俺は他の奴らが居なくなってルリを独占出来て良かったけどな」 物語の主役達はこんなに下品に笑うのかとげんなりする。コレがゲームだったら、やりたくないな。 そもそもBLってジャンルに手を伸ばす事もなかったけど。 整ってるのは顔だけで、シナリオ通りに動きさえすれば見えない部分は縛られないということか?主人公ルリは貴族じゃなかったのか……駄目だ。あまりに興味無かったから二人の事が何も分からない。 ガタイのいい男に担がれていると、どこもかしこも固くて身体にくい込んだ部分が痛い。リオネルも固い筋肉で覆われた身体をしてたのに逆に触り心地が良かったのは何故なのか。 (……父様達、そりゃ心配してるよな) 俺が薬師になりたいって主張しても肯定して応援してくれた両親の顔が浮かぶ。 男しか存在しない世界だから、俺には父親が二人居る。男性妊娠…ってのは未だに理解出来ないけど、この世界では出来てしまうんだ。 俺を大切に育ててくれた二人に、俺が悪役だなんて思われたくなかった。誰かを苦しめる為に薬を作っていたなんて、知られたくなかった。 ルリは、俺の薬の被害者だ。だから罰が足りないと他ならぬルリが言うのなら。 …俺は静かに罪を受け入れて、悪役として散るしかないじゃないか。だってこの世界での断罪の先にあるのがキャラクターの死ならば。 いつの間にか、降ろされている。ズルズルと麻袋が身体を擦って、眩しい世界の中に戻された俺は右目が明るさに慣れるのを待ってから辺りを見渡した。 「………森…」 戻って来たんだと、知ってしまった。 森の向こうに見慣れた建物がある。俺が卒業を待たずに逃げ出した学校だ。 桃色の髪がそよぐ。儚く微笑むルリは、名前の割に瑠璃色がどこにも無いんだなと現実逃避するように俺は眺めた。 真っ白で細い手が俺に迫り、ローブとマスクを外される。 「わぁ、熊の爪って刀じゃないから傷痕もガタガタだね。こんな顔になってよく生きていられたね」 「……」 「サポートキャラのノアールくん、どうしてキミは僕の思い通りにならなかったのかな?主人公に動かせるのはメインキャラだけって事かな…」 「…言ってる意味がわからない」 「あははっ、そうだよねぇ」 手足が不自由なままだから、軽く押されるだけで簡単にバランスを崩して倒れた。 俺とルリの目線の高さが、この世界でのそれぞれの立ち位置だと言わんばかりだ。身を捩る俺の姿も滑稽だとルリは綺麗に笑う。 「やっぱりリオネルが転生者かな、僕の思い通りにならないし…こんなのに惚れたなんて、おかしいよねぇ」 「ッ痛い、俺は何も知らない!」 「そう、知らないから簡単に悪役に出来たのに」 髪を掴まれて、引っ張られて。無理矢理目線を合わされる。 「僕はね、メインキャラの皆を愛してるし、愛されたいんだ。誰かを選べば選ばれなかった誰かが闇堕ちして断罪される。ひどいゲームだよねぇ」 「ッ……」 「だから悪役を別の人にしたんだよ。キミの薬は本当に気持ち良くて最高だったけど…モブすぎると上手く動いてくれなかったんだぁ。…ふふ、何言ってるか分からないよね」 全部理解したけど、俺からは何も言わない。思った事と言えば「やっぱりひどい世界だ」ということだけだ。 主人公の為に動く世界で、主人公の都合に合わせて命を散らされるとか。 物語の世界でも、その外では皆生きているのに。俺を産んで、愛した人が居るのに。物語の強制力に苦しみながらも俺を愛してしまったリオネルの執着を、メインキャラを愛する主人公が否定するのか。 「…お前…あんまり綺麗じゃないな」 「……は?」 どうせ散る命なら、怖い物なんてあるもんか。 守らなきゃいけないと掻き立てられる衝動も、全てを暴きたいと思う劣情も、無条件で愛してしまう恋情も、何ひとつとして俺には抱けない。だってメインキャラじゃないから。 「顔は綺麗でも底意地の悪さが出てる。それじゃリオネルは好きにならないよ」 「ッ──」 パンッと乾いた音が、耳に響いた。

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