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第24話 ただいま

思えば、王城って初めて来たんだと後から気が付いた。なんだかんだ俺も浮かれていたんだと思う。 足をきつく拘束されたせいか、馬車から投げられたせいか俺は軽い捻挫をしていて車椅子で移動していた。 王城の広い庭を王子様に車椅子を操作させながら移動しているのだ。豪華なことで。 「緊張する……父様達、心配してるよなぁ」 「ノアが戻って来たと聞いたその日に城に乗り込んで来たな。今は手当をしているし、事件に発展した以上は事情を聞かねばならないからと面会を断ったら半狂乱だった」 「……俺の顔、見たら泣いてしまうよな」 悪者に仕立てられて、こんなに大きな傷痕を残してしまった。外に出るからと着用したローブのフード部分を引っ張って深く被り直すと布越しにリオネルの手がぽんぽんと叩いてきた。 「愛息子が失踪して一年間、伯爵は本当に心配していたんだ。ノアも苦しんだだろうが…」 「……わかってる。ちゃんと謝るよ」 自分が悪い人間になったショックで飛び出したけど、父様達もショックだったと思う。 …でも、この傷痕は見られたくない。がっかりされたくない。 「ノア」 「…何かあったら、リオネルが助けてくれるよな」 「勿論だ」 車椅子は進み続ける。自分で歩けなくて良かった。きっと足が竦んで動けなくなってたから。 ドキドキとうるさい心臓と、治ったのにズキズキと痛みを訴える顔の傷痕、見られたくない。でも、父様達の息子で居たい。 「────ノアくん!!」 「……カエルム父様」 遠くから聞こえた声は、一年振りでもすぐに分かった。 「ノア!!怪我は!」 「ヴェイル父様」 顔を見られたくなくて深く被ったフードが視界を遮っていて二人が見えない。 どうしよう、まず久しぶりって挨拶…なんて状況じゃないよな。謝って、それから… 下を向いてもじもじと悩んでいる間に、二人分の足元が視界に飛び込んできて 次の瞬間には抱き締められていた。 「ノアくん、無事で良かった…凄く心配したんだよ」 「ノア。もう何も傷付けないようにするから、うちに帰って来なさい」 「……父様、俺、ごめ、」 抱き締め返す事も出来ずに固まっていた俺の被っていたフードはあっさり外されて、眩しい世界に二人の父親の泣き顔が見えた。 金色の髪に、真っ黒な目のカエルム父様。いつも柔らかく笑ってて、俺、カエルム父様と同じ色の目が大好きで、ほとんど見えなくなったのが悲しかった。 黒い髪に赤い目をしたヴェイル父様。見た目は少し冷たくて、でもすごく優しくて、どんな時でも俺を自慢の息子だって言ってくれて… 「怖かったねノアくん。痛かったろうに…」 「ノアは何も悪くない。冤罪にかけられて、俺達の自慢の息子で居られなくなったと思うとショックは大きかったろう。俺達の息子は人一倍責任感が強いからな」 「っ……俺、悪い人になったと思って」 正義感の強い二人の父様に嫌われるのが怖かった。 二人の手が俺の傷痕を撫でる。この醜い傷痕を見てがっかりされるかもと不安でいっぱいだったのは杞憂だった。 リオネルみたいにガッシリしてないけど、父様達の匂いに包まれて、肩の力が抜けていく。 「……そうか、伯爵達に呼ばれていたからノアと名乗っていたのか」 「……捨てられるわけないじゃん、大切な名前なのに」 頭の上から聞こえたリオネルに反論したら、必死に堪えてた涙が零れ落ちてしまった。リオネルは本当に俺を弱くする。 「傷に沁みてしまう」とヴェイル父様がハンカチで拭って、俺の手はカエルム父様に握られている。 「ノアくん、帰っておいで」 「世界がノアの敵になったら、俺達も世界の敵になる。俺達の元に帰っておいで」 「……俺、もう大人になるのに」 「ノアが老人になっても俺達の子供だ」 「そうだよ~ノアくんがヨボヨボのおじいちゃんになっても一緒に居るんだから。…おかえり、ノアくん」 「………ただいま、父様」 ────こうして、山の奥で薬師として生きていた俺の家出は終了した。 帰るにしても、俺にはもう少しやりたい事がある。心配する父様達を説得するのは大変だったけど…どうにか納得してもらって、ひとまずお茶を飲んで話をしようと城の応接間に移動した。 「───で?どうしてリオネル王子殿下が一緒に来るのかな?」 「………えっと…」 「ノアの恋人になりましたので」 堂々と言い切るリオネルに、恋人じゃないと拒否をする事はもう出来ない。俺もリオネルが好きだって、とっくに知られてしまっている。 だからと言って、恥ずかしくないわけがない! 「…………うちのノアの、恋人。」 「結婚を前提にお付き合いさせて頂いてます」 「えっ」 「え?…ノアくん、その反応は同意してないのに結婚の約束させられたのかな?」 「いや、えっと、俺まだ恋人っていうか、両想いになったばかりで、その」 なんでいきなり親に説明する事になってるんだ…そこまで大っぴらに言うタイプじゃないのに! 熱くなった顔を両手で覆って蹲る。違う意味で、俺はここから逃げたくなった。

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