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第26話 塔の中に

さて。俺が大人しく言う事を聞くタイプだったらリオネルは苦労していないし執着する必要もないわけで。 やっぱり王子様なのに一年も俺を捜索して回っていたのは良くなかったらしい。お呼び出しをくらって渋々と部屋を出て行ったリオネルを見送った俺は少し待ってから自分も部屋を出た。 (捻挫くらいなら普通に歩けるし) 居住エリアは流石に見張りが多いが俺がリオネルの客ということは把握されてるし、伯爵子息だと身分も割れているから引き止める使用人は居ない。 怪しすぎるから流石にマスクだけでフードは被ってないが。 確かこっちから来たよな…と堂々と城内を歩いて外を目指していたら前方から若い貴族が歩いてきて、社交をまともにしていない俺は身分差がわからないなと脇に避けて待機した。 目を伏せてやり過ごそうとしていると、相手も俺の立つ目の前で静止する。 「……ノアール・ブルムリッジ」 「…はい、確かに私がブルムリッジですが」 おっと、俺を知っている貴族だった。若いから学校で会っていたか…? 俺は本当に他人に興味がないから相手のことなんて何も言えないな… 「お前!………いや、その節は大変な事をしてしまった。もう身体は痛くないか」 「はい?………えっと、もしかしてルリと一緒にいた人か」 「なんで覚えてないんだよ…」 顔を見ると若いしやけに整っていたから、まさかルリの攻略相手かとカマをかけたら本当にルリ関連だった。 相手が気まずそうにしながらも俺を麻袋に入れたり投げたりした人だと説明する最悪の自己紹介つきだ。 「リチャード。アッシュウェル侯爵家の長男だ。お前も貴族なら主要貴族の名前と顔くらい覚えろ」 「…アッシュウェル殿」 「リチャードでいい。お前には貸ししか無いから何も気にせず話せ。…それで、城で何をしているんだ」 「牢屋を探してた」 「……」 ジトっと睨まれても困る。重ねて信じられないって顔されましても。 俺はリオネルに見つかる前に用を済ませたいし、リチャードはなんか使えそうな感じがする。というか学校で薬を売ってた時のお得意様か? 「リチャード、牢屋の場所を知ってたら急ぎで教えてほしい」 「……なんでだよ」 「リオネルに見つかったらまずいから急いでるんだ」 「だから、なんでだよ!!」 信じられないって顔が理解出来ないって顔になった。こうしてちゃんと見ると攻略キャラの顔って本当に整ってるんだな。 でもリオネルの方が整ってるし、身体つきもリオネルの方がガッシリしてて頼もしい。そもそも人の扱いが乱暴だったし。 「お前…だいぶ失礼なこと考えてるだろ……はぁ、俺もルリに会いに来たから、着いて来い」 「助かるよ、ありがとう」 さっさと歩き出したリチャードの後について小走りでついて行く。この際だ、足の痛みには目を瞑ろう。 しかし脚が長くて歩くのが早い。流石は攻略キャラと言うべきか。というか断罪で一緒に居たし俺を誘拐したから何かしら罰を受けていると思いきや…高位貴族だからお咎めなしなんだろうか? 「……今も謹慎は受けているが、ルリとの面会だけは許されたんだよ。ルリはどう足掻いても厳罰を避けられない」 「俺の心読まれた…」 「ジロジロ見られていたら気になるだろそりゃ」 調子が狂うな、お前。と少しゆっくり歩き始めたので助かったけど、リオネルに捕まる前に早く行きたいから背中を押したらまたも盛大に溜め息をつかれた。 「………なに。惨めな僕を嘲笑いに来たんだ」 王城の敷地内ではあるものの、少し離れた所にその建物はあった。 まるで塔というか…まぁ、塔か。螺旋階段を上って上に行けば行く程 身分の高い者が収監されているらしい。 平民のルリは低い階層にある牢屋から拘束された状態で俺達の前に出て来た。 風にそよいでいた桃色の髪はボサボサで、まともに手入れ出来ていないだろうが、それでも相変わらず儚げな雰囲気の美人だ。 面会用に置かれた簡素な机と椅子に誘導され、ルリは嫌そうにそこに座った。 「この状況は笑いにくいな。少し話したい事があって…リチャード、席外せない?」 「俺が席を外したら他の監視が待機するだけだが。」 「ならやむを得ないか……ルリ、バッドエンドはこの後どうなる?」 「………ゲームだと国外追放。なに、僕の話を信じてるフリ?不快なんだけど」 ルリは警戒心を顕に吐き捨てた。リチャードも居るというのに取り繕う気もないらしい。 絶望的な状況に誰も信じられなくなるの、俺にはわかる。ここ一年の俺もそうだったから。だから耐えられなくて、逃げてたんだ。リオネルに出会わなければ今もきっと山の奥で怯えながら暮らしてた。 こんなに絶望的なのに命を失うのは怖いのかって、俺の薬は誰かを苦しめているのかって。 「俺、ゲームはした事ないからこの世界は分からないけど…日本人だった記憶はあるんだ」 「………は?」 嫌いな奴だけど、無条件にその絶望を味わって欲しいとは思ってない。 俺は驚愕しているルリの顔を、真っ直ぐに見ていた。

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