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第27話 BLゲームの中で
「俺、この世界の事は何も分からないけど…差別、してたんだと思う。前世とあまりにも違う価値観で皆生きてるから」
「……」
「だけど、断罪されて、一人になって…リオネルと会ったから変わったんだ。俺はあまりにも前世に引っ張られてたんだなって、この世界を受け入れられた」
「……自慢しに来たわけ?」
「ルリも前世の感覚に引っ張られたから、多くの人に愛されないと気が済まないのかなって」
ガタッと椅子が大きな音を立てて倒れた。
俺を睨みつけるルリは憎々しげに歪んでいて、儚い顔よりは人間らしいなと勝手に思う。
看守が何事かと訪ねてきたがドアの近くで話を聞いていたリチャードが追い払ってくれた。
「なにも、知らないくせに!!このゲームも、この世界も!…僕のことも何も知らないくせに知ったかぶるな!!」
「俺は冤罪でっちあげで断罪されて一生残るでかい傷も残されたし。知ったかぶってもルリは反論する権利ないよ。俺を使い捨てていいモブだと思ったからやったんじゃん」
「ッ……」
先に人を好き放題したのはルリだ。なら俺だって好き放題勝手に語る。それくらいの仕返しは許されていいだろ。
「お前、結構強かな奴だったんだな…」
「なんだよリチャード。お前らがスケベな薬欲しいって言うから有り得ない額吹っ掛けて荒稼ぎしてたの忘れた?」
俺は実家も裕福だけど、金はあればあるほどいいからな。学生のうちに一生遊んで暮らせる額を稼いで自分専用の研究所を作って引きこもる予定だったんだ。
適正価格だと思ってた…とショックを受けるリチャードに金持ちのボンボンって奴はよ…と目を向けているとルリが小さな声で何かを呟いた。
「何か言った?聞き取れなかった」
「お前も、リチャードも、皆も…みんなみんな、恵まれすぎなんだよ。このゲームの残酷さを知らないから簡単にあれこれ言えるんだ。」
ボロボロと涙を流すルリは、倒してしまった椅子に座る事なくその場にへたり込んでしまった。冷たくて、固い石の床にルリの涙が弾けて広がり続ける。
「僕がこの世界で生まれたと知った瞬間の絶望感。没落貴族の両親に、お前がこの家を救えと徹底的に教育されて、入学して、攻略キャラ達を選んで、成り上がって、……必ず誰かの命を踏み躙らないといけない鬼みたいなシステムで!!」
俺が断罪されて死ぬ事が、他の誰かの命を救う事に繋がるというのは二度目の断罪で聞かされたけど…
物語の強制力が必ずどこかのルートにルリを組み込むように世界は出来ている。作った薬が効果に応じて強制的に色を変えるように。
「キミ達はいいよね、本当に苦しかったら死を選ぶことも出来るんだから。僕はバッドエンドに入った今さえ絶対に死なないし、『誰の心も掴めなかった貴方は、生涯孤独に苦しみ生きた』のたったひと言のシナリオに沿わされて生きるしかないのに!」
「……でも俺は、こんな醜い傷を抱えていても死にたくなかった」
ルリは、色んなルートを覚えるくらいこのゲームが好きだったんだな。
好きで好きで、誰も犠牲になんて出来ないけどバッドエンドも怖くて。
可哀想だなって同情はするけど、それじゃ代わりに死にますなんてごめんだし、どうしてもリオネルの今後も気になる。…俺も自分勝手だな。
「…バッドエンドに入った後の攻略キャラ達は無事なのか?」
「……知らないよ。真っ暗な画面にさっきの一言だけで、他には何も無い。結局、このルートが一番みんな幸せなんだ」
諦めたように、心が死んだように、下がったルリの頭は上がらない。これからの生涯、孤独に苦しむ事が決められた人生を歩むしかない。
攻略キャラじゃない俺にはルート変更も出来ないし、国外追放は避けられない。何も出来ない。
俺はこの一年、孤独に生きようと自らその道を歩いていたけど、強制されるのは違う。特にルリは、とても寂しがり屋な気がする。
だって俺に似てるなと思うから。
本当は寂しがりで、弱くて、それを周りに知られる事さえ怖いんだ。
「……誰かと結ばれる事と断罪がセットなら、誰とも結ばれずにダラダラとシナリオを引き延ばすことは出来ないのか?」
コツ、と狭い空間に音が響く。
ドアの前で静かに話を聞いていたリチャードが、下を向いたままのルリに向かってゆっくりと歩み寄り、しゃがみこんだ。
「ルリ。寂しいからって誰にでも股を開くのはどうかと思ってた」
「……だって18禁ゲームだし、色んな男とエッチした末に誰か一人を選ぶシナリオだし」
「かなり愉しんでいたよな。ハーレム崩壊しても一緒に居る俺を愛人にして尚も複数キープしようと」
「だって、それは…」
「なんだ、前に言ってたな…ビッチ?」
「ッ……」
うわぁ…と思ったが、ここは蚊帳の外だと俺は無言に徹する。
顔を上げたルリはリチャードの笑顔に目を見開いて釘付けにされた。
「──俺は惚れないから、俺をずっと追いかけてこいよビッチ。」
攻略キャラは、やはり恐ろしいなと俺はリオネルの執着具合が不安になった。
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