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第34話 安全地帯で

「前にレシピを渡していただろう。それを城の薬師に渡して作らせたものを服用しているが……俺もノアが作った薬が飲みたい」 「同じレシピなら誰が作っても…」 「同じじゃない。全く違う。侯爵家にレシピ渡して俺にはノアの薬を」 「あーもう!」 そんなに気軽にレシピを手渡してたまるか!俺が何日もかけて作り上げた薬のレシピだっての!! というか今の状況はなんだ。薬草をすり潰す作業なら大丈夫だろって椅子に座るリオネルの上に座って作業している。 教室では完璧に無関心を演じていたのにこれだ。しかも俺、リオネルに何も教えていないんだけど。 「言いたい事は山ほどある。さっきの男達はなんだ、俺を嫉妬で殺す気か」 「人は嫉妬じゃ死なねーよ。王子のくせに後付けやがって…」 「薬だって効果ないじゃないか。俺がどれほどノアに触れるのを我慢しているか…」 「いま触ってるじゃん。っリオネル、匂い嗅ぐなって!もー!」 この執着男、ちっとも変わってない気がするんだけど!?俺は主人公になったからって誰ともイベント起こす気ないってのに ていうか薬が効果ないって言われるのは心外なんだけど。俺が作った薬と同じ効果の筈だけど? 「ちょっと、気になるから城の薬師が調合したやつ見せて」 「持って来ていないから明日渡す。だからこの部屋の合鍵を渡してくれ」 「ここは避難所じゃないっての」 まぁ、渡すけどさ。リオネルなら余計な事はしないし… ゲーム的には薬は完成品を買うもので、作る過程までは考えられていないから…あと、ゲーム内でこの部屋が出てきた事はないというルリの意見もあり イベントが発生しない場所、つまり安全地帯と見ている。実際、この部屋で作業している分には思考が邪魔された事はない。 ……リオネルの部屋は物語の強制力が働いたから、主人公がそこでイベント起こした事があるってことだよな 「ノア、何で機嫌を損ねたんだ?」 「俺の後頭部しか見えないのに感情の揺らぎを悟らないでくれないかな」 知りもしないゲームのプレイヤーに嫉妬したなんて知られてたまるか。 ゴリゴリと乳鉢を掻き回し、少しずつ粉に変わる過程を眺めながら考える。何も伝えていないのに俺の意図を汲み取る真後ろの男が若干怖くなってきた。 「そもそも、リオネルはゲームの強制力が中途半端に効いてないんだよな。最初からルリに惚れるの嫌がってたし、俺を追い掛けちゃったし」 「どちらかというと、ノアが特異点だったように思うが」 「俺?今が主人公の状態じゃなくて?」 「その前からだ」 乳鉢を取り上げられ、向かい合わせに座り直された。作業を中断させられたのは嫌だが、俺だってリオネルに会いたかったし触れたかった。 でも互いを破滅させる運命にはしたくない。 「ノアに一目惚れしてから俺の全てが変わったんだ。思考には多少の靄があったが…あれが強制力なのだろう。でもノアを追ううちに全て消えた」 もう手癖のように俺の左目を撫でるリオネルは、物語には無い行動で。俺が主人公になったから盲目になったとは思っていない。 だってそれよりも先に惚れていて、散々執着されてたんだ。 「考えてみれば、俺が転生者である必要ないんだよな…俺はこの世界を知らないから転生者らしい動きも一切してこなかったし…なんで俺なんだろ」 親指が唇を撫でたので、今は話し中だと噛み付いてやった。 まぁ意味を考えても仕方ない。俺は俺の人生を安全に歩みたい。 言わば今の状況は、俺を甘やかすリオネルにゲームを利用したお仕置きと…自分自身への喝。 「なぁ、リオネル」 伯爵家だと格は釣り合わないかもしれないな…でもそこは、諦めずに俺が努力するところだ。俺は新たな人間関係を築くのが苦手だけど、一度懐に入れたら絶対手離したくないんだ。 俺の傷痕を醜いと思わない優しい手の上から自分の手を重ねて、固定した。 俺はこの手の感触を楽しみたい。リオネルばかりに好き勝手させるかと頬擦りして戸惑うリオネルにニヤッと笑って見せた。 「俺はさ、一生悠々自適に薬の研究をして生きたいんだ。この国で手に入らない薬草だって欲しいし、最新の道具があればすぐに試したい。 誰にも邪魔されず、人々を助ける薬を生み出し続ける生涯という夢を、堕落した王子に叶えられるか?」 「……だから我慢して、努力しているだろ」 深く刻まれた眉間の皺を左手でぐりぐりと押してやる。 残念ながら城の中に居るリオネルの行動は俺には見えない。俺には俺の右目が映す世界以外に見れないから 「俺は俺でゲームを破壊して、俺なりのハッピーエンドにする。だから今は、距離を置く時だ。好感度イベントってのを誰とも起こさないトゥルーエンド?ってやつ、それをする為にはリオネルも外ではノータッチで。」 「世界を相手に強気だな」 「俺は既にリオネルやリチャードの強制力を妨害出来てる優秀な薬師だからな。めちゃくちゃにしてやるんだ」 色々考えて、俺はこう結論付けた。 俺に傷を負わせた物語に、報復する。

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