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第35話 既に懐かしい日々

俺の世界はとても狭いし、あまり広げようと思った事もない。 広げなくても俺の世界は楽しいし、充実していたから。 「ノアールくん、僕と薬草園でデートをしないかい?」 「…薬草園」 ルリからゲームの物語は一通り聞き出して、ノートにまとめた俺は毎日スパスパとイベントフラグを切り捨てていたが ここにきて強敵が現れた。 「あぁ、やっぱりノアールくんは可愛らしいね。やっと僕を見てくれた」 「あ…えっと、」 しまった。気になる単語につい立ち止まってしまった。薬草園だと?学校か?それとも街にあるのか? 気になる。すごく気になる。希少な薬草とか育てていたりするんだろうか。 「───ブルムリッジ。担任教師が呼んでいた。急いで向かった方がいい」 「あっ、ごめん!俺行かないと!じゃ!」 慌てて背を向けて廊下を走った。研究室に向けて。 やばい。これはかなりやばいと俺の心は焦りを隠せなくなっている。 そっちは見なかったけど、今の声は絶対に… 「さっきの状況を説明しろ。ノア」 「なんで先回り出来てんの……」 予想通りの怖い顔をしているリオネルが研究室の中で待ち構えていた。 この執着男、王子としてきちんと振る舞うと言っているのに気が付けばストーカーレベルで俺を監視している。 「薬草園なんて、イベントで存在しなかったから…」 「気になったとしても行くのは俺とだろう」 何故だ。俺の方が先に走り出したのにリオネルの方が先に到着してるし、ゼェゼェと息切れしてるのも俺だけだ。 うっかりイベント成立しそうになったところを助けられたけど、リオネルの愛が重い。 「……ほんとにちゃんとしてるのかな、この執着男…」 「まだ結果が出せる状況じゃないからノアに証明出来ないのが残念だ。」 ヒョイ、と当たり前のように男の俺を抱き上げるな。そう言いたいけど普段から運動不足の俺は息が切れてぐったりしている。抵抗する元気もない。 「…剣術の科目は履修登録していないよな」 「してないけど、なんで?」 「こんな顔、誰にも見せられん」 「んッ」 問答無用で重なる唇は角度をつけてすぐに深まった。息が苦しい。呼吸を求めて大きく口を開くと更に深められる悪循環に顔を背けようとすると、いつの間にしゃがんでいたのか床に寝かされて顎を掴まれた。 「く、るし…」 「鼻で呼吸しろ」 頭がふわふわする。意識が揺らぐ。酸素が欲しいと必死になればなるほど、追い掛けてくる唇にリオネルの執拗さを実感する。 「りお、まって」 「……俺はずっと、我慢をしている事を忘れるな」 眼帯をずらされ、べろりと傷痕を舐められた。リオネルの我慢には様々な意味が含まれているんだと行動で教え込まれる。 …一番最初の肉体関係以降、俺はリオネルにキス以上を許していないことも。 「これは薬を追加で飲まないといけないな。衝動が抑えきれん」 「………やめて、触るのはまだ…」 一度は薬の効果とはいえ自分から仕掛けたくせに、俺はその夜の出来事を覚えてないし男同士の行為が未知数すぎて怖いんだ。あと、とてつもなく恥ずかしい。 僅かに震える俺を抱き上げて、触れるだけのキスをしてきたリオネルにしがみついた。 「はぁ…ノアはもう少し自分の愛らしさを自覚すべきだ」 「そんな事言うの、リオネルだけ…」 「もうさっきの事を忘れたのか?」 アイツらは物語の強制力に踊らされてるだけで違うじゃん… そう反論したかったけどリオネルの顔がまだ怖いままだから口を閉じた。 「…わかったって……リオネルのせいで腰抜けた。あそこの棚に置いてある小瓶、取って。二本。」 「もう少しここで休憩してからだ。…それと、城の薬師からこれを」 「手紙?」 そういうのは早めに出して欲しいけど、学校内では他人のフリしてるし仕方ないかと手紙を開封する俺を抱えたまま椅子に腰掛けたリオネルと一緒に読み始める。 「……薬の依頼?薬師から?」 「灰色の薬はノアが作ってくれるからとレシピを回収しに行ったらノアの薬を見せろとやけに食い付かれた」 「まぁ、他の薬師を選ぶって言われたらそうなると思うけど…依頼のこれ、成分的には解熱剤なんだよな」 「…毎年、冬に蔓延する流行病に備えたいか」 薬師に資格は無いが、俺は子供だった事もあって学校でエロい薬を売り始めるまでは完全に個人の範囲内で製薬していた。 今思えば、子供が作った薬を疑いもなく飲んでいた父様達すげえなとはなるけど…まぁ、毒なら薬が勝手に真っ黒に染まる世界観だから心配なかったのか 「とりあえずサンプル作って送って欲しいってあるから、材料あるし調合するか。」 「すぐに作れるのか?」 「すぐって言っても二時間くらい…リオネルは先に戻って」 「嫌だ。」 そう言うとは思ったけど、本当にちゃんと王子として動いてんのかと疑いの目を向けると「恋人とようやく共に居られる二時間を許して欲しい」と弱々しくお願いされて 製薬中に邪魔はしない事は実証されてるし…しょうがないなと恋人未満の時のように過ごす事を受け入れた。

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