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第38話 囚われた黒猫
手を伸ばした先に、自分の手すら見えない真っ暗な世界。
(……明晰夢)
夢の中で、夢と認識する。
真っ黒な薬は、世界に毒と認識された薬。でもアレは少量なら黄色い、月の色の薬…
「囚われの黒猫は、月の悪夢に沈む…」
黒猫が俺だとするなら、そもそもルリは主人公じゃなかった?
でもルリが愛したゲームではノアールというサポートキャラは確かに存在していた。俺も物語の強制力は度々体感している。
「───世に出たゲームが全てじゃないんだよ、ノアール」
「……夢でまで、お前を見たくないんだけど」
「冷たいなぁ。僕が居なければ君は存在しないのに」
前髪で目を完全に隠した男が姿を現して、背景が森の中へと姿を変える。
夜の森に、明るい月。
「君を主役にしたゲームがあったんだ。一人の男に愛されて、愛されて愛されて、悪夢のように致死量の愛に溺れて沈む。そんな世界があったんだ。…開発途中で消えてしまったけどね」
「……俺は、そのゲームも、ルリが主人公のゲームも知らない」
「そうだね。僕が一方的に知っていただけだから」
森の中は不安になる。怖い事ばかり起きていたから。
でも目の前の男にすがろうとは思えない。
「君はとても…前世も本当に可愛らしい男だった。毎日毎日、ずっと見ていたんだ。でも触れる事は出来なくて僕の恋心は膨らむばかり…だからせめて、ゲームの主人公にして僕の愛を受け止めてもらいたかった」
「……なんかよく、わからないんだけど」
うっとりと語る男に気持ち悪さしか感じないが……俺の前世を知っている?
俺は前世の世界こそ知ってるけど、自分の事は何も覚えてない。まぁおじいちゃんになって大往生からの転生かなと思っていたくらいだ。
「あぁ…攻略対象である僕以外を見ないように、そんなシステムにしたんだったね。僕は原作者だし、なんせ作ってる最中に未完成で止められたから不安定なんだ。……僕だけを認識する筈だったんだけどなぁ」
「原作者…」
「そう、僕がノアールくんの物語を作ったんだよ!可愛い黒猫のようなキミをずっと…ずっっっと、僕の悪夢の中で閉じ込めて、愛して、僕に縋るだけのお人形にしたかったんだ!」
「待って、前世の俺と知り合いだったって事…?」
「残念だけど、キミは僕のことを知らないよ。僕はキミのことをぜーんぶ知ってたけどね」
───俺は粘着質な男に好かれる特性でもあるのか。
つまりコイツ…前世でストーカーしてたってこと?俺の知らないところで?
本気でドン引きしてるのに目の前の男は何も気にならないらしく、やっと願いが叶っただとか、これで永遠に二人きりだとかブツブツ呟いていて怖い。狂気しかない。
「どうやって、ゲームの世界になんて入れられたんだよ…」
「えぇ?知らないよ。折角頑張ったのにゲームは開発を中止されたし、僕はキミと共に生きる方法を失ったんだ。
だから慰めて欲しくて訪ねたのにキミは拒否するし…そうなったらもう、せめて死後の世界で一緒になるしかないなって思ったら!この世界に来ていたんだ!」
「……」
俺、コイツと無理心中したってこと…?無理心中した上に同じ世界に転生してきたって?
「………頭、痛い…」
夢の中なのに、ガンガンと頭が痛む。
壊滅的に人の顔が覚えられないの、俺に備わったシステムだった?俺が主人公のゲームは開発中止になって、ルリが主人公のゲームのサポートキャラとして…要はキャラクターを使い回された?
ややこしい。それに俺、本当に巻き込まれただけじゃん。前世でストーカーに殺されてたってなんだよ。
「これが、お前が作ってた話の結末なのか」
「そうだよ。二人きりの世界、月は僕。ずっと、月のようにキミを照らして見ていたからね」
「………カメラとか、望遠鏡ってことか…」
「やっぱりノアールくんは賢いね…だからこそ、僕はキミを好きになったんだ。なんで僕を認識出来ないかなぁ…バグかなぁ」
一歩ずつ近付こうとする男に、来るなと威嚇しているだけでは状況は変えられない。
例えこれが決められたエンディングだろうと、為す術がなかろうと、コイツと結ばれるなんて絶対に嫌だ。
話している事が真実なら、俺は二度も殺されているという事じゃないか。
(リオネル…)
悔しい。こんな奴に、二度も人生を奪われるなんて。大切な人が居る世界を手放すなんて。
…なんで睡眠薬なんて作ったんだろう。リオネルに、恋を夢として終わらせようと薬を作った報いかもしれない。
「………たすけて、リオネル」
「…………他の男の名前を呼ぶんだ?この状況で」
お前の名前、俺は知らないし、たぶんシステムのせいか一度言われても覚えられないし。
……でもリオネルは、システムだろうといつも壊してきたから。
「───助けて!!リオネル!!」
俺は精一杯、心の底から助けを求めた。
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