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第39話 讙ウ讎泌ュ仙ウー闃ア

「助けて…助けて!」 「黙れよッ!お前は、永遠に僕と二人きりで僕に愛される運命だろうが!」 「いやだ!!」 ここが男の世界だろうと、男が神様だろうと、愛されたくなんてない。微塵も思わない。 無駄だろうが俺は逃げるし、俺は抵抗するし、 「リオネル、助けて!!」 リオネル以外に助けは求めない。俺はよく分からない世界で精一杯強がって生きてたんだ。 森の中を走り回る。男の夢の中だとしても、森の中は怖い。こんな所に居たくない。でも、捕まるなんて絶対に嫌だ。 ───チリン。 「ッ……いや、だ!熊も怖い、でも、嫌だ!」 鈴の音に足が竦みそうになる。でも逃げるのを止めない。 チリン、チリンとあちこちで鈴の音を響かせてきても、俺は遠くに逃げようとがむしゃらに走り回った。 「………なんで。前世の記憶はないのに、また逃げようとするの」 目の前に男が現れたら、踵を返して真反対に走る。 「無駄なのに。僕が思い通りに出来る世界だよ?なんでそんなに逃げるの? 」 踵を返す。そしてすぐに走り出す。 「リオネルって、王子様の名前だっけ…新しいゲームで作られた奴かな。なんでそいつの名前は覚えてるのかなぁ」 何度でも方向転換して逃げ走っていると、目の前に大きな熊が現れて俺の足はついに恐怖で完全に立ち止まった。 「ねぇ、なんで?僕は薬を沢山買ってたし、復学してからも毎日毎日話し掛けたのに名前どころか姿も覚えてくれない。あの平民も、侯爵子息も、なんで覚えてるのかなぁ」 「………なんでって」 震える唇から必死に声を出す。 怖くても、絶対にコイツとは結ばれない。このまま名前も知らず、姿も覚えないまま消えてしまえばいい。 「リオネルが、俺の世界を壊したから。リオネルだけが、俺を壊してくれるから」 たとえ、コイツの作り上げた世界だからって。愛する人は自分で選ぶし、俺のエンディングは俺が決める。 嫌いな男に愛される道を選ぶくらいなら、例え死ぬのが三度目だろうと投げ出してやる。 俺は、リオネルとの愛しか選べない。 (勇気を、出せ) 一歩、熊に向かって足を踏み出す。震えてもいい、怖くてもいい、ただ、前進出来ればそれでいい。 唸り声が響き、威圧感がビリビリと肌を刺す。それでもまた一歩、踏み出した。 「……死を選んででも、僕を拒絶するんだ」 「俺はお前を選ばない。前世でだって選ばれなかったんだろ、選ぶはずがないよ。こんな自分勝手な奴」 ──どうして、俺がこの世界に来たのか分からなかった。 わけのわからない世界でも、求められるのが嬉しくて、でも作った薬が誰かを苦しめると知った時、怖かった。悪い人になったとショックだった。 誰とも知り合いにならないし、人を覚えることすら出来ない自分が…本当は、寂しかった。どうしてこんなに人より劣った能力を持っているのかと悩むこともあった。 熊の息遣いが分かる距離になり、殺意も感じるようになる。 「───やっぱり、キミは変わらないんだね。」 フ、と真っ暗な景色に戻って熊も消える。 ─────チリン。 「…………え」 「ふふ…やっぱりキミは、傷が無い方が完璧で綺麗だね」 景色が色付く。狭い部屋に、壁一面ビッシリと貼られた写真が視界に飛び込む。 ほとんど視力を失った左目が急に鮮明に状況をとらえた。 ──黒い髪、少し吊り目の大きな目、小柄な身体。 ひとつたりともカメラを向いていない、全て同じ人物の写真が、隙間なく貼られた異様さに足が後ろへと下がる。 ────チリン。 鳥肌が立つほど怖い、鈴の音が間近から聴こえる。首に違和感が出て触れると、爪がカツンと何かにぶつかった。 「おかえり、ノアール………ううん、違うね。僕の──讙ウ讎泌ュ仙ウー闃ア──くん?」 頭を鈍器で殴られたような、大きな衝撃と共に俺は前世を思い出した。

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