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第40話 前世の記憶
───普通の人生だと、思っていた。
「檳榔子…峰花?どう読むんだこれ」
「びんろうじ、が名字で…名前は、ほうか。どっちも珍しいよな」
「あまりというか、全然聞いた事ない名前してるんだな…あ、ごめん。悪く言ったつもりなくて」
「はは、気にしなくて大丈夫だって。俺も珍しいって思ってるし」
「いや自分の名前だろ!」
高校生活が始まって、友達も出来て、それなりに楽しんで。特に目標はないけど親に行けって言われたからって動機で大学受験目指して…
よくある、高校生の一例みたいな。
そんな当たり前の日々を過ごす事に何も文句は無かったし、嫌だと思った事もない。
朝起きるのダルいなと思ったり、夜更かししてゲームして楽しいなって思ったり、友達と遊んだり、ただ一緒に居たり。
そのうち恋人なんて出来たらいいのになぁとか思ってみたりして、普通に過ごしてた。
「誰…ですか…?」
「怖がらないで。僕はキミに惚れてて、ゲーム作ったのに中止されて…」
「ゲーム?なに…?とにかく急いでるんで!」
急に話し掛けてきた男は前髪が分厚くて目が見えなくて、雰囲気もなんともいえない異様さがあって…俺は足早にその場を去った。
他人にこんなことを思ってはいけないけど、不気味な男だった。
まぁ、よく分からないけど俺は男だし、大丈夫だよなって軽く考えて自分の家に帰ったんだ。
それから、数日も経たなかった。
────チリン。
「あは、やっぱり黒猫みたいなキミには首輪が似合うねェ」
「は?…なに、ここ…俺の写真?」
見渡す限り、俺の写真…それも隠し撮りで埋め尽くされた部屋。
「なにこれ、ストーカー!?俺、男だけど!?」
「変なことを言うなぁ。キミの事は全て知ってるよ?檳榔子 峰花くん」
「なに…首輪とか、気持ち悪い!離せよ!」
友達といつものように勉強して、いつもより遅い時間になったけど家に帰ったはずなのに。知らない部屋に居るし首輪ついてるし、手足もガムテープをぐるぐる巻きにして拘束されてる。
ニヤニヤと口元を歪ませてる男に鳥肌を立てながらもどうにか外せないかと手を動かしていると、「無駄だよ」とさも楽しそうに男が言って迫って来た。
「来るな!…なんなんだ、誰だよお前!」
「峰花くんが悪いんだよ?いつもいつも楽しそうにデートしてさ……浮気する子は悪い子だよね」
「は?!浮気もなにも、俺は誰とも付き合ってなんか…ッッ!!」
チリン、と首輪についた鈴が鳴る。蹴り飛ばされて咳き込んでいるところを馬乗りにされて、首を絞められた。首輪が皮膚に食い込んで痛い。呼吸が出来なくなって、急速に苦しくなっていく。
「なんで僕だけのものにならないかな…こんなに愛してるのに、僕の願望は中止にされるし誰も僕を理解してくれない。優しいキミなら僕を愛してくれると思ったのに」
「ッ…ぁ………」
涙が出る。どうして、どうしてこんな目にあわなきゃいけないんだ。
意識が薄れる。こんな奴に、終わらされるのか、こんな奴に、俺は……
「────たす、けて」
「ここはゲームの世界じゃないだろう?よく見て、キミは一回しか来た事ないけど…僕の部屋、僕達の本当の愛の巣。」
「…ここで俺は、殺された。もう居ない」
手足は拘束されてないけど、ここはストーカー男が自由にしている世界で。
「そうだね…僕も悲しかったよ。キミを愛してたのに、少しも受け入れてもらえなくて後を追ったら…この世界だ。ふふ、やっぱり僕達は運命だったんだ」
「お前がなんと言おうと、俺はお前を愛せない。…人の心は、そんなに簡単じゃない」
リオネルは、俺が愛さなかったとしても俺の分まで愛すと言った。
例え、ゲームという作られた世界でも…確かに生きて、俺を愛した男は存在している。
「いい加減に諦めなよ。今のキミはノアールの姿でもないし、僕の悪夢に囚われてる。最高のハッピーエンドをもう迎えているんだよ?」
「……それでも。」
俺、信じてるよ。リオネルは熊に襲われても、俺が独りで怯えている時も、世界に打ちのめされそうになっても、絶対に諦めないでくれたから。
僅かにでも動けばチリ、と鳴る首輪の鈴を、握り締めた。
怖くても、屈しない。俺が愛する人は決めているんだ。
「未完成で終わったゲームで、完成されたゲームの一部として実装されたのが俺なら」
「……何を考えているのかな」
「お前という存在が実装されなかったのが、作った人達の答えだよ」
例え両目が見えなくてもいい、傷痕があってもいい。理解出来ない世界でもいい。
どんな俺でも、生きて、愛してくれる人がいるから。
肺いっぱいに酸素を溜めて、声を張り上げた。
「───助けて!!リオネル!!」
叫びは炎になり、写真だらけの部屋が燃える。
お前だけの夢じゃないんだ。
「は!?僕の宝物が!なんで…!」
慌てる男の姿なんて、確認しなくていい。
「───ちゃんと、助けを求められたな」
だって優しい大きな手が、全部隠してくれるから。
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