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「イチくん、こっちだよ」  木目模様の廊下を進んでリビングに近いドアのひとつを開けた金色くんは、ぼくにおいでおいでと手招きしてくれる。 「えと、おじゃまします」  ぼそっと告げて中に入ると、そこはクリーム色をベースにした六畳くらいの洋間だった。窓辺のすぐ隣には教科書やらが整頓された勉強机があって、隣にはシングルベッドがひとつ。  あと、ぼくが来るからと用意してくれたのかな?  空いている真ん中のスペースには折り畳み式の小さな机があって、ふわもこなクッションが向かい合わせにふたつ、ちょこんと置いてある。  とってもシンプルな部屋だけど、どこか優しい雰囲気がする。  やっぱり金色くんの部屋なんだなって、そう思う。 「なにか飲む? っていってもお茶とかコーヒーくらいしかないんだけれど」 「あ、ぼく。お水でいい……です」  バックン、バックン。  早鐘を打つ心臓の音と一緒に口からすべりだした言葉は、なんともぎこちない敬語だ。

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