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第十七章:其の一:春待ちて、影ゆらぐ

 かき氷の器を売り出す店が増えてくる。それを買い求める客たちはまだ防寒具を身に着けたまま、夏の暑さを心待ちにし、笑顔で雪輪紋の氷コップを手に取っていた。  荻窪は、深呼吸で一度、心を整えてから、香世の店の入り口の取っ手に手をかけた。  からからと軽い音がして、ゆっくりと扉が開かれていく。  賑やかな店内からは香世の「いらっしゃあい」というのんびりとしたお出迎えの声がし、荻窪はそっと暖簾から顔を出した。  数カ月という時間はけして短くはない。香世がこまめに弁当を届けてくれていたけれど、店に顔を出すのはやはり、気恥ずかしいものだ。 「先生?!」  香世の驚いた声に、カウンター席に座っていた背広の男がびくりと驚いた。固まったように、入り口を見ようともしない。 「やあ、ご無沙汰していたね。」  荻窪は気まずい気持ちを照れくささで誤魔化して、店内に一歩入ったところで、カウンター席に座っていた男が入り口を向いた。 「……高梨くん?」  切れ長の瞳がこれ以上ないというほどに見開かれ、その名を呼ぶ声がかすれてしまう。  香世は荻窪と高梨を交互に見ては、どうしたもんかと考えて──手早く弁当を作り出した、二人分。  言葉を出せない高梨が荻窪をまじまじと見つめる。  以前見せていた快活さは鳴りを潜め、疲れきったよれよれの姿に驚きを隠せない。 「どうしたんだ、高梨くん。」  大股で高梨の傍に歩み寄る荻窪の、その声は以前と変わることなく低く優しいものだった。 「先生……、」  高梨の声が詰まった。うつむいて言葉を探すが見つからないのか、迷ったように視線が彷徨う。  高梨が腕で顔を隠そうとした瞬間、二人の間に香世が、どん、と大きな音を立てて弁当箱を置いた。  かつてないほど最速の弁当詰めという早業に、荻窪が驚きで目を見開いてしまう。 「さっさとそれ持ってさ、家に連れていきな。それでさ、お腹満たしてからしっかり話し合えばいいだろ。」  荻窪の声を聞きつけたみけが家の奥からちらりと顔を出したが、空気を読んだのか、そっとまた部屋の中に戻っていった。 「あ、ああ……、」  戸惑いながらも荻窪は、片手に弁当箱を抱えると、もう片方の手で高梨の肩に手を置いて声をかける。 「高梨くん、行こう。私はね、ちゃんときみに話したいことがあるんだ。」  静かに、そう告げた。  高梨はその声に、は、として顔を上げる。見上げた荻窪の顔はどこか切なそうで、どこか安堵しているようにも見えた。 「は、い……。」  高梨は荻窪に逆らえるはずもなく、小さな音を立てて椅子から立ち上がる。 「あ、香世さん、お代……、」 「次でいいよ、めんどくさいねあんたたちは!」

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