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第ニ十章:其の四:外伝二章 香世の場合

「やあ、みけ。元気だったかい? 先生がきみを香世さんに預けると聞いたときは驚いたけど、毛並みがきれいになったね。」  と笑顔を浮かべる。  香世のもとにこのみけが連れてこられたのは、この青年がこの猫を保護したが、家にはもうちびがいるからだと聞いていた。彼もまた、猫が苦手だったと聞いている。荻窪のように、猫と触れ合うことで平気になったのだろうか。  今見せる姿は苦手にはとても見えない。朝夕しっかりとちびやみけと接していなかったら、みけだとてここまで懐きはしなかっただろうに。香世は青年が見せるみけとの姿と、それをほくそ笑むかのような顔をしている荻窪を、交互に見やった。  どうせまた、荻窪がなにかしたに違いない、と思いつつもこの青年がみけを抱き上げようとする姿は、少しばかり危なっかしくて、猫が苦手──だった、というのはうそではないのだろう。  青年はひとしきりみけとご対面したあとに、荻窪の隣へと腰を下ろした。  そして、香世にはいつものように「こんにちは、香世さん」と軽く会釈する。開店前の店内に騒音ごと入ってきた青年は、いまでは隣に座る男と同じくらいの静けさを持っていた。 「はいはい、こんにちは。あんたもさ、……まあかまいやしないけど、もう少し静かに入店してくれたって、いいんだよ?」  そう言いながら香世は冷えた水を青年へと差し出した。全力疾走してきたに違いないであろう額には汗がびっしょりで、頬も少し紅潮している。  ごくり、水をひと口ふた口飲んでから、青年はようやく探していたはずの荻窪へと視線を向けた。 「先生、逃げるのはやめてくださいよ。探すの大変なんですから。」  愚痴のように小さくこぼす。ここは店内で、店主が香世であることを考慮しての小声なのかは分からない。 「はは、それはすまなかったね、高梨くんがあまりにもきれいだったものだからつい、──」  高梨と呼ばれた青年は慌てて次の言葉が継げないように、荻窪の口元をふさいだ。これ以上は言わせてたまるかとても言うかのように。  香世はそんな二人を冷めた目で一瞥し。 「どうでもいいけどさ、店のグラスは割らないでおくれよ。」  とだけ言い残して、みけを抱き上げて自宅へと足をむけ、その場を後にした。  きつい態度を見せる割には、香世は二人を邪魔しない。だって香世は学生時代からの荻窪を知っているから。 「ね、みけや。あんなに幸せそうに笑えるようになってさ。ほんと、良かったよ。」  みけの背中をなでながら、背中で聞く二人の声に小さな笑みを浮かべた。  ──外伝二章 香世の場合。

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