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現在:俺とパーカーと純潔と
(これ、羊真 好きそうだな)
カジュアルファッションを取り扱う店にて。
士狼 は一着の服を手に取った。
スウェット素材のパーカーだ。
無地のグレーで、いつでもどこでも気がねなく着られるだろう。
羊真はファッションに興味がない。
しかし、こだわりがある。
暖色や高彩度の服は着ない。
綿やデニムなど、ゴワゴワする素材も着ない。
ワイシャツなどの、首がしまる服も着ない。
無難で楽。それが羊真のこだわりだ。
士狼はパーカーの裏地を見る。
起毛素材だ。きっと羊真も気に入ってくれるだろう。
士狼は買い物カゴにパーカーを入れた。
近年のレジの進歩には驚かされる。
まさか服屋まで無人化が進むとは。
買った服と士狼を交互に見て、『サイズはお間違えないですか』と訊かれることもない。
***
次に士狼が向かったのは本屋だ。
羊真のために買う本は、事前に決めていた。
面白いと話題になっているミステリーと、羊真が好きらしい作家の小説だ。
相変わらず、羊真は読書が好きだ。
早いと、たった二日で一冊読み終えてしまう。
そのため、士狼は日曜日には必ず本屋に寄って、彼のための新しい本を買うのだ。
電子書籍リーダーは与えたくない。
士狼が選んだ本以外が羊真の目にとまってしまうから。
通販では買いたくない。
羊真を配達員に会わせる訳にはいかないから。
少々面倒だが、書店で紙の本を買うのが最も安全だ。
目当ての本だけを手に取ると、士狼はレジに向かった。
***
電車を待つ途中、士狼はスマートフォンを手に取った。
あるアプリを起動すると、画面に自宅のリビングが映し出された。
各部屋に小型カメラを設置しているのだ。
羊真は今、リビングのソファに腰かけていた。小説を読んでいるらしい。
小柄な彼を俯瞰する。
一抹の恐怖すら感じず、穏やかに過ごす彼の姿に、士狼は口もとに笑みを浮かべた。
***
最後にコンビニに寄った。
羊真と約束したプリンを買いに来たのだ。
スイーツコーナーに大量に並べられているプリンを見て、羊真の喜ぶ姿を想像する。
これを買ったら早く帰らないと。と士狼は思った。
***
玄関の扉を開ける。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
恋人が子犬のように出迎えてくれた。
リビングのソファに羊真と並んで腰かけた士狼は、ビニール袋からプリンを二つ出した。
「ありがとう、買ってきてくれて」
「うん」
素っ気なく返し、士狼はプラスチックのスプーンを手渡した。
羊真がプリンのフタを外し、スプーンの包装を破る。
「いただきます」と呟いてから、一口すくって食べた。
「……うん、おいしい!」
羊真が目を爛々 と輝かせる。
スイーツひとつで喜ぶ彼が可愛らしい。
士狼もプリンを口にした。
ほろ苦い抹茶のプリンに、甘い生クリームがよく合う。
桜のソースには柔らかな塩味があり、いいアクセントになっている。
「最近のコンビニスイーツってすごいよね」
羊真がプリンに視線を落としながら続ける。
「ケーキ屋さんで買ってきたって言われても、きっとわからないよ」
「そうだね」と士狼は頷いた。
「……そうだ羊真。羊真のための本とか服とか買ってきたから、あとで見てほしい」
花びら型のチョコをポリポリと噛んでいた羊真が、目を丸くした。
「また服買ってきたの?」
「最後に買ったの、三か月も前だけど」
(またか)と士狼はほんの少し呆れる。
服を買ってくるたびに、毎回この話をするからだ。
「出かけないんだし、そんな頻繁に買わなくていいんだよ?」
「だとしても、ずっと同じ服を着続ける訳にはいかないだろ?」
士狼は羊真の服を見る。
今日着ている青のトレーナーは、三年も前のものだ。
大切に扱っているものの、色あせ、襟や袖のヨレが見られる。
羊真によれば、服は着られればいいらしい。
だが、明らかに寿命を迎えた服を着続ける彼の姿は、見ていてあまり気持ちよいものではない。
羊真は自分の理解者なのだ。
彼だけは、士狼の中身を見てくれる。
そのような彼に、みすぼらしい恰好をさせる訳にはいかない。
「あのな、羊真」
羊真に息がかかるほど顔を寄せ、美貌を武器に変える。
このやりかたは好みではないが……彼を納得させるためなら、なんだってやる。
「自分のいちばん好きな人には、ずっとカッコよくいてほしいんだ。……気に入らなかったら返品してくるからさ。とりあえず見てみてくれないか?」
子どもへ読み聞かせをするときのような、温和でゆっくりとした口調で訊ねる。
羊真は顔を真っ赤にして、「士狼のほうがカッコいいのに」と素っ頓狂なことを呟いたあと、黙々とプリンを食べはじめた。
***
財力にも、美貌にも、頭脳にも恵まれた。
しかしその代償に、士狼はナニカを失った。
優しくしてくれるのは、自分を利用しようとしているからではないか。
好いてくれるのは、ただ外見に惹かれただけなのではないか。または、実家の財力が目当てなのではないか。
……彼だけだ。心から信頼できるのは。
再び訪れた土曜日。
昼食と風呂を終えた士狼と羊真は、ベッドの上で見つめ合っていた。
遮光カーテンで真っ暗にした部屋に、徐々に目が慣れてきた。
頬を真っ赤に染めた羊真に、もの欲しそうな視線を向けられる。
結局、羊真はまた射精をねだらなかった。
受動的な彼のために、定期的に発散させてあげようかとなんども考えた。
しかし、彼が肉欲に負ける姿を見てみたくて、結局、我慢させてしまった。
貞操帯という名前のお守りを脱いだ羊真の姿は、とても綺麗だ。
はやる気持ちを抑えるような、甘ったるい息づかい。
まあるい瞳は、とろんと潤んでいる。
起立した純潔は、早く触ってとアピールしているかのよう。
士狼は彼をそっと組み敷いて、徹底的に甘やかす。
「……あっ」
もれた喘ぎにそそられる。
「士狼……っ」
自分を呼ぶ声が。
「しろぉ……」
次第にとろけてゆく。
「ふぁ、っ……! そこ、きもち……っ」
もっと気持ちよくしてやりたい。
「あぁ、っ、あ、んぁ、あ……っ!」
俺のことしか考えられなくなるくらい。
「ひぃ、も、むり、っ……! だめ、だめ、っ……!」
胸の小さな蕾を、指の腹で可愛がる。
同時に耳を甘く噛み、舌先でくすぐる。
今にもはち切れそうな、羊真のペニスの裏筋を、もう一方の指先でいじめる。
彼の喘ぎが泣き声に似てきた。
そろそろ楽にしてやるか。
士狼は羊真を解放した。
「はぁ、はぁ」と呼吸を荒くしながら、ぐったりとする羊真。
今なら自分を慰められるのに、手を伸ばす素振りすら見せない。
先走りがあふれ、羊真の陰茎が濡れた。
もったいない。
本能的にそう思った士狼は、蜜を優しくなめとった。
羊真が背中をそらして悶えた。
士狼は舌先にほろ苦さを感じながら、いたずらっ子のように微笑んだ。
舌を伸ばし、あわれな童貞を慰める。
丁寧に洗った彼の陰部からは、石けんの香りに混じり、かすかに雄のにおいがした。
「ダメ」や「射精 る」といった啼き声を無視する。
可愛らしいモノを根元まで咥えると、羊真がひときわ大きく啼いた。
軽く吸い付きながら、裏筋をそっと撫でる。
「でちゃう、でちゃうっ……!」
身を捩 じらせる羊真を押さえながら虐めていると。
「あ……あぁあッッ……‼︎」
口の中で暴発した。
ドクン、ドクン。と脈打ちながら、濃い精を容赦なく放出される。
「吐き出して……っ」と懇願される。
が、やはりもったいなく感じて、性の生々しいにおいと味のするものを、そのまま飲み下した。
口もとを手の甲で拭いながら、羊真を見下ろす。
満足そうに萎えた陰茎からは、少量の白濁がもれ出ている。
絶頂の残骸を、最後まで味わい尽くしたい。
再び彼の恥肉を咥えると、残りの精も吸い取る。
「あ、あぁ」と力なく喘ぐ羊真。
制止しようと伸ばされる手を払いのけ、最後の一滴まで飲み込んだ。
チューブに入った潤滑剤を手に取る。
適当な量を指に出した士狼は、寝転がって羊真を抱き寄せる。
余韻に浸っている彼の背後に腕をまわし、ふっくらとした尻に指先を這わせる。
「ダメっ」羊真が体をビクッと震わせた。
「少し休ませて」
やはり羊真はすこし不器用だ。
とろけた声でのお願いが、むしろ誘っているように聞こえる。
薬指と人差し指で、尻の頬をかきわける。
窄まりとその周辺を、中指で円を描くように撫でる。
すでに柔らかな筋肉を、さらに丁寧にほぐしてゆく。
恥ずかしそうに唸った羊真が観念し、士狼の背中に指先を立てた。
細い指を、ゆっくりと飲み込ませる。
迷いなく前立腺を見つけだし、指の腹で可愛がる。
よしよし。となでて、
「……っ」
とんとん。と軽く叩いて、
「はぁ……ん、っ」
ぎゅうぎゅう。と押しつぶす。
「あっ、やぁ、あ……っ!」
指先だけで善がる羊真に、支配欲をかき立てられる。
心身ともに昂る。
血が全身を駆け巡る。
ただ可愛がりたい。
甘えさせたい。
それだけなのに……歪んだ愛情を向けてしまう。
士狼は羊真の肩に噛みついた。
この悪癖は、初めて羊真と体を重ねた時に発覚した。
毎回のようにやってしまい、性行為が終わるころには、痛々しい痕をのこしてしまう。
「ひぃ……ひぐっ、いぃ……!」
羊真が苦悶に満ちた啼き声を上げた。
それでも羊真は自分を信頼して、身を委ねてくれる。
たまらなく嬉しくて。
もっと愛したくて。
つい、牙を向けてしまう。
指を引き抜き、彼の体を起こしてやる。
ベッドの上で膝立ちさせ、囚人のように壁に両手を突かせる。
士狼は羊真の背中に覆い被さった。
彼の小さな両手に、自身の手を重ねる。
夢中で肉槍を蕾にあてがうと……一気に腹を貫いた。
大きく啼いた羊真が背を丸め、濡れた子犬のように体をふるわせる。
彼の内部 が、士狼を包み込んでくれる。
滑らかな肉壁が吸いついてくるようだ。
「……あ」
なにかに気付いた士狼は、小さな声をあげた。
「どうしたの……?」
異変に気づいた羊真に訊ねられる。
「ごめん」士狼は情けない声で続ける。
「ゴム着けずに挿入 れちゃった……ちょっと待って。今……」
内心焦りながら、羊真を傷付けないように、ゆっくりと離れようと——
「士狼」
振り返った羊真と目が合った。
とろんとした瞳の奥に、確固とした意志を感じる。
「そのまま続けて」
その言葉に驚いた。
「でも——」
「いいから。……ねぇ、お願い。そのまま続けてよ」
『たまには羊真からねだってほしい』
……そう言っておきながら、彼の頼みを断るわけにはいかなかった。
「やっぱりヤダって言われても、止められないからな」
強い口調で忠告しながら、士狼は再び羊真の両手を握った。
「わかったうえでお願いしてる」
再び根元まで咥えさせる。
……不思議だった。
薄膜の壁がないだけで、羊真とより深く繋がれている気がした。
「あっ、あぁあッ! あぅ、う……ッ!」
羊真の体を士狼で満たしてゆく。
士狼の瞳に、危険な光が宿った。
逃れる術を失った獲物の恥口を容赦なく喰らう。
汗ばむ体を打ちつけて、ありったけの感情をぶつける。
「はぁあッ! ぅあ、ん、し、しろ、お……ッ!」
恥知らずな歓声をあげる羊真に、猛る肉槍をしめつけられる。
「羊真」。
世界でもっとも愛しい人の名を呼びながら、士狼も快楽の階段を駆けのぼる。
頭がクラクラする。
酸素を求めて、自然と呼吸が荒くなる。
射精欲と歪 な愛が高まってゆく。
恋人の肩に再び歯を立てた瞬間。
世界が真っ白になった。
「ふっ……うぅ……ッ!」
刃のように鋭い絶頂に、士狼は目を固くつむった。
快楽を逃すように、噛む力を強めてしまう。
「あ、うぅ……!」
苦悶に満ちた羊真の声。
肩の痛みに耐えられなかったのか。それとも……
士狼は羊真を解放し、ゆっくりと陰茎を引き抜いた。
栓を失った花口から、白濁がポタリポタリと滴る。
コンドームなしで羊真を抱いた。
その事実が、士狼のリビドーに油を注ぐ。
「……? あっ、ヤダ、漏れちゃう——」
乙女のように恥じらい、咄嗟に精を手のひらで受け止めた羊真を……気づけばベッドに押し倒していた。
羊真に忠告した通り、もう自分を止められなくなっていた。
「羊真」
熱のこもった声で彼を呼び、手首をつかむ。
ちいさな手のひらは、新鮮な精で濡れている。
「舐めて」
命じると、羊真はためらった。
しかしすぐに顔を手に寄せ、桃色の舌を伸ばした。
「そう……いい子」
疲れてクッタリとした羊真の頭を優しくなでる。
すると彼が天使のような笑みを見せてくれた。
あぁ、なんて可愛いのだろう。
……もっと。もっと。彼を可愛がりたい。
士狼の想いに呼応するように、肉槍が鋭さを取り戻した。
仰向けの羊真の尻を軽く持ち上げると、予告もせずに挿入する。
『もっと』を二回、三回、四回……と繰り返した。
***
『これで最後にするから』と宣言した、五回目のセックス。
枯れて声も出なくなった羊真の最奥で、士狼は果てた。
はぁ、はぁ。と乱れた呼吸を整える。
汗だくの士狼は、艶やかな黒髪をかき上げ、満足した陰茎を引き抜く。
尻だけを高く上げ、足を小鹿のようにわなわなさせていた羊真が、ベッドにうつ伏せに倒れこんだ。
肩や腕に、無数の噛み跡を残してしまった。
ぷっくりと腫れた菊門からは、白濁がトロトロとあふれ出している。
ベッドから立ち上がり、士狼はキッチンに向かう。
お茶のペットボトルを冷蔵庫から二本出し、再び寝室に戻る。
「羊真。お茶」
「ありがとう」
茶を手渡すと、乾いた声で礼を言われる。
ゆっくりと身を起こした羊真は、ベッドに座るのをためらった。
「このまま座ったら、思いきり汚しちゃうかな……?」
「……風呂まで連れていこうか?」
「うん、おねがい」
羊真をお姫さまのように抱きかかえ、浴室で降ろす。
彼が風呂椅子に腰かける。
案の定、白濁があふれて床を汚してしまった。
ペットボトルのキャップを開けて、羊真が茶を飲みはじめる。
ゴク、ゴク。と喉を鳴らすたびに、のど仏が上下に揺れた。
「……初めて、ナカに射精 してくれた」
「そうだね」と士狼は頷いた。
「嬉しかった」
ペットボトルを両手で包むように持った羊真が、ポツリと呟いた。
「今まででいちばん、士狼と深く繋がれた気がする」
深い溜息を吐いた羊真が、自分のお腹をそっとさすった。
「あぁ……今日は士狼のをお腹にいれたままにしたいなぁ」
魅力的なお願いに、つい頭を縦に振りそうになる。
すぐに思い直して、士狼は羊真と目線を合わせるようにしゃがんだ。
「ダメだ。出さないと、お腹壊すぞ」
「壊しちゃってもいいもん」
チャイルディッシュな口調で、羊真が目を細めた。
「羊真」と諭すように呼ぶ。
すると、彼がころころと笑った。
「冗談だよ。……もったいないけど、全部かきださなきゃ、だよね」
「うん。もう洗っちゃおうか」
「いや、待って。あともう少しだけ……お願い」
二度目のおねだりに、「少しだけね」と士狼は立ち上がり、ペットボトルを開けた。
***
翌日の朝。
「士狼、起きて」
恋人に軽く揺さぶられ、士狼は目を覚ます。
「朝ごはんできてるよ」
ひどく抱いてしまった次の日も、羊真は変わらず朝食を作ってくれる。
寝ぼけ眼をこすって、羊真と一緒にリビングに行く。
羊真がテレビを点けた。
普段は見ない情報番組の、映画の特集が流れはじめる。
今日の朝食はパンだ。
六枚切りのトーストとマーガリン。
半熟の目玉焼きと、美味そうな焦げ目のついたソーセージ二本。
キャベツとプチトマトが入ったサラダ。
そして、お揃いのマグカップに注がれたインスタントコーヒー。
学生時代の士狼が求めてやまなかった、心のこもった温かい食事だ。
「旨そう」
士狼がそう口にすると、羊真は照れくさそうに笑った。
「冷めないうちに食べて」
そう促された時だった。
『続いてはニュースです』
特集が終わった直後、ニュースに変わる。
『強制性交致傷などの疑いで、逮捕されたのは、△△市の会社員、○○○○容疑者、××歳です』
神妙な声色にハッとする。
『○○容疑者は、今月上旬、△△市内の住宅に押し入り——』
士狼は急いでリモコンを持ち、テレビを消した。
日常に訪れた、不気味な静寂。
士狼は恐る恐る羊真の顔色をうかがう。
案の定、羊真の顔は青ざめていた。
心配されていると自覚したらしい羊真が、ぎこちない笑みを浮かべた。
「大丈夫だって! 平気平気、だいじょうぶ」
自分に言い聞かせるように、羊真がなんども繰り返す。
踵 を返し、キッチンに消えようとする羊真。
このまま消えてしまうかも——
士狼は咄嗟に細い腕をつかんで引きとめた。
背中をみせたまま棒立ちになっていた羊真は、士狼の胸に寄り添った。
顔は見えなかった。
震える体を強く抱きよせ、士狼は小さな背中をやさしくさすった。
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