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第3話 狩人の心臓

side*トシ 親衛隊は嫌いだ。 見た目のいい者にはあからさますぎるほどの媚び、盲信と絡み付く視線。 気に入らない者にはえげつない制裁を行う腐った組織。 俺が抱いたのは、嫌悪だった。 世間様からすれば可愛く整った顔の親衛隊も、俺にはただの醜い悪魔にしか見えなかった。 隣の席には俺と同じ生徒会補佐で、人形みたいに綺麗な顔をした月白先輩が黙々と仕事をしている。 始めて見たときは感動さえ覚えるほど、その容姿に心を奪われた。 白磁の肌に銀の瞳と髪。 憂いを帯びた儚い表情は、つい手を伸ばしてしまいそうになるほど庇護欲を掻き立てられる。 しかし、月白先輩は親衛隊だった。 しかも持つのは総隊長の肩書き。 俺が感じたのは幻滅に近い失望だった。 ************* 月白先輩と初めて出会ったのは数ヶ月前、高等部への入学式の日だ。 俺の目の前には薔薇をモチーフにした豪奢な門。 今日から俺が生活を送る、全寮制の男子校。 門はその小さな王国と下界を隔てている。 この学園は俺の通っていた中学の付属高校で、中等部は男子校ではあったが全寮制ではなかった。 高校に入り、中等部の持ち上がり組と、高校からの途中編入組が混ざり、この閉鎖空間が完成するのだ。 しかし、高校からわざわざ全寮制の、しかも男子校に入学する物好きはそうそういない。 だから学年の大体が顔見知りであった。 中に入れば、中等部と大まかな造りは似ているが、やはりひとつふたつ階級が上がった感じがする。 でもやはりモチベーション自体はあまり上がらない。 変わらぬ閉じた世界。 あるのは崇拝と狂気。 昔からそれなりに顔が整っているという自覚はあった。 しかし親衛隊という集団には全く理解が及ばない。 一見一昔前のアイドルの追っかけのような印象だが、実際はそんな生易しいものじゃない。 彼らは異常なほどの執着と盲信と忠誠から成っている。 それは時に狂気の刃となり孤独を生む。 俺は以前、友人を1人、失った。 『よろしくー僕は宍戸祐樹』 『僕は大丈夫だよ』 彼はクラスも所属する部活動も一緒で、長い時間を共有した。 バスケが大好きで、良きライバルで、親友だった。 間延びした柔らかい低音と、学園を去っていった頼りなさ気な背中はいつも同時に蘇る。 (祐樹…) 大きな桜の樹が花弁を散らす。 去年の今、祐樹は親衛隊によってこの学園を追放された。 [chapter補佐と補佐] それはそれは 額づきたくなるほどに 美しい人 [newpage]【side*トシ】 目の前には薔薇をモチーフにした豪奢な門。 今日から俺が生活を送る、全寮制の男子校。 門はその小さな王国と下界を隔てている。 この学園は俺の通っていた中学の付属高校で、中学は男子校ではあったが全寮制ではなかった。 高校に入り、中学の持ち上がり組と、高校からの途中編入組が混ざり、この閉鎖空間が完成するのだ。 しかし、高校からわざわざ全寮制の、しかも男子校に入学する物好きはそうそういない。 だから学年の大体が顔見知りであった。 中に入れば、中学と大まかな造りは似ているが、やはりひとつふたつ階級が上がった感じがする。 でもやはりモチベーション自体はあまり上がらない。 変わらぬ閉じた世界。 あるのは崇拝と狂気。 昔からそれなりに顔が整っているという自覚はあった。 しかし親衛隊という集団には全く理解が及ばない。 一見一昔前のアイドルの追っかけのような印象だが、実際はそんな生易しいものじゃない。 彼らは異常なほどの執着と盲信と忠誠から成っている。 それは時に狂気の刃となり孤独を生む。 俺は以前、友人を1人、失った。 『よろしくー僕は宍戸祐樹』 『僕は大丈夫だよ』 間延びした柔らかい低音と、学園を去っていった頼りなさ気な背中はいつも同時に蘇る。 (祐樹…) 大きな桜の樹が花弁を散らす。 去年の今、祐樹は親衛隊によってこの学園を追放された。 *************** 「式、始まるよ。」 突如として背後から掛けられ声にハッとする。 俺はいつの間にか桜の樹の下で立ち止まっていたらしい。 「ぁ、はい、」 ひとつ返事で振り返って、俺は生まれて初めて言葉を失うという経験をした。 一瞬、本当に人ではない何かを想像してしまうほど。 そこに立つ人が、綺麗だったから。 桜の薄紅色の花弁が、風を彩るように舞い、銀の髪を揺らす。 透けるような肌に、髪と同じ色の瞳が儚く瞬きをした。 それなのに自分と同じ制服だけがいやに現実的で、なんだかちぐはぐだ。 桜の下、大切な友人を失った場所で、俺はその人に出会った。 (因果だな) 次に会ったら名前を聞いてみよう、などと柄にもないことを考えてみた。 といっても、その数十分後に、彼と再び出会うことになるのだが。 *************** 「生徒会新二年補佐、月白深也」 「はい」 壇上でライトを浴びて立つ姿は美しく、マイク越しのその人の声は数十分前と寸分違わない。 さっきは白昼夢でも見たのではとさえ思ってしまうほど、その人はそこに確固として存在していた。 (ちゃんと人だったんだな) やっぱり、とそんな空想じみたことを考えて、内心で本日何度目かの苦笑い。 これが、彼、月白深也という人との出会い。 ある種、俺の運命を大きく左右した日。 それから数ヶ月、彼の周りは目まぐるしく変化し、今その世界は混沌と憎悪が渦巻いている。 そして俺の心も移り変わってしまった。 それでもふと隣を見ると、記憶のそれと寸分違わない彼の横顔があって。 相変わらず美しく、強く、そして儚く。 そこに鎮座しているのだ。

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