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第5話 狼の足音

side*no それから数日後。 事件は起こる。 「どういうことだ、月白。」 深也は珍しく生徒会室のソファーで竜司と向かい合って座っていた。 久々に真正面から捉えた竜司の瞳は蒼白い怒りに満ち、禍々しい空気が彼の周りを取り巻いている。 しかし、いくら生徒会が親衛隊を邪険に扱っているとはいえ、それはいつもの事であって、深也には竜司から特段これほどの感情を向けられる理由が今ひとつ思いつかなかった。 「どういうこと、とは。」 「知らばっくれんじゃねぇよ。今朝、垂れ込みがあった。」 「…垂れ込み?」 深也は更に覚えのない単語に怪訝そうにうっすらと眉根を寄せた。 「あぁ。てめぇに命令されて駿に嫌がらせしてたっつぅ奴が駆け込んできたんだよ。自分の手を汚さずに他人使って、本当に根っこから腐ってやがんなぁ、てめぇはっ」 ぐらぐらと溜まっていた怒りが噴き出すように竜司が激昂する。 「本当、人間性を疑う。ニック、連れてきて。」 竜司の隣に優雅に座っていた綾乃も、深也をまるで虫けらを見るように睥睨し、ニックの名を呼んだ。 そして横の仮眠室内から出てきたニックは一人のうつ向いた小柄な生徒と連れ立っていた。 「っ、隊、長…っ!ヒック、ごめんなさ…っ、僕、僕もう耐えられなくて…っ!」 生徒は泣き腫らした顔をおずおずと上げ、嗚咽を上げながら深也に謝る。 深也は唐突なことで、全くもって身に覚えのない状況に口を噤むしかない。 「大丈夫?君は本当にあの性悪に脅されたんだよね?」 「っ…はい…っ!」 生徒はしゃくりをあげながらか頷き、また極まったようにわっと泣き出す。 ニックは憐憫の表情で、辛かったね、と俯く背中を擦った。 その優しげな仕草に更に増す嗚咽。 (すごい演技力だな。) しかし深也は更にきりきりと引き絞られた空気を気にするふうもなく、演劇部なのかな、などとぼんやりずれたことを考えていた。 「どうなんだよ、あばずれ。てめぇがやったんだよな?あ゛ぁ?」 更に眼光鋭く、凄むように声のトーンを落とした竜司に、 深也の銀の瞳がゆっくりと竜司を捉えた。 「いいえ。俺じゃありません。」 きっぱりとそう言い切った深也の眼には動揺などは欠片もなく、むしろ何の感情も映していない。 「ンだと?」 「この生徒が嘘をついているとでも?」 綾乃がきっと目を吊り上げ深也を睨みつけ、一方では打って変わって「もう帰っていいよ」と生徒の頭を優しくひと撫でした。 生徒のほうも赤い眼で頬を紅潮させ、小さく頷いくと、そそくさと踵を返して生徒会室のドアに手をかけた。 深也は無意識にそれを目で追う。 ドアが開くその瞬間、その肩越しにカチリと深也と眼があった。 ふっ、と彼の濡れそぼった目が笑った。 そこには先程までの悲嘆の影などまるでない。 嘲笑うような色したそれを、深也はただ呆れた目で見送るしかできなかった。 (……まったく、どっちが性悪なんだか。) 「さ、証拠もあるんだしさぁ。さっさと白状したら?」 ニックは皮肉そうに口角をあげ、竜司たちのいるソファーに凭れる。 さっきの笑みには全く気付いていないのだろう生徒会の不遜な態度。 深也はその愚鈍さと、親衛隊員の幼稚さに少し嫌気が差したが、それはお首にも出さずただ黙秘を続けた。 「これだから親衛隊は信用できない。」 軽蔑の眼でふん、と鼻を鳴らす綾乃。 (あの生徒も親衛隊なんだがな。) 内心大きな溜め息をついて深也がとうとう口を開こうとした時、生徒会室のドアは再び開かれた。 「あー…、やっぱなんかややこしいことになってんな。」 深也の耳によく馴染んだ低音。 開いたドアのところに立っていたのは、さっき出ていったはずの男子生徒と、彼の襟首を猫のように掴んでいるフレッドだった。 ***************** side*フレッド いつもの生徒会室への道。 俺はチェック済みの書類を手に歩く。 その書類の宛名は会長、副会長、書記、と全てばらばら。 しかし、これらほとんどは生徒会の補佐ひとりがやったものだ。 補佐の名前は月白深也。 俺の総てを投げ打ってでも守りたいと、そう強く願った相手。 生徒会がほとんど機能していない中、深也たったひとりこの学園の中枢を支えていた。 それでもあいつは何も言わない。 誰にも助けを求めない。 俺にでさえ。 生徒会顧問の立場のお陰で、なるべく書類の量を減らしたりはしているものの、実際は深也にかかる負担は大差ない。 (もっと頼って欲しいんだがな) しかし深也の過去も、その闇も、総て知っているからこそ、深也が求める以上に何かを与えることができなかった。 とくに最近は、深也の周りから不穏な空気が漂っているから余計にもどかしく感じる。 深也がかなりのオーバーワークをしているのも知っていたし、体調が芳しくないのにも気づいている。 だからせめて今日くらいは、と思って他の委員会に期限延長の交渉し、今はその帰り道だった。 各委員会のほうも生徒会の常軌を逸した状態を薄々感じ取っているのか、思ったより快く承諾してくれた。 (今日は少しゆっくりさせてやれるかな。) そう僅かに安堵したが、やはりふと苦笑いが漏れる。 (まぁ、大した足しにはならないかもしれないが…) そんな小さな手助けにしかならないことでも、きっと深也は嬉しそうに微笑むのだろう。 微笑んでそして、“ありがとう”と柔らかに呟くのだろう。 そんな深也を想って、脇腹がきゅっと苦しくなる感覚にみまわれ、そこで思考を止めた。 (考えたところでなんもなんないしな。) と、その時だった。 普段生徒会役員しか歩いてないはずの廊下に見慣れない生徒。 彼はスマホ片手に意気揚々と廊下を歩いている。 (誰だ?) すれ違いざま、ふいに俺の耳に入るのはひとつのワード。 『ツキシロ シンヤ』 電話越しの会話に夢中の彼はすれ違った相手が俺であったことに気づく素振りもなく、話しを続けている。 「そうそう!まじ笑えた!みーんな騙されちゃってさぁ、完全に月白深也が黒幕だと思ってる。」 媚びるように甘く甲高い声が、それほど大きな声での会話でもなのに、いやにクリアに聴こえてくる。 「ざまーみろってかんじ。えー?マジ?やっぱり僕才能あるかな?俳優目指そうかなぁ、なんてね!」 きゃはは そんな軽薄な笑い声に、俺の身体の心がすう、と冷えていくのを感じる。 ひどく胃の腑のあたりがもやもやした。 それは自分にすら助けを求めない深也への憂いなのか、目の前の親衛隊のせいなのか、俺にはわからない。 反射的に離れていく小さい背中を追う。 彼と俺の距離はあっという間に縮まった。 そいつの眼と、俺の視線がぶつかる。 目の前の深也を疎むおそらく親衛隊であろう奴は、掴まれた腕に驚きを隠せず、そのまん丸い目を零れそうなほど見開いた。 「なんか、面白そうな話してるな?俺も、混ぜてくれないか。」 (深也、俺は、) 俺はお前を、 絶対、独りで戦わせたりなんかしない。 ********************* side*no さっき出ていったはずの男子生徒と共に現れた顧問のフレッドを、生徒会役員たちは様子を伺うように見やる。 「なんだかお前たち勘違いしてるみたいだな?」 「ぁ?」 「さっきそこの廊下で偶然擦れ違ったんだが、こいつ、自分の泣き真似の上手さを自慢気に吹聴してたぞ。」 ほれ、と掴んでいた生徒の襟首をひっぱり前へ押し出した。 暴露と共に生徒会の面前に晒された彼はパニックに陥っているのか、弁解の言葉もなくただ青くなるばかり。 「なに…っ!?」 綾乃がフレッドの言葉に目を見開き、焦ったように男子生徒を見る。 「まぁ、そーゆーこった。話の流れはわからんが、何だかうまくハメられちまったようだな?」 ばつの悪そうな綾乃に生徒を引き渡しながら、フレッドはこっそりと深也に目配せをした。 (まったく…) (俺たちの関係がばれたら不味いのはお前の方なのに。) 内心小言を漏らしながらもリスクを省みず自分を救いにきたフレッドに、昔から変わらない過保護な面影が見えて深也はなんだか懐かしいような、くすぐったいような気持ちになる。 「チッ、…月白、不問だ。失せろ。」 対する竜司たちは苛立たしげに舌打ちをし、不機嫌を隠そうともしない声音で深也に言葉を投げつけた。 謝罪をするどころか、犬を払うかのように深也を追い出そうとする雰囲気にさすがのフレッドも待ったをかける。 「…おいおい、四王。いくら何でもその言い方はねぇだろ?」 「ぁ゛?こいつがシロであろうがクロであろうが、どっちにしろ下衆野郎には変わりねぇだろ。」 突っかからたことで更に機嫌を低下させた竜司は教師にするそれとは到底思えないような言葉遣いでそう吐き捨てた。 フレッドは先程までとは一転、瞬時に血が冷たくなるのを感じる。 それは蒼白い怒りだ。 握りこんだ拳がギチリ、と音を立てた。 (フレッド、別に平気。大丈夫。) 深也はすぐにその異変を感じとり、周りに気付かれないよう、今にも手が出てしまいそうな雰囲気のフレッドに素早く視線を送る。 「ッ、…。」 フレッドも深也の視線の意味を瞬時に受け取ったのか、無意識に握り込んでいた拳を僅かに弛めた。 しかし、大切なものを侮辱され、その怒りをすぐに収めることは至難の業。 フレッドの指先は未だに冷たいままだった。 「…月白。今から生徒会資料作るから手伝え。」 どうしても先程よりは低くなる声。 それは深也にしか分からないような微々たる変化であったが、自分のために怒っているフレッドに深也は内心苦笑いする。 「はい。わかりました。」 「四王、こいつちょっと借りるわ。」 演じるのはあくまで“生徒”と“教師”。 二人の関係が露見しないためには必要なことだった。 「勝手にしろ。」 竜司は深也が犯人ではないと知って興味が失せたのかどうでもよさ気に答える。 「ていうか、四王はもっと俺に敬語つかえよ。顧問だぞ?」 「は?うるせぇよ。」 そして最後に場を混ぜ返すことも忘れない。 先程のピリついた空気の原因があたかも『竜司の態度』であったかのように、フレッドは苛つくふりを演じて見せた。 呆れた溜息ついでに彼らに背を向けたフレッドの瞳には、“苛立ち”などいう言葉では購えない憤怒が宿されている。 深也はそれを横目でちらと見て、気心が知れた彼の優しさに場違いとは思いながらも少し心臓が暖かくなるのを感じた。 ********************* side*no 生徒会室を出て、一般棟に向かう廊下。 そこはフレッドと深也以外歩いているものはおらず、鎮まりかえっている。 それも当たり前で、今は普段なら授業のある時間だからだ。 「…フレッド、さっきはありがとう。」 「いや、気にすんな。」 互いに眼を見るもなく一定の距離のまま淡々とやりとりが行われる。 しかし長い付き合いの彼らにとって気持ちを伝えるには充分な会話だった。 それから特別棟の赤い絨毯を抜け、エレベーターを降りてすぐ一般棟の廊下に入る。 生徒会のテリトリーから抜ければほんの少しだけ二人の距離は狭まり、会話は増えていく。 「ただ、気を付けろよ。あまり俺を庇ってるとぼろが出るぞ。」 「まぁな。バレたらバレたでそんとき考えるよ。」 「あのな…、…まぁ、いいけど…。」 危機感があまりないフレッドに深也は呆れたような表情をするが、やがて閉口し、諦めたようにため息をついてみせた。 「ご心配どうも。」 「本当にな。」 フレッドも自分を心配するゆえの小言だとわかっているのか、少し照れ臭そう笑うだけ。 それから数分歩いて、二人の足が止まる。 そのドアには“英語科研究室”の表札がかけられていた。 ポケットからキーを取りだし、部屋の鍵を開けるフレッドを見て深也がクスリと笑った。 「ん?なんだ?」 「いや、フレッドも偉くなったんだなと思って。」 「ぁー、まぁ、なぁ?」 新米教師時代を知っている深也の言葉に、フレッドは決まり悪そうに頭を掻く。 「昔は主任に怒られてばっかだったからな。」 「それが今では自分の研究室が貰える程まで偉くなっちゃって。」 開け放たれたドアからぐるりと部屋を見渡す深也。 そしてぽつりと、そんなに月日が経ってるんだな、と呟いた。 深也の眼が一瞬どこか遠くを見る。 フレッドはその瞬間、心臓がひやりと凍てつくのを感じた。 それは恐れ、焦り、哀しみ、どれでもないような、はたまたそれら全てが綯い交ぜになったような、酷く曖昧な感覚。 ただ分かるのは、その感情がプラスではないということ。 「深也…、」 フレッドが呼んだ名に、深也の瞳が現実を映した。 「深也、中入れ。お前に頼まれてた調べもの、あがってるぞ。」 「…あぁ、そうか。ありがとう。」 フレッドは何事もなかったように深也を部屋に招き入れ、戸を閉めた。 フレッドの研究室は入り口を入って直ぐに大量の資料が詰まった棚がずらりと立ち並び、その奥に少し大きめのソファーとローテーブルが置いてあるだけ。 いたってシンプルな配置になっている。 しかし、入り口を入っただけだと巨大な資料棚が視界を塞ぐため、一見ただ膨大な資料を保管するためだけの部屋にしか見えない。 「コーヒー淹れるから先ソファー座ってタブレット立ち上げとけ。」 「ん。」 フレッドは入り口の横の給湯室に入り、深也は乱雑に置いてあるタブレットPCの電源をいれてソファーに腰を掛けた。 「起動した?」 数分してフレッドが湯気の立ちのぼるマグカップを2つ手に現れる。 フレッドが深也の横に腰掛けるとコーヒーの良い薫りがふわりと鼻孔を充たした。 受け取った白いマグカップからはいつものコーヒー豆の匂い。 昔から変わらず愛飲する、フレッドこだわりのブレンドコーヒー。 一瞬深也の脳裏に昔の情景が過る。 しかし、深也は過去に還ろうとする思考を引き摺り戻すようにマグカップに口をつけた。 「こっちのファイルが現状風紀が把握してるだけのブラックリストとその予備候補者。あとその隣が最近不審な動きが目立つ奴らのリスト。」 「なるほどな、これで少し楽に動ける。」 「あと親衛隊に関しては登録者名簿から生徒会方、風紀方、教師方、無所属方で怪しそうなのは一応全部洗っといたんだけど、正直いつもの過激派のメンツがピックアップされてるだけだから、なんの参考にもならんかもな。」 この学園の親衛隊内は生徒会方・風紀方・教師方・無所属方と大きく4つに分類されており、更にその中で所属したい人物の元につくようになっている。 無所属方は一般生徒の中で人気がある者の親衛隊なのだが、規模が人によってまちまちなので全てを把握するのは難しかった。 深也はそれらに一通り眼を通すと、フレッドの方に顔を向けて口を開いた。 「忙しいのにすまない。助かった。」 「今更何言ってんだよ。それに、忙しいのはお前の方だろ?」 「まぁ…、仕事が立て込んでるのは否定できないな。」 フレッドの切り返しに深也は苦笑いを浮かべてコーヒーを一口飲んだ。 そして、二人の間に沈黙が落ちる。 あるのは窓から薄いカーテン越しに滲みだす柔らかな午後の日差しだけ。 それから緩やかに流れる沈黙は、深也がタブレットを操作する微かな音を取り残して、暫くその空間を満たていった。 そして、その心地よい沈黙を破ったのはフレッド。 マグカップを持つ右手はそのままに、空いている方の手が前触れもなく深也の銀色に透ける髪に伸びた。 柔らかく差し込まれる長くて無骨な指。 それらは、こめかみから項へ、ゆっくりと梳くように流れた。 「深也。」 耳触りのいい甘く重い声が深也の鼓膜を震わす。 フレッドの方に顔を向ければ、絡み合う視線。 彼がふと、微笑む。 彫りの深い精悍な目元に、少しアンバランスな目尻の笑い皺が刻まれる。 深也は大人の色気を含ませた笑みを目の前に、あぁいい男だな、とぼんやり思った。 項に回った大きな手に少し力が籠って。 引き寄せられる頭。 唇にそっと触れたそれは、少しカサついていて、しかし温かくて。 優しい優しいキスだった。 深也はそこからの流れをよくよく知っている。 だから黙ってそっと眼を閉じるのだ。 角度を変えて何度も柔らかく食むような口付けは、ちゅ、と微かな口接音を落として、名残惜し気に離れていった。 深也がゆるりと眼を開けると、そこにあるのは淡い欲情を滲ませたふたつの瞳。 すでに飲みかけのマグカップはふたつ机の上に鎮座している。 急速に室内の空気が密度を増した。 今度はどちらともなく唇が重なった。 「ン、ふ…」 合わさった唇の隙間から微かに溢れるのは鼻に抜けるような甘い深也の吐息。 大きい革張りのソファに縫い付けられ、優しく、しかし追い詰めるようなキスが深也の思考を鈍らせていく。 気づけばフレッドの大きな掌が、深也の服をたくし上げ、脇腹を扇情的に撫ぜていた。 ぞくぞくと下腹のあたりから何かが沸き上がる感覚に、深也の眉がうっすらと寄って、無意識にフレッドの腕を引っ掻く。 加虐心を煽るかのようなその仕草に、行為は崩し的に性急さを増していく。 「っ、…ンっ」 フレッドはあっという間にさらけ出された白い肌に獰猛に喰らいつき、息の上がる深也もそれに応えるようにフレッドの首に細い腕を巻き付けた。 密着し、溶けだす体温。 徐々に速度を増す互いの鼓動。 「フレッ、ド…っ、ん、あ、ァ」 「深也…、」 呼吸の合間に絶え絶えと零れるあえかな嬌声の隙間、深也は何度もフレッドの名を呼んだ。 その何かに縋るような切ない響きに、フレッドも応える。 まるで心の隙間を埋め合わせるように互いを求めるその行為は、彼らが大切なものを失ったあの時から、ずっと続く“儀式”だった。 長い時間をかけて、優しい愛撫と胎内を嬲る屈強な熱の塊が深也の思考を溶かした。 「ッ…深也、」 昂りきった身体の最後の最後、少し掠れた低音が、小さく深也の名前を呼ぶ。 熱に浮かされた深也の脳裏に、彼の深く美しい瞳の色だけがこびり付いた。 西日の差す部屋。 空っぽなそこには、ふたり分の儚い情動だけが満ちている。

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