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12、仕事をください!②
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「さぁ、お召し上がりになってください!」
「い、いただきます」
エイミに連れられて、やって来たのは厨房。
ここで炊事をするのが仕事だと思ったのに、なぜか俺は、机の上にところ狭しと並べられたケーキを食べることになっていた。
というか、量多い。何だこの量は。
「あ、あの、お口に合わなかったらすいません…」
フォークをつかんだものの、いまいち状況が分からずに固まっていると、イルがおどおどした様子で声をかけてきた。
「味に関しては保証致しますわ!イルはお菓子作りが得意なんですよ」
「ね、姉さん、ハードル上げないでよ」
ウキウキとした様子のエイミに比べて、イルはかなり困った様に見えた。不思議に思いつつ、試しに手近にあったケーキをひと欠片、ぱくりと食べてみた。
「…あ、おいしい」
「ですよね!!」
「うん、ほんとに美味しい。こんなに美味しいケーキ、初めて食べた」
「イル!聞いた?!聞いた?!」
「聞いたから、姉さん、落ち着いて。奥方様がビックリしてるから…!」
呆気にとられていると、エイミがぐいっと近寄ってきた。やっぱり近い。圧がすごい。やばい。
「イルはご覧の通り、かなり消極的で悲観的なんです。こんなに、…もぐ、美味しいのに!私以外の方にも、美味しさの感動を伝えたくてお連れしました!」
「そうなのか。…自信持っていいんじゃないか?こんなに美味しいんだから」
素直な気持ちを伝えると、イルは真っ赤になってしまった。そして、「ありがとうございます…」と小さな声で呟きながら、笑顔を見せてくれた。
「やっぱり奥方様はお優しいですね!」
「あ、いや、というかほんと、そういうんじゃないから。それと、俺、仕事させてほしいんだけどさ」
「仕事、なさっているじゃありませんか」
「え」
「味見も立派な仕事ですわ!」
「えぇぇ…」
「さぁ、奥方様、こちらをお召し上がりになって、感想をくださいませ。選んでいただいたものは、食卓に並ぶよう手配致しますからね!」
満面の笑みのエイミに何も言えなくなり、俺は仕方なくケーキと格闘することにした。
またひと欠片、口に運ぶ。
うん、美味しい。
店で食べたことのある、客がばらまいていたどの高級お菓子より美味しい。
とりあえず、せっかくだからエイミやイルにこの屋敷のこととか聞いてみようかな。
「この屋敷って静かだよな。俺、まだフィリオとエイミとイルにしか会ってない」
「時間帯によってばらつきがある感じですが、そうですね、確かに常駐の者は少なめです。私たち以外は、ほとんど自宅からの通いですし」
「え?そうなんだ」
意外だった。お金持ちの家にはたくさんの人が働いていて、その人たちも(棟はきっと別だろうけど)そこに住んでいるんだと思ってた。
「旦那様は、『自宅があるならそこに帰れ』と仰るんです。基本的には常駐しているのは、私たちのような身寄りがない者だけですわ」
「そうなのか」
「旦那様がそのようなことをするのは、」
「ずいぶん楽しそうに話しているな?」
2個目のケーキにフォークを刺した瞬間、突然頭上から声が聞こえてきた。
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