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13、お前の仕事は
「フィ、フィリオ」
「起きたら居ないとはどういうことだ」
「あ、いや、その…よく寝てたから、起こすのも悪いなぁ、と」
「今後は俺より早くベッドから抜け出すことは許さん。チッ…こんなことなら昨日、足腰が立たなくなるまで抱き潰してやればよかったな」
「…、…!!」
その言葉に、かっと顔に熱が集まる。
エイミやイルがいる前で何を言ってるんだこの人は!! 羞恥心ってもんがないのか?!
「な、なん、何てことを」
「問題があったか」
いたたまれなくなって目線を外すと、エイミと目が合った。にこりと微笑まれるが、ちがうそうじゃない。むしろその気遣うような笑顔が辛い。しかもエイミは、数拍後にハッとしたような表情になり、イルの腕を引っ張った。
「それでは、わたくしたちは仕事に戻りますね。さぁ、行くわよイル」
「姉さん、ちょ、力強すぎる…!そ、それでは失礼します!」
「えっ」
あっという間に二人は厨房から去っていった。この状況でフィリオと二人きりとか嫌すぎるんだけど…!
「イルの菓子か」
「え、あ、うん、食べさせてもらって」
「そうか」
そう言うと、フィリオは俺の隣の椅子に腰かけた。そしておもむろにフォークを手に取り、手近にあったケーキに刺す。
「口を開けろ」
「え、あ、…むぐっ」
「食わせてやる」
しかも、あろうことか俺に片っ端からケーキを食べさせ始めた。有無を言わせないその行為に、ただ口を開くしかない。
「…、んぐ…むぐ…、…ん」
1つ、2つ、3つ…
合間に飲み物を交えつつ食べていると、次第に意識がぼやけてきた。体が全体的に重だるくなって、胃の辺りがぽかぽかとあたたかい。頭はくらくらしてきて、座ってる感覚すらおぼつかなくなっていく。
「なるほど、これか」
「…?」
フィリオが1つのケーキをまじまじと見つめながら、とても楽しそうに笑った。意地悪そうな笑みだけど、やっぱり綺麗だなぁと思う。
「ニィノ。お前はなぜ厨房にいた?」
「俺ができる仕事…、探してて」
「仕事?」
「そしたら、エイミがここに連れてきてくれて、それで、ケーキ食べてた。『ケーキの味見も仕事です』って、言ってた」
「なるほどな。しかしなぜ仕事を探す必要がある?」
「だって、フィリオは俺のこと、買った」
「…。お前は」
じっと見つめていると、突然強い力で引き寄せられ、俺はいつの間にか口付けられていた。
後頭部を押さえられてるから身動きがとれない。
「は、ふ…ん、んぁ…あ、あっ…んんっ」
薄く開いた口に侵入した舌が、口内を蹂躙する。歯列をなぞったり、舌同士を絡めたり…くすぐったいそれに、快感に似たぞわりとした感覚を感じる。息さえ取り込むような深い口づけに、正常な判断力が奪われていくような気がした。
「…ふ、甘いな」
「あ、ぅ…フィリオ…」
そっと左の薬指をなぞられる。
刻印の刻まれたそれは、まだピリピリとした痛みを訴えてくる。隷属の証を刻んだくせに、俺に触れるその手は優しい。
「お前の仕事は、」
抱きすくめられ、耳元に熱を感じる。
払いのけることもできず、ただぼんやりとフィリオの体温を受け止める。
「俺に愛でられ、俺のために生き、毎日俺のことを思うことだ。余計なことは考えるな」
「フィリオの、ため」
「そうだ」
その言葉を最後に、俺は意識を手放した。
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