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14、愛されてるのかと、錯覚する。

どうやら俺が食べたのは洋酒がふんだんに使われたケーキだったらしい。しかもイルが分量を間違えて、ものすごく度数の高めなお酒がこれでもかと使われていたんだとか。 翌日頭が痛くて起き上がれない俺に、イルがそう説明しながら、すごい勢いで謝ってきた。 いや、でもイルは悪くない。悪いのは、それを察していて、なおかつ俺にそればかり食べさせたフィリオだと思う。 「あれくらいで二日酔いになるとはな」 しかも当の本人は悪びれる様子がないときた。 ものすごく腹立つ。 「あんまり酒飲んだことないんだ…仕方ないだろ」 「ふん、ガキだな」 「悪かったな…どうせ酒も飲めない、文字も読めない書けないっていう人間ですよ」 「ほう、読み書きができないのか。店では教えてもらえなかったのか?」 「学をつけたら面倒だって。逃げたりとかされちゃうだろ」 「…。なるほどな」 わしゃわしゃと頭をなでられる。 やめろ、痛いんだ。 「水分をしっかりとっておけ。食事にも手をつけろよ」 そう言ってフィリオは去っていった。 部屋がとたんに静かになる。 …何だか無性に寂しくなった。今までは一人で居てもこんな風に思うこと、なかったんだけど…そういえば、フィリオに買われてから一人になる時間ってほとんどなかったな。 「きっと忙しくて、疲れたんだな…」 ゆっくりと目を閉じる。 ふかふかのベッドは、俺をゆっくりと眠りの世界に連れていった。 ** フィリオが帰ってきたのは夜になってからだった。ぼんやりと窓の外を見ていたら、やたらにきれいな馬車が止まって、そこから降りてくるのが見えた。 俺はというと… 1日寝ていたらすっきりした。 食事もおいしかったし、頭痛も引いた。 「帰ったぞ」 「ここから見てた」 「ん」 部屋に来るなり、フィリオは両手を広げ、俺の方を見た。 何してんだ?という顔で首を傾げると、みるみるうちにフィリオの眉間に皺が寄っていく。 「な、なに」 「俺が帰ってきたら、可愛らしく出迎えろ」 「か、かわいらしく…?」 「来い」 「え、あ、うん…」 よく分からないまま近づくと、腕を引っ張られてフィリオのたくましい体に受け止められた。 「まずはこうやって抱きついて、『おかえりなさい』と言ってみろ」 「え。…本気で言ってる?」 「当たり前だ」 「…、…お、おかえりなさい」 「ああ、ただいま。ニィノ」 何だかむず痒い。何なんだこれ。何がしたいんだこの人。これじゃ、まるで…ほんとに結婚したみたいだ。 「今日は勘弁してやるが、普段は…」 指で唇をたどられる。その手つきにぞわりとしたものを感じてしまう。でもそれは、フィリオがわざとやってるからだ。そうに違いない。それ以外ない。 「キスもしてもらおうか」 「は…」 「毎日出発と帰宅の時にやれ」 「お、俺からってこと?!」 「他に誰がいる」 あまりのことに頭がついていかない。 この人の考えが俺には分からない。 「それと、今日から夜はこれを読め」 「…?」 呆けていると、フィリオが一冊の本を差し出した。受けとって中身を見ると、挿し絵が主となっている絵本だった。 「いや、だから文字読めないって」 「特訓だ」 「特訓」 「俺の伴侶に学がないのは我慢ならない。付き合ってやるから読めるようになれ」 「…」 そりゃ、読めるようになるのは嬉しい。 でもこれはつまり、フィリオに絵本を読み聞かせるってことで… 「ふ、ふふ…ふ…」 「何だ。なぜ笑う」 「いや、なんか、まるで俺がフィリオのこと寝かしつけるみたいで、…ははっ、想像すると笑う」 「失礼な奴め。…まぁいい、明日からは家庭教師にもついてもらう」 「家庭教師?」 「俺は仕事もあるからな。雇っておいた。みっちりしごかれてこい」 …俺のため。 伴侶に学がないのは、と言ってたから純粋に俺だけのためではなさそうだけど、そっか、俺のために雇ったのか…。 少しだけ嬉しかった、なんて、その時思ったのを覚えてる。

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