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15、隣に並び立つ用意①

次の日から家庭教師がやって来た。俺はてっきり一人だけだと思っていたけど、語学に算術、歴史にマナー…とにかく様々な分野の人が入れ替わり立ち替わり現れた。 大変だったけれど、さすがというかなんというか、家庭教師の人たちの話す内容は面白くて、中身がすんなり頭に入ってきた。 新しく知ることだらけで嬉しかったのかもしれない。まぁ、そりゃ俺は知らないことのほうが多いから当たり前なんだけどさ。 午後の授業が終わって一息ついていると、小気味のよいノックの音と共に青年が入ってきた。 今まで来ていた家庭教師の人たちは年配の人が多かったけど、今目の前に立っている人は、俺より少し年上に見えるくらいの見た目だ。 人好きのしそうな笑みを浮かべながら、近づいてくる。 「ああ、そのままで大丈夫」 立ち上がろうとすると、片手で制された。 栗毛の髪が光を受けてキラキラして見える。 フィリオとはまた違った感じだ。 「僕の名前はジルベルト。気軽に"ジル"と呼んでくれて構わないよ」 「え、…あ、はい」 「フィリオとは切っても切れない間柄でね」 「そう、なんですか?」 「ああ。でも安心してくれ、別に疚しい間柄ではないよ。新婚の二人に水をさすような真似はしないと誓おう」 「…」 結婚したとはいえ、別に甘い空気になるわけでもないんだけど。でもフィリオにそういう間柄の人がいるのは意外だった。気にはなる。 「どんな関係なんですか?」 「ああ、僕はね、フィリオの妹を妻に迎えたんだ」 「フィリオって、妹がいたのか…」 「彼女はそれはもうとびきり可愛らしくてたおやかな、素敵な女性さ!僕を選んでくれた時、普段は信じていないような神に感謝したくらいでね。それを伝えたら彼女は嬉しそうに微笑んでくれたよ」 エイミといいこの人といい、フィリオの周りにいる人はよく喋るなぁ…というのがその時の感想だ。 あと、フィリオの妹だというから、傍若無人なイメージを勝手に描いていたけど、話を聞く限り似てないのかもしれない。 「おっと…本題に入ろうか。僕が家庭教師に選ばれたのは、おそらくフィリオの知り合いの中で、ダントツに僕が魔法の扱いに長けているからだね」 「魔法、ですか」 この国の地位は、魔力の有無で決定すると言ってまず間違いない。元々生まれ持った魔力が強かったり、魔法の扱いが上手かったり、そういう人が優遇されるのがこの国だ。 「君の魔法の属性と魔力の量を知りたいところだけど、測定したことは?」 「…。ないです」 「そうか。じゃあまずはそこからだね」 それから俺は、魔法の成り立ちや精霊との契約について、魔力の込め方など、おそらく基礎の基礎であろうことを習った。「ある程度理解できるようになったら、今度は実践をしようね」と言われ、ジルさんとの勉強は終わった。 ** 「帰ったぞ」 そして、あっという間にフィリオが帰宅する時間になった。朝言いつけられた通り、恐る恐る玄関口に顔を出す。 「おい、早くこっちに来い」 「う…」 昨夜の話は本気だったようで、俺は朝からフィリオにキスをしてから見送ることになった。恥ずかしすぎる。 というか、朝は部屋から送ったから他の人には見られてないけど、今はフィリオのそばにエイミや他のメイドたちがいるんだよなぁ… 「遅い」 「ええと…おかえり、なさい」 正面に立ち、ぎこちなくそう告げると、ぐいっと引っ張られた。よろけてフィリオにもたれかかる形になる。 「っ、とと!」 「昨夜教えたばかりだが、もう忘れたようだな」 「わ、忘れてない」 「ん」 「…っ」 じ、と見つめられ迷ったものの…観念して背伸びをし、そっと触れるだけのキスをする。 ダメだ恥ずかしい。とんでもなく恥ずかしい。顔がカァッと熱くなるのが分かる。 「…真っ赤だな」 「誰のせいだと…」 「俺だろうな」 性格の悪い奴め…! そう心の中で毒吐きながら、俺はぷいっとそっぽを向いた。

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