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16、隣に並び立つ用意②

部屋に戻り、フィリオがソファーに腰かける。ムスッとしたままその隣に座ると笑われた。 「それで、勉強の方はどうだ」 「面白かったけど、ちょっと疲れた、かな」 「そうか」 それから今日の1日の流れを話した。 フィリオは何が楽しいのか、ずっと面白そうに俺の話を聞いていた。今までこんな風に話を聞いてくれた人なんていなかったから、何だか新鮮な気分だ。 「ジルベルトって人が最後に来て、魔法の基礎を教えてもらった」 「ジルか…余計なことは言っていなかっただろうな? あいつは魔力は強いが、人間性には問題ありだ」 それはフィリオも当てはまるような…という言葉は飲み込んだ。 「…。特には。…あ、フィリオに妹がいるって話は聞いたけど」 「ん?ああ、そうだな。リディはジルに嫁いだ。あの男のどこがいいのかは分からんが、仲はいいようだな」 「ふぅん…」 妹の名前はリディっていうのか。 一体どんな子なんだろう。ジルさんの話を聞いた限りでは、だいぶいい子のようだけれど。 顔は似てるのかな…そうだとしたら美人なのかもしれない。フィリオはカッコいいし。 そんなことをぼんやり考えていると、突然するりと髪を撫でられた。そのまま頬をたどり、首筋を撫でられ、ゾクッとするものを感じる。 「…な、なに?」 「…」 フィリオは片手を俺の左手に重ね、そっと距離をつめてきた。(キスされる?)と思って反射的に目をつぶったけど、予想したものがやって来ることはなく、フィリオは俺の後ろに手を伸ばしただけだった。そして取ったそれを俺の胸元に押し付ける。 「読んでみろ。昨日の復習だ」 「え、あ、本…」 「なんだ、何かを期待してたか?」 ククッと笑われ、真っ赤になる。 いや、ちがう、期待してたわけじゃない…! 「べっ、別にしてない!」 「ふ、まぁいい。昨日よりはいくらかマシになっていると思いたいが…どうだかな」 「馬鹿にすんなよ、これくらい…!」 昨日と同じ部分を声に出して読む。 うん、覚えてる部分があるし、今日勉強した部分は何となく理解もできる。 「ほう、そのページは読めたな」 たどたどしい読み方だったとは思うし、昨日読んだばかりだから覚えてた、というのはあるけど、昨日より格段に読めるようになってる。 「…お前の声は心地いいな」 「そ、そうなのか?初めて言われた」 「ああ。好みの声だ。ベッドの中の声も色っぽいが、それとはまた違った色気があるな」 「ベッ…」 固まっていると、フィリオは俺の顔をまじまじと見つめた。 「お前はそういう類いの店に居たくせに、俺の性的な言葉や行動に過敏に反応するんだな。面白いからいいが」 「面白いって、つまり、わざと言ったりやったりしてるってことか…!」 「反応が新鮮でな」 やっぱり最低だ!! 「あと、お前の『初めて』を奪うのは楽しい。もっと俺だけにしか見せないお前をさらけ出すといい」 そっと手をとられ、左薬指に口付けられる。 まるで騎士が姫にするような…この絵本にも出てくる、そんな神聖な感じがする行為。 …ただ違っているのは、左薬指に刻まれているのが、隷属の証ということだけ。 フィリオはたぶん、俺を玩具のひとつくらいにしか思ってないんだろうけど…何だか無性にむずがゆくなって、(せめて隣に並び立つくらい、対等になれたらいいのになぁ)なんて、思った。

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