16 / 43
16、隣に並び立つ用意②
部屋に戻り、フィリオがソファーに腰かける。ムスッとしたままその隣に座ると笑われた。
「それで、勉強の方はどうだ」
「面白かったけど、ちょっと疲れた、かな」
「そうか」
それから今日の1日の流れを話した。
フィリオは何が楽しいのか、ずっと面白そうに俺の話を聞いていた。今までこんな風に話を聞いてくれた人なんていなかったから、何だか新鮮な気分だ。
「ジルベルトって人が最後に来て、魔法の基礎を教えてもらった」
「ジルか…余計なことは言っていなかっただろうな? あいつは魔力は強いが、人間性には問題ありだ」
それはフィリオも当てはまるような…という言葉は飲み込んだ。
「…。特には。…あ、フィリオに妹がいるって話は聞いたけど」
「ん?ああ、そうだな。リディはジルに嫁いだ。あの男のどこがいいのかは分からんが、仲はいいようだな」
「ふぅん…」
妹の名前はリディっていうのか。
一体どんな子なんだろう。ジルさんの話を聞いた限りでは、だいぶいい子のようだけれど。
顔は似てるのかな…そうだとしたら美人なのかもしれない。フィリオはカッコいいし。
そんなことをぼんやり考えていると、突然するりと髪を撫でられた。そのまま頬をたどり、首筋を撫でられ、ゾクッとするものを感じる。
「…な、なに?」
「…」
フィリオは片手を俺の左手に重ね、そっと距離をつめてきた。(キスされる?)と思って反射的に目をつぶったけど、予想したものがやって来ることはなく、フィリオは俺の後ろに手を伸ばしただけだった。そして取ったそれを俺の胸元に押し付ける。
「読んでみろ。昨日の復習だ」
「え、あ、本…」
「なんだ、何かを期待してたか?」
ククッと笑われ、真っ赤になる。
いや、ちがう、期待してたわけじゃない…!
「べっ、別にしてない!」
「ふ、まぁいい。昨日よりはいくらかマシになっていると思いたいが…どうだかな」
「馬鹿にすんなよ、これくらい…!」
昨日と同じ部分を声に出して読む。
うん、覚えてる部分があるし、今日勉強した部分は何となく理解もできる。
「ほう、そのページは読めたな」
たどたどしい読み方だったとは思うし、昨日読んだばかりだから覚えてた、というのはあるけど、昨日より格段に読めるようになってる。
「…お前の声は心地いいな」
「そ、そうなのか?初めて言われた」
「ああ。好みの声だ。ベッドの中の声も色っぽいが、それとはまた違った色気があるな」
「ベッ…」
固まっていると、フィリオは俺の顔をまじまじと見つめた。
「お前はそういう類いの店に居たくせに、俺の性的な言葉や行動に過敏に反応するんだな。面白いからいいが」
「面白いって、つまり、わざと言ったりやったりしてるってことか…!」
「反応が新鮮でな」
やっぱり最低だ!!
「あと、お前の『初めて』を奪うのは楽しい。もっと俺だけにしか見せないお前をさらけ出すといい」
そっと手をとられ、左薬指に口付けられる。
まるで騎士が姫にするような…この絵本にも出てくる、そんな神聖な感じがする行為。
…ただ違っているのは、左薬指に刻まれているのが、隷属の証ということだけ。
フィリオはたぶん、俺を玩具のひとつくらいにしか思ってないんだろうけど…何だか無性にむずがゆくなって、(せめて隣に並び立つくらい、対等になれたらいいのになぁ)なんて、思った。
ともだちにシェアしよう!