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21、"家族"というもの
ひっそりと宝物を手に入れたあと、食事を終えて、約束通りイルを呼んで片付けてもらった。
人に片付けてもらうなんて申し訳ないというか、自分がやりたくなるけど、イルにそれを伝えたら「旦那様に叱られます!!」と断られてしまった。
「今日は家庭教師の人たち来ないらしいし…暇だな…」
部屋で寝転がりながら、天井を仰ぎ見る。
大の字で寝てる辺り、俺もだいぶここの生活に慣れてきたようだ。
とりあえず、普段フィリオに読み聞かせている本を手に取った。自主練習して、なるべくスラスラ読めるようにしたい。もしかしたら褒めてもらえるかも…なんて、少しの期待をしながら文字を読み始めた。
…
数回練習したあと、まだ日が高いのに馬車の音が聞こえきた。早く帰るとは言っていたけど、こんなに早いんだ。
窓の下を見ると、フィリオの姿があった。
たったそれだけのことで心臓がどくどくと速く鼓動する。
"好き"だってことを自覚した途端、普段何気なく見ている姿がいつも以上に輝いて見える。
でも、あまりにもフィリオへの気持ちが強すぎると、離れるときに辛くなりそうで、…困る。
「…考えても、仕方ないし」
ぶんぶんと首をふって、俺は足早に玄関へと向かった。
**
「…えっと、…おかえりなさい」
相変わらず出迎えの人数が多くて恥ずかしいけど、俺はフィリオに近づき、いつものようにキスをした。
「…、ああ、ただいま。ニィノ」
そっと俺の髪をなでてくれる。
ただ、その時のフィリオの表情は普段とは違って疲れたものだった。珍しい。
「疲れてる?」
「ああ、そうだな。疲れた。あいつらと話すと体力が削がれる」
「あいつら…」
フィリオは、かばんをエイミに渡しながらコートを脱ぎ、それも手渡す。それから何かをメイドさんたちに指示し、みんな慌てた様子で去っていった。エイミはなぜか嬉しそうに走っていったけど、どうしたんだろう。
「…客が来る」
「あ、そうなんだ」
「俺のあとをすぐに出てきたようだな。あと少しで着くだろう」
「ふぅん…どんな人?」
「…」
問うと、フィリオは疲れた表情を一層険しいものにした。聞いたらまずかったことなんだろうか。
「1人はお前の知っている奴で、もう1人は…」
と、フィリオが嫌そうな顔で話していると、外から馬のいななきが聞こえてきた。
「…チッ、早いな」
「え、あ、俺は戻った方がいい?」
「いや、俺から離れるな」
「え」
意外な言葉にきょとん、としていると、勢いよく屋敷のドアが開かれた。
「ただいまっ!」
「おや、まさか奥方様もお出迎えしてくれるとは。ありがとう、待っていてくれたんだね」
そして現れた1人は、確かに俺の知っている顔だった。家庭教師の1人…ジルベルトだ。
もう1人は、誰だろう?
長めの銀髪が日の光も手伝ってキラキラ輝いていて綺麗だ。顔立ちがとても良くて、美人。笑顔も可愛らしい。
「ええと…」
「あっ、ねぇジル、この人がそうなの?」
「そうだとも、可愛いリディ。この人は君の兄が娶った新しい家族さ」
その子は満面の笑みでそばに寄ってきて、ガッ、と俺の手を掴んだ。
「はじめまして!私の名前はリディ。この仏頂面してる人の妹です!」
「え、あ、はい、はじめまして…」
「兄と結婚するだなんて、そんなすごい決断をするなんて尊敬します…!たぶん分かっていると思いますが、兄はこんな調子なので大変なことも多いでしょう?いじめられていませんか?酷いことされたら殴ってもいいですよ!あ、そうだ…何てお呼びしたらいいかしら、お嫁さんと聞いてはいたけど、男性だし…義兄(にい)さま? うんうん、そうね、ニィノ義兄さま、っていうのはどうかしら!私のことはどうぞ、リディと呼んでくださいね!」
一気にまくしたてられ、情報量の多さにくらくらした。とりあえず妹ってことは分かった。喋ると似てないな、なんて思いながら見つめていると、いきなりフィリオに引き剥がされた。
「無闇やたらに触るんじゃない。俺のだぞ」
「もう!兄さんったら、束縛しすぎると嫌われるわよ!」
「うるさい」
肩に置かれた手が熱く感じられるし、"俺の"という言葉にドキドキしてしまった。
むず痒い気持ちになりながら、目線を反らす。
好きになりすぎるのは、ダメなのにな。
「全く…まぁでも、いいわ。こんなに可愛い家族が新しくできたんですもの。良しとしましょう」
「なぜお前が評価する」
「家族…」
「そうですよ!ニィノ義兄さまは、もう私の家族ですから!」
「喋りかけるな」
イライラした様子のフィリオと、上機嫌なリディ…二人はだいぶ対照的なようだ。
フィリオが纏う険悪な空気は怖いけど、リディの"家族"って言葉は嬉しいかもしれない。
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