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22、兄と妹と、嫁と旦那と
そして俺たちは、不思議な組み合わせで中庭のベンチに腰かけていた。
あと、フィリオが近い。とても近い。肩を抱いてくる。鼓動が伝わってしまうんじゃないか不安でたまらない。
「兄さんに酷いことされてませんか?」
「だ、大丈夫」
「幸せに暮らせていますか?」
「俺と一緒に暮らしているんだ。幸せでないわけないだろう」
「もうっ、兄さんには聞いてないわ」
美形な兄妹に挟まれ、平凡な容姿の自分がここに居ていいのか分からなくなってくる。
「し、幸せですよ?」
「見ろ、ニィノもそう言っているだろうが」
「信じられない…無理矢理言わせてるんじゃないの?」
「おい」
二人は仲がいいのか悪いのかよく分からない。
困ったように目線をさ迷わせると、リディの隣に座っているジルベルトと目が合った。
「はは、モテモテだね」
「…あ、はは…」
曖昧に笑って返すしかできない。
そもそもフィリオはただたんに所有欲が強いだけであって…別に好きなわけじゃないだろうし。あ、なんか考えてたら悲しくなってきた。
「私、ニィノ義兄さまにとても会いたかったの」
「え、そうなんですか…?」
「敬語じゃなくて大丈夫ですよ!」
「う、うん」
「兄さんは今まで『結婚なんてくだらん』なんて言ってたのに、突然お嫁さんをもらったっていうからビックリしてしまったの!」
ちらり、とフィリオの方を見る。
そうなんだよな、エイミたちもそんなことを言ってたし、フィリオ本人も似たようなことを言っていた。そういえば結婚する理由は「当ててみろ」って言われていたけど、まだ分からないな…。
「別にいいだろう。お前はもう他所に嫁いだ娘だ。兄の結婚に口を出すんじゃない」
「まぁ!酷いわ、たった二人の兄妹なのに!」
「そうだよ、フィリオ。親友の僕にも事前に知らせてくれないし」
「誰が親友だ」
ジルベルトとフィリオの関係も謎だ。
知り合いだとは言っていたけど、一体どんな間柄なんだろう。気になる。
「ジルさんとフィリオは、昔からの知り合いなんですか?」
「ああ、そうだね。かなり昔から付き合いがあるよ」
「…おい、ニィノ」
「うわっ?!」
さらにきつく肩を引かれ、フィリオに抱きつく形になってしまった。相変わらず人前だろうとお構いなしだ。
「お前、いつからジルを愛称で呼ぶ仲になった」
「え、えっと…最初、から?」
「そうとも!僕がそう呼んでくれと頼んだんだよ」
「頼むな。お前も言われたからといって呼ぶな」
「兄さん、さっきも言ったけど、そんなに威圧的だとニィノ義兄さんに嫌われちゃうわよ!ニィノ義兄さんも、嫌なら嫌って言っていいんですからね」
「うるさい。こいつは気に入らないことがあると握り拳で殴ってくる。それがないということは嫌じゃないんだ」
あ、それを持ち出すか!
殴ってしまったことを思い出して申し訳ない気持ちになる。まぁ、あれはフィリオが悪いけどさ。
リディとジルベルトは呆気にとられたようにこちらを見つめてくる。というか、リディにとっては兄が殴られたということで、いい気はしないはずだ。
「そ、そのことは」
「ニィノ義兄さますごい…!兄さんを殴ったの?!尊敬するわ!」
「ははは、フィリオを殴るなんてすごい子だな」
「え、ええー…」
二人は面白そうに笑っている。
あれ?俺がおかしいのか…?
困惑してる俺をよそに、ひとしきり笑って、リディは目元を指で拭った。
「あー、はは…笑ってしまったわ…あ、そうだ、私エイミにも会いたい!」
「部屋の支度をさせている。会いたければ行け」
「ふふ、ありがとう!じゃあニィノ義兄さま、またあとで!ジル、ちょっとエイミとお話ししてくるわね!」
「ああ、いってらっしゃい」
ジルベルトはひらひらと手を振り、にこやかにリディを見送った。
「なぁ、フィリオ。これくらいスマートに見送る度量も、時には必要だと思うよ」
「黙れ。俺はお前たちとは違う」
「まぁ、そうだけどさ」
ジルベルトがにこりと微笑みかけてくる。
とりあえずフィリオといい、リディといい、ジルベルトといい…みんな顔面偏差値が高いな。
「リディって、エイミと知り合いなのか?」
「そうだな。あいつは拾ったばかりのエイミに作法やら話し方やらを熱心に教えていた。エイミがきちんと生きていけるよう、特訓したらしい。そのせいでエイミはだいぶリディに感化されているようだ」
「そういえば、話し方とか似てるかも」
と、いうか…
「拾った?」
「…。あとはエイミに聞け」
「あ、うん」
エイミとイルも複雑なのかな。
身寄りがない、って言ってたし。
そんなことを考えていると、ぐい、と顎を上げられた。
「お前が俺以外のことを考えるのは腹が立つな」
「あ、ご、ごめん」
「ふん」
「あーあ…フィリオ、君って奴は本当に不器用だなぁ」
「…。ジル、貴様はさっさとゲストルームへ行け」
「はいはい、お邪魔虫は退散するとしよう」
ジルベルトは立ち上がり、「またあとでね」と言って去っていった。二人きりにされて、しかも距離が近いからクラクラする。
「…足りなかった」
「た、足りないって、何が」
「お前が」
「え。な、なに、んむっ?!」
突然キスをされ、驚いて目を見開く。
舌で唇を舐められ、最初はどうしたらいいか分からなかったけど…おそるおそる口を開くと、満足そうにフィリオが微笑んだ。
ほんと…いつでも唐突だ。
後頭部を押さえられながら、密着して、舌を食まれたり、吸われたり…その熱さに酔うように、俺は目を閉じた。
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