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27、守りたい、という気持ち

「う…」 ゆっくりと目を開ける。 テオが突然現れて、それでいきなり抱きしめられて、キスされて…それから、どうしたんだっけ。周りを見回す。少なくとも見知った場所ではないようだ。 俺はどうやらベッドの上に寝かされているらしい。体は自由に動く。縛り付けられたりはしていないし、力も入る。 ぼやける頭を叱咤しながら起き上がる。 簡素で狭い部屋…窓は高い位置にあって届きそうにない。扉は1つ… 「ニィノ、目が覚めたんだな」 「!テオ」 そしてその扉から、俺を「助ける」と言ったテオが顔を出した。 「狭いところでごめんな。でも結界を張ってあるから、いくらヴィーデナー家の当主でも此処は分からないよ」 「テオ、一体どうしてこんな無茶したんだ…」 「言ったろ?助けるためだ」 「…」 助ける、って言っても… 俺はフィリオへの気持ちを自覚して、出来るだけ長く一緒に居たいって願ったばかりだったのに。 「でも、俺…」 「?」 気を失う前の光景を思い出すと、伝えるべきかどうか迷ってしまう。きっとテオにとってフィリオは俺を買って酷いことをしてる奴、なんだろう。誤解だって言っても、信じてくれないかも。また暴走して、体が動かなくなっても困る。 「あ、あのさ、聞いてもいいか?」 「うん?何だ」 「テオと話してるとき、体が上手く動かせなかったんだ。どうしてだ?」 「ああ、そのことか。俺の魔法は」 「…っ」 肩に手を置かれる。 すると、突然体が重たく感じられた。 「俺は、"眠り"を司る精霊と契約をした」 「眠り…?」 「そうだ。相手に触れることで、体の機能を鈍らせることができる。より広範囲に深く、長く触れることで効果は大きくなっていく…こんな風に」 抱きしめられ、どんどん体の自由がきかなくなる。つまり、触れられると体が眠りに落ちるってことか。厄介だ。 「じゃ、じゃあ、テオに触られると、みんな眠くなるってことか?」 「魔力を込めなければ、な。制御は出来てるから、普通に触れる分には問題ないよ」 「…キ、キスしたのも、眠らせるため?」 「ああ。でもキスをしたのは、俺がニィノのこと、好きだからだよ。誰にでもするわけじゃない」 「そっか…、…、…え?好き?」 好き? 好きって? 好きだからキスをする… それって友人の域を越えてないか? 「俺たちって、友だち、だよな?」 「…そうだけど、でも俺は、」 違和感を感じて、困ったように眉を寄せるテオから少しだけ体を離す。好きだったら何をしてもいいのか?俺の意思は関係なしなのか? テオの言葉が続く前に、また扉が開いた。 そこには、やや長身の男性が立っていた。腰まである長い茶の髪…眼鏡をかけていて、何だか医者か、研究者のような雰囲気だ。 「ああ、テオ、良かったですね。君の大切な人は無事に救い出され、目も覚ました。大成功といったところでしょうか」 「ええ、まぁ…そうですね。でも、この印をどうしたらいいのか」 そう言いながら、テオは俺の左手を優しく持つ。薬指にはフィリオが刻んだ隷属の印があるから、おそらくそのことを指しているんだろう。 「テオ、この人、誰…?」 「協力者の人さ。俺だけじゃニィノを助け出すことが出来なかったから」 「初めまして。私の名前はエリアーシュ。テオの気持ちに賛同して手助けをしている者です」 「はじめ、まして…」 「ヴィーデナー家の当主はきな臭い噂が多いものの、魔力の高さは流石と言わざるを得ない…赤を宿す者を欲していたとは知りませんでしたが、隷属にして縛り付けるあたり、余程手に入れたかったんでしょうね」 じ、と眼鏡の奥から射抜くように見られて、だいぶ居心地が悪い。 何というか、エリアーシュと名乗った目の前の人物は…店の主人とか客のように、俺のことを"物"として見ているようで、嫌だ。 「エリアーシュ、解く手立てはないのか?」 「解呪が得意な者を探しましょう。ヴィーデナー以上の魔力持ちと言うと、少し時間がかかりそうですが」 「頼む」 「ああ、それと、その子と一緒に連れてきた少年はどうしましょうか。『奥方様に会わせてください!』とうるさいのですが」 「えっ!それって、もしかして…イル?!」 「ニィノを連れていこうとしたら、急に走ってきて取り戻そうとするから…一緒に連れてきたんだ」 気を失う前に見た人影はイルだったのか。 連れてこられて、それで、捕まってる? 俺のせいで? 「な、なぁテオ…」 「そんな心配そうな顔するなよ、追っ手が来ても、絶対守るから」 「違う、そうじゃないんだ。そもそもフィリオはそんなに酷い奴じゃないし」 「可哀想に。そう思わされてるんだな」 「えええ…」 話が通じる気がしない。でもどうにかして誤解を解いて、此処から出たい。フィリオのところに帰りたい。 それにはまず、イルと合流することが先決だろう。

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