ダメ元でテオに「イルに会いたい」と伝えるとあっさり許可が降りた。テオの基準が分からない…何を考えているんだろう。 「イル…！」 「奥方様ぁぁあ！良かった！ご無事だったんですね！怪我はされていませんか？！」 「うん、大丈夫だ。それより、ごめん…俺のせいで」 「奥方様は悪くありません！」 「そうだよ、ニィノは悪くない」 「え、ああ、うん…」 後ろにテオが控えていて、相槌を打っている。というか、イルが言うのは分かるんだけど、なぜ拐った張本人のテオが言う… 「奥方様を屋敷に帰してください！」 「帰す？ダメだ、あんなところに帰せるもんか。どんな酷い目に合わせられるか分かったもんじゃない」 「旦那様は！…旦那様は、まぁ、怖いですけど、でも奥方様に酷いことはしません！」 「ニィノ、そんな怖い奴のところになんて連れ戻させたりしないからな」 「奥方様は旦那様に嫁がれたんですよ！結婚している人を拐うなんて、あなたにもどんな罰が待っているか…！」 「そんなもの気にしていられない。ニィノの安全さえ守れるなら、俺は何でもする」 「今この瞬間が安全じゃないですよ！拐うような人に安心して任せられません！そもそもあなた誰ですか？！」 「俺はニィノの、…友人だ。店にいた頃から、ずっと守りたいと思ってた。それなのに突然大金を積んでニィノを拐った奴がいるんだ」 「いや、それは正規の手順踏んでるじゃないですか！旦那様はきちんとお金支払ってますし！」 「金で買って縛り付けるなんて許されない」 「でも、でも…」 「俺はニィノに幸せになってほしいんだ」 「うう…あなたが奥方様に危害を加えようとしてるわけじゃないことは何となく分かりましたけど…、でも、ダメです！」 俺を置いてどんどん会話が続いていく。 俺はどうしたら。 「あ、あのさ、テオ」 「ん？何だ、ニィノ」 「とりあえず、テオは俺のことを守ってくれようと、してるんだよな」 「そうだよ。ニィノを守ってみせる」 「イルも俺のこと守ろうとしてくれてるんだけど…その、イルだけでも帰してやってくれないか？」 「奥方様？！」 イルと一緒に逃げる、という計画を考えていたけど、見ると、イルはかなりガチガチに拘束されているのが分かった。到底逃げられそうにない。 というか、手足が縛られていて芋虫のようにされているのにテオに啖呵を切れるんだから、実はイルは強心臓の持ち主なのかもしれない。 「…それはダメだ。こいつを逃がしたらニィノの居場所を話すだろ？」 「え、じゃあずっとここに捕まえておくのか？」 「そうだな」 「…可哀想だ。そんなの、昔の俺と一緒じゃん」 「…！ニィノ」 しゅん、とした表情でテオを見ると、少しだけ動揺したようだった。言葉は嘘じゃないけど、ちょっとだけ演技が入ってる。下手くそだけど、もしかしたら揺らいでくれるかもしれない…という淡い期待を込めながら。 「…。場所を移るときに、どこかに逃がしてもいいけど」 「本当か？！」 「どうせ此処には長居するつもりはなかったんだ。だから、いいよ」 「ありがとう、テオ」 「奥方様！ダメですよ！逃げるときは一緒です！」 「…ごめん、イル」 俺に優しくしてくれた人たちに迷惑をかけたくない。逃げたいと思うなら、自力でどうにかしないと。 テオに促され、俺はその部屋を出る。 後ろから聞こえた声には、振り向かず。