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31、それは執着にも似た願望(テオ視点)
俺がニィノに出会ったのは、13の時。
それから7年…ずっと好きだった人だ。
俺の家はそれなりに名のある血筋だったけど、それが煩わしくてたまらなかった。でも当時は飛び出す勇気がなくて、ただ生きているだけ、という状態だった。
でもしがらみのない自由な世界への憧れは消えなくて、俺はたびたび町の"闇"の部分である場所に足を運んだ。そのことについては、親はたぶん、ヒヤヒヤしていたんだと思う。俺の心配じゃない。家名に傷がつくのが嫌で。
だからか、「そんなに外に出たいなら、働いてみろ」と親の息がかかった店を勧められた。俺はとにかく外の世界の刺激がほしかったから、それに飛び付いた。
今思うと、結局親の手の中だったのにな。
でもそれはそれで良かったのかもしれない。だって、俺はそこで、大切な存在に出会うことができたんだから。
**
名家の血筋という後ろ楯を使って、俺は店で比較的自由に動くことができた。
「…、…っ、…ひっく」
「…!」
客を取る部屋を何ともなしに歩いているとき、泣き声が聞こえてきた。この時間にはもう客はいないはず。そうすると…売られてる子か?
おそるおそる中を覗くと、小柄な少年が布にくるまって泣いていた。
「…大丈夫か?」
「!!あ、ご、ごめんな、さ…っ」
「え。いや別に謝らなくても」
「ごめんなさい…ない、泣いて、ない、です…ごめんなさい…」
「…」
怯えながらひたすら謝るその姿に、胸が痛んだ。店の主人は"商品"が逆らうことを許さない。きっと、泣くことも。
「あのさ、俺は酷いことしないよ」
「…?」
「ええと、だから、その…」
震えるその子に近付き、ぽんぽんと頭を撫でてやる。なるべく安心させてあげたい。
赤い瞳が、不安そうにこちらを見つめてくる。その妖しさに、ドキッとした。
ニィノは俺より年下だし、守りたいって気持ちが強かったんだと思う。
「大丈夫だよ」
「…っ、う…」
「泣いても大丈夫だ。誰も見てない」
そしてその日、ニィノが泣き止むまで一緒に居た。よく覚えてるよ。
それから、俺はことあるごとにニィノと接触するようになった。他愛ない話がほとんどだったけど、それでも楽しいと思った。怪我の治療もしたし、慰めてもあげた。
"友だち"という地位を得るくらいには、ニィノは俺に心を開いてくれた…そのことがとても嬉しかった。どんどんニィノに溺れていくのが分かった。そして、次第にニィノを買う客に憎悪が募った。ニィノをぞんざいに扱う奴、酷い暴力を振るう奴、心ない言葉でなじる奴…。
俺だったらそんな目にあわせない。
ひたすらに甘やかす。
それに、触れたいし、キスも、その先も…客のように酷いことなんてするもんか、絶対大切にする。何度も何度も、想像の中でニィノをどろどろになるまで甘やかして、それで、
「俺のこと好きになってほしいな…」
いつしか執着にも似た想いを持つようになった。それから俺は、ニィノを自由にするために動き始めた。名家の地位をフルに利用して、主人と交渉をしたし、親にも頭を下げて何とか金も工面した。
ニィノは年々弱っていったから、早く助け出してあげたかった。
それなのに。
「…、買われた?」
「ああ、その…まぁ、仕方ないよなぁ…あれだけ金を積まれちゃ…」
「何で!俺がニィノを自由にするって言っただろ?!」
「そうだけど、うん、まぁほら、自由にはなったじゃないか」
「…っそんなもの、自由でも何でもない!」
虚しい叫び声だけが、店に響く。
ニィノはもう、居ない。
廊下を足早に通り抜ける。
ニィノはしばらく目覚めない。今担いでるこいつも魔法を使えば無力化できる。問題ない。店に居た頃から懇意にしていたエリアーシュも、力を貸してくれる。
ニィノは絶対、自由にしてやるんだ。
俺はただ、それだけを願ってる。
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