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34、願いへの答え

たくましい腕に抱えられながら、俺は状況が理解できなくて混乱していた。 俺はテオに拐われて、イルも一緒に拐われて…それで、イルのことは解放してあげてほしくて、でもやっぱり「フィリオのところに帰りたい」って言ったらテオにまた眠らされて… 諦めてたんだ。 フィリオがもしかしたら俺のこともういらないかもって考えて、悲しくなって、もうテオに付いていくしかないって…そう思ったのに。 ちらりとフィリオの顔を見る。首もとに腕を回しているから距離が近くて、こんな時なのにドキドキしてしまう。 「…、フィリオ、なんで、ここに」 「舌を噛むぞ。喋るな」 「でも、」 それでもなお言おうとすると、フィリオはスピードを落とし、立ち止まった。 後ろを走っていたイルも足を止める。 「ニィノ、お前は何がそんなに不満なんだ」 「え」 「俺に助けられるのは不服か?」 「いや、そうじゃなくて、何で来たのかなって…」 「なぜ、だと?」 俺の言葉でフィリオは機嫌を悪くしたらしい。眉間に皺が寄っている。 「お前が拐われて、俺が助けに来るのは当たり前だろう」 「…それは」 どうして?とは、聞けなかった。 だって、フィリオが俺のことをどう思っているのか分からない。助けに来た理由なんて、怖くて聞けない。 …期待して裏切られるなんて嫌だ。 「ニィノ、お前は」 フィリオが何かを言おうとした瞬間、突然爆音が響き、光が辺りを包んだ。そして、俺の体がふわりと宙に浮く。 宙に浮く? 「えええっ?!」 「…っ、何だ?!」 いつの間にか俺は、"半壊"した建物の2階部分に居た。っていうか外見えてるし。後ろを振り返っても、建物は無惨な姿で…足場も崩れそうだ。 「フィリオたちは?!」 慌てて下を見ると、フィリオとイルは無事だった。二人の周りは綺麗な円形に焦げている。もしかしたら障壁の魔法を使ったのかもしれない。 「ニィノ!無事か!」 「だ、大丈夫…!」 ホッと胸を撫で下ろす。 どうやって下に降りようかと、じっと下を覗く。いや、無理、高い。怖い。 「ニィノ」 「え」 情けない顔をして下を見ていると、高いところから声がした。振り向くと、そこにいたのは… 「…テオ」 「ニィノ、大丈夫か?ほら、手を伸ばして…こっちに」 「え、でも…」 ちらりとフィリオを見る。 うわ、さっきより不機嫌。 「あいつは誰だ」 「奥方様を拐った人です!」 「あいつが…そうか」 フィリオの周りが冷え込んでいくのが分かる。 このままだとテオの身に危険が及ぶような…。 「ニィノ、そんな奴のこと気にするな。お前のことなんて考えてない…お前を金で買うような奴だぞ!」 「ふん、なるほど。そうやってそいつに唆されたわけか」 「唆されたわけじゃ…」 「ニィノ、大丈夫、俺が必ず逃がしてあげるから。自由にするって約束するよ。お前のことを虐げる奴なんて、必要ない。離れた方がいい」 「…」 どうしたらいい? 俺は、俺が望むのは… 「ずいぶん好き勝手なことを言う…、おい、ニィノ!」 「!」 「お前が例え助けに来てほしくなかろうと、そいつに付いて行きたかろうと、関係ない!俺はお前を連れ戻すためなら手段は選ばん!」 「な、なんで」 「なんでなんでと…どうして疑問に思う必要がある?!お前は一体俺を何だと思っている!」 「だって、俺は…!フィリオに買われてっ」 「お前を自由にするために金を使った!それの何が悪い!」 「俺のこと、どう思ってるか、分かんないし…っ!金で買われたら、玩具か何かにするのかって…!それに、これっ」 左手を見せる。 そこに刻まれてるのは、明らかな隷属の証。 「奴隷扱いなのかって、思うだろ?!」 はぁはぁと息があがる。 今まで伝えたことのない、閉じ込めてきた言葉が溢れてしまう。抑えることなんて無理だ。 「……そうか、お前はずっと、そう思っていたのか」 フィリオが俯く。 俺はもう、フィリオの元には、帰れないのかな。こんな風に面倒な奴、いらないかな。 フィリオがゆっくりと顔を上げる。 「この際、はっきり言っておく!」 「…何、を」 「俺は玩具のお前も、奴隷のお前もいらない!」 「…っそれなら」 俺も、いらない? そう続けようと口を開いた瞬間、フィリオが両手を大きく開いて、こちらをまっすぐ見つめて、 「何の肩書きもいらない!お前は、お前のままで俺のそばに居ろ!理由が知りたいか?俺がお前のことを、…心から愛してるからだっ!」 「…っ?!」 「何も考えず、俺の元で俺に愛でられていればいいんだ、ニィノ!お前を世界で一番幸せにしてやる!…だから、来い!」 たくさん、たくさん思うことがあって、考えることも悩むこともあって、でも、その言葉を聞いてすべて吹っ飛んだ。 俺は、迷わずフィリオの方へ足を踏み出し… その腕の中に飛び込んだ。

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