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36、戻ってきた日常
「痛みはないか」
「ん、大丈夫。どこも痛くない」
「まだ頭がぼやけているか?」
「いや…いつも通りだと思う」
「気分は悪くないか」
「だ、大丈夫」
「それから…」
「フィリオ、それくらいにしておいてあげなよ」
フィリオに詰め寄られて困惑していると、ジルベルトさんが話を遮ってくれた。
「心配なのは分かるけど、ニィノくんは心労が溜まっているんだし、質問もほどほどにした方が良くないかい?」
「分かっている」
「いやいや、分かってないから止めたんだよ」
「…」
フィリオが俺を抱き抱え、丘の上まで運んでくれた。上の方からだと、囚われていた場所がよく見える。結構大きな屋敷だったみたいだけど…半壊してるし、通らなかった入り口付近は流砂っぽいものがたくさんあるし燃えてるし、巨大植物の蔦らしきものもうごめいていた。怖い。
そういえば、イルはエイミと合流するって言って抜けたけど…大丈夫なんだろうか。
「エイミとイル、大丈夫かな…」
「あの二人は強い。心配は無用だろう」
「そう、なんだ。…でも…」
「大丈夫さ、エイミはきちんと帰ってくるよ。相手さんはほとんど僕が砂に落としてしまったからね」
「あの流砂って、ジルベルトさんの魔法なんですね」
「そうだとも」
「ジルベルトさんって、ああいうのも作れるんですね。すごい…」
「ちょっとした応用だね。僕の属性は"土"だから、あんな感じに巨大蟻地獄を作ることもできるのさ」
「なるほど…」
じ、と下を見ていて、ふと振り向くと目の前にはフィリオの顔。あまりの近さに、さっきからドキドキしっぱなしだ。
「フィリオ、もう…降ろしていいって」
「ダメだ」
「な、なんで」
「お前は目を離すとすぐにどこかへ行ってしまうからな」
「俺が自分でどこかに行ったことないけど」
「ああ、そうだな。お前は自然と他者を惹き付けてしまうから仕方ないが、……いや、やはり屋敷に繋いでおいた方がいいか…」
何やら不穏なことを呟きながら、フィリオが俺をぎゅうと抱きしめる。近い。近いってば。
というか、さっきも、あ、あい、愛してる…って、言われたし、俺のそばにいろって言われたし、もう色々と幸せすぎてショートしてしまいそうだ。
「お前にはこれから存分に俺からの愛を受け取ってもらわないといけないな」
「もう充分もらってる、けど」
「いいや、まだ足りない。足りないからお前は、玩具だの奴隷だの言い始めるんだ」
「…う」
だってそう思うじゃないか。
思わない方が不思議だ。
そもそも俺がフィリオを信じきれなかったのは、隷属の印を刻まれたからで…、そうだ、この印って、結局何で付けたんだ?
「あのさ、この印って…」
「奥方様っ!!!」
「わぁっ?!」
誰かが猛烈な勢いで抱きついてきた。いや、もうこれ突進の域な気がするんだけど。かろうじてフィリオは踏みとどまってくれた。良かった。
「ぐ、…エイミ、お前は加減というものを」
「奥方様ーっ」
今度はフィリオの後ろから突進する影が1つ。俺とフィリオは二人…エイミとイルに挟まれる形になった。
「ははは、君たちは仲がいいね」
泣きまくるエイミとイルと、笑うジルベルトさんと、不機嫌だけど邪険には扱わないフィリオ…
ああ、俺は帰ってきたんだなって、改めて感じた。
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