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37、好きだからこそ
その後、特にトラブルもなく…
無事、屋敷に帰ってきた。
俺が捕まっていたところに居た人たちは、ほとんど拘束されたらしい。人数はそれなりにいたようだし、強い魔法を使ってくる人もいて、組織立った動きもしていたんだとか。
でも錯乱系の魔法をかけられていただけのようで、自分が誰に仕えていたのかも知らない…とのことだった。
「…そうなんだ」
自室で話を聞きながら、改めてとんでもないものに捕まっていたんだと気付いた。
ベッドに腰掛け、俯く。
こうして五体満足でいられるのが奇跡のような気がした。
「テオバルト・アルヴィエ」
「え?」
「お前を拐った奴の名前だ」
「…も、もしかして、テオのこと?」
「そうだ。あいつは貴族の家出身らしいな」
そういえばフルネームを聞いたことがなかった。だって、あんな店で働いてたテオが、まさか名字が持てるくらいの名家出身だとは思わないじゃないか。
「エリアーシュって人は?」
「分からん。本名なのか偽名なのか…結局尻尾を掴むことができなかった。そいつが周りを操っていたのかもしれないな」
ゆっくりと首筋を撫でられる。
何だかこんな風に触れられるとくすぐったい。それにドキドキするし。
「…。ニィノ」
「な、何?」
首をかしげながらフィリオを見ると、ゆっくりと顔が近付いてきて、壊れ物に触れるかのように、そっと口づけをされた。
「フィリ、オ…?」
「おかえり、ニィノ」
優しく微笑まれ、顔に熱が集まる。
そういえば…いってらっしゃいとか、おかえりなさいのキスをする時、ぎゅっと目をつぶりながらしていたから、こんな風にまじまじと見つめながら…っていうのは初めてだ。
もしかしていつも、フィリオはこういう表情だったのかな。
「た、ただいま」
「ああ」
「…っ」
何だか胸がいっぱいになって、たまらない気持ちになって…それで、俺もいつものように唇を重ねる。フィリオは驚いたみたいだったけど、優しく抱きしめてくれた。唇をゆったりと舐められ、意を決して口を薄く開く。口内に舌を招き入れ、目を閉じてフィリオの舌を感じる。絡めたり、吸われたり、弱いところをくすぐられたり…気持ち良さに酔ってしまいそう。
唇が離れ、名残惜しげに2人の間を銀糸が伝う。この幸せな気持ちをどうしても伝えたくて、ぎこちないかもしれないけど、微笑み返した。
「おかえり、…フィリオ」
「…。お前というやつは」
どさり、と後ろに倒される。
「可愛い奴だな」
「そ、そんなこと、ない…けど」
「俺が可愛いと言っているんだ、素直に受けとれ」
相変わらず横暴だけど、そんなところも含めて好きなんだからどうしようもない。
「捕まってる最中、妙なことはされなかったか?」
「大丈夫…眠らされただ、け…?」
「大体、どうやって眠らされたんだ。お前の体を包むように魔法はかけられていたようだが」
「えっと」
「まぁ、俺の魔力で上書きしてやったがな」
「そうなんだ」
「それで? どうやって?」
「…触れる部分が多いほど深く眠るって言ってたかな」
「ほう。どこまで触れられた?」
「ええと…どこまで…、肩は、まぁ、触られたかな」
「あとは?」
「…抱きしめられた、かな」
「それで?」
「…キ、キス、された」
「…。」
「……ぬ、脱がされてはいないからな!?少なくとも、起きてるときは、他には何も…!」
「ニィノ」
「なん、うわぁああ?!」
押し倒されている状態から一変し、今度はふわりと体が浮いた。足が地から離れる感覚はいつまでも慣れない。
って、これさっきと同じ状態だ!
「何でお姫様抱っこ?!」
「行くぞ」
「どこに?!」
答えることなく、フィリオがつかつかと歩き、足で扉を勢いよく開ける。行儀が悪い。
「イル!準備はしたか?!」
「あ、旦那様。はい、もういつでも入れますよ」
「よし」
何が何だか分からないまま、俺は連行された。テオとやってることはほとんど変わらないのに、フィリオだと安心できるのは何でだ…あれか、好きだから…?
自分の気恥ずかしい考えに赤面しつつ、俺はそっとフィリオの胸に顔をうずめた。
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